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いつの間にかもう昼食の時間になっていた。学食に行こうとしている友人の後ろ姿を発見して、後ろから腕をとった。
「ミネルヴァ、話があるの。良かったらお昼を一緒にしてくれない?」
茶の目、茶の巻き毛の彼女が振り向いた。
ミネルヴァは元平民で裕福な商人の家の娘だ。家は最近、男爵となった。下に弟がおり本人は商売の方でも跡取りではない。
同じ男爵家の自分も、上に母親の違う兄がいるので跡取りではない。
兄は学生は卒業しており、父から家督を継ぐまでは、貧乏貴族に足を突っ込みそうな我が家の家計の足しなのだろうか、帝都で働きに出ている。
ちなみに先妻である兄の母親は兄が幼い頃に亡くなり、自分は後妻の娘である。
自分は家計のことを考えたら、学園に通わせて貰えただけでも御の字である。
ミネルヴァとはなんとなくうまが合う感じで、友人になってもらっている。向こうの方が裕福で金銭感覚は向こうの方が派手だが、彼女はあっけらかんとした性格で、そのことでこちらを見下したりしない女性だった。
どちらも高位の貴族ではないという立場が似ており、好みのタイプの男性の話などを良くしていた件も、友情に拍車をかけたかもしれなかった。
「なあにそれ、あなたそんな言いがかりつけられたの?大勢人がいる場所で。しかもまだ婚約者はいない状態なのに。」ミネルヴァは話を聞くなり言った。
「それに、あなたショックなんじゃない?ずっとファンだったんでしょ?
そのせいで強く言い返せなかったんじゃない?そこはふざけんなって言うところでしょう。」
「ううん、向こうの方が高位の貴族だから、はっきりそう言うとまずいことになるわ。
冷静だったとしても同じような対応になったと思うの。」
「ていうか、リデルさあ。もうジェイド様のファンやめたら?
リデルが好きだから言わないようにしてたけどさあ、色んな人から、彼は性格悪いって話聞いてるよ。
ま、言ってるの男ばかりだけど。」
「うん、そうした方がいいよね。」うなづきながら思い出すのは、ジェイド様がこちらを軽蔑し、嘲るように見ていた顔だった。
自分が想いを寄せていた時の爽やかな笑顔とは、あまりにも違うその表情。
なぜここまで嫌われなくてはならないのか。
そのことを考えると胸が締めつけられそうだ。
「リデルはかわいいから、その気にさえなればすぐに婚約者は見つかるわよ。」ミネルヴァはこちらの表情を見て慰めるように言った。
「今日みたいなことがあったりしたから、妙な噂が立つでしょうね。それでも見つかるかしら。」
「あら、見つかるわよ!だってあなた、恋愛小説でいうヒロイン風の容貌じゃない、もろに。」
自分は黒い髪に黒い目なので色目は地味であるはずだ。ただ、甘い容姿はしているかもしれない。
少女向けの恋愛小説のヒロインみたい、とは、他からも言われたことがある。自分はなんとなく外見がぽやっとして見えるのだ。
砂糖菓子に粉砂糖でもかけたような、胸が悪くなりそうなほど甘すぎるような容姿とでも言おうか。
目はくりくりっと大きく光が入っており、まつ毛が長い。夢見るような表情をしていると言われることもある。
ただ口をきくとまともに応答するのでイメージとのギャップで驚かれることも多い。
帝都で働いている兄からは、男の前ではとにかく口をきくな、とにかく馬鹿っぽい感じでいろ、その方が男を落とせると意味不明な助言をされたこともある。
そのまま金持ちと縁を結んでくれたらありがたかったのだろうが、自分は残念ながらそこまで異性と気軽に話す性格ではなかった。
ましてや学園で誰かと交際に持ち込めるわけでもなかった。