42
ミネルヴァは続けて聞いてきた。
「ところで、リデルのお母様が例の王族だって話は、世間的に広まってるもんなの?
私の知る限りでは、そういった話は聞こえて来ないんだけど。」
ミネルヴァは、リデルとその母親の血筋の話が広まると、トラブルになるのではと心配しているようだ。
「お父様との婚姻のときには、お父様の遠い縁戚の方に頼み込んで、養子縁組をお母様と結んでもらってたみたい。
世間的には、お母様はお父様の遠い親戚の女性ということになってるの。
そこをつついても何も出ないと思うわ。
まあ、調べた人は、お母様がただの平民で、美貌に惚れ込んだ父が無理に貴族の体裁をとらせたな、と思うでしょうね。
現状、広めないほうがいい話なので、魔力の話と共に今後も外では口にしないことになってるわ。」
「なら良かった。
…あのね、リデル。
あなたの気持ちの方なんだけど。
気持ちはもう落ち着いたの?」
ミネルヴァが聞くと、リデルは「残念ながら全然。」そう答えるのだった。
「私、いい人を演じすぎてしまったわ。
本当は心中荒れ狂って、どうにかなりそうだったのに。
相手の女性を応援してしまうなんて。
未だにそのことを考えてしまうと、苦しくて仕方なくなるの。」リデルはそう話した。
そう話しながら、口には出さなかったが、以前から心中で考えていることが思い浮かんで来るのだった。
それはステータスボードにあった、自分のスキル「説得」についてだった。
そう、もしかしたら…
ジェイド様は、魅了の力なんかではなく、本当に私を愛していたのかもしれない。
それが、私が、魅了の力によるものです、そう説明したら魅了から解けるから私への気持ちは無くなりますよ…と、
そうジェイド様を説得してしまったのではないか…
そして、あげくは彼女に向かうようにうながしてしまったのではないか…
彼からは、本当に愛されていたのに、その心を自ら失う真似をしでかしてしまったのではないだろうか…
そう考えるたびにひどく後悔する思いを感じるのだった。
もちろん、彼のとっていた行動や発言などを客観的に思い出してみたら、彼はやはり自分ではなく彼女のことを愛していたのだろう、ということは、わかるのだ。
ただ、それがわかっても、また本当は自分は愛されていたのではないか、という思いと後悔に飲み込まれてしまう。最近はずっとその繰り返しだった。
しかし、ミネルヴァの前では、口に出してはこう言った。
「魅了の力をはねかえした話さえしなければ、未だにジェイド様とは婚約者でいられたかもしれないって、時々そう思うの。」
「リデル、前に話したときには、婚約は解消したいって言ってたのに。」
「…そう。あの人は私の中身を愛していない、あの人の心は私には無い、そう思っていたから。
でも本当は愛はあったのかも、なんて考えたら…
もう考えが堂々巡りしすぎて、そこから抜け出せないの。」
「…やれやれ。端で見ていて思うには、彼に言いがかりつけられて、絡まれて、迷惑こうむっただけのように見えるんだけどな。
私、きちんと誰かと恋愛したことなくて、婚約とかもしてないから、リデルの話がよくわからないところあるんだけども。
一つ思うには、なんかジェイド様とリデルは、お互いに本音を出してないカップルだなあって思ってたの。」
ミネルヴァはリデルの目をはっきり見ながら言った。
「私が平民出身だからこう考えるのかもしれないんだけど、本音を言わない、言えないでいるカップルって、長続きしない感じする。
人生長いからどっかで無理出そう。
リデル、彼と別れたのは、良かったんじゃないかと思う。」
次回が最終話となります。




