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「ジェイド様…その思いは…」
リデルは言いながらふところから小さな赤い宝石を取り出した。
イヤリングに見えるが対ではなく、金の鎖がついたものだ。
「こちらは?」
「これはお守りです。精神支配系の魔法をはね返す効果があると言われております。
私は幼い頃からこちらを身に着けておりました。
そう、ジェイド様と海賊ごっこをして遊んで頂いた時も、学園で初めて話しかけて頂いた時も、こちらを服の下にしのばせておりました。」
「それが、今の話に何か関係があるのか?」
リデルはうなづいた。「ジェイド様の家系には、大貴族の血が流れている、そうお話いただきましたよね。
大貴族といえば魔力の持ち主です。
ジェイド様のヴァンダル伯爵家には、代々カリスマ性のある人物があらわれると…
歴史書に系列の大貴族には魅了の力の持ち主がいた、とされています。」
「うむ、よく知っているな。私の家系について、話していないことも、詳しく学んでくれていたのだな。」
リデルは続けた。
「私は、ジェイド様は、魅了の力の持ち主なのではないかと思っております。」
ジェイド様は話の成り行きが突然変わったことに、怪訝な顔をしている。
「ジェイド様は学園にとどまらず、いろいろなところで大人気ですよね。私、以前からひそかにファンだったんですよ。
一度くらいは、ご挨拶したいと思っていたんです。」
リデルはそう言って微笑んだ。
そう話しながら、これまで二人で過ごしたことを思い返しはじめると、幼い頃から彼へ憧れ続けてきた思いが、まざまざとよみがえってきてしまったのだった。
彼はこちらの思惑がまだわからず、怪訝そうな顔でこちらを見ているままだ。
…今なら引き返せるわ。今なら。
あれを、あのことを口にしなければ…
彼と婚約したままでいられる。
憧れた彼と結婚して、夫婦になって…
かわいい子供ができたりして。
怒られながらもミネルヴァとこっそり会って。
…そのうち仕方ないな、なんて許してもらえるようになったりして。
うちのお父様、若い頃は他につきあってる人いたのよね~なんて、お母様みたいに、自分の成長した娘に話したりして。
お父様お母様みたいに、仲睦まじい夫婦になるの…
ジェイド様と。
そうしようかな…もう…
ふっとミネルヴァの言葉が頭に響いた。
「これって偶然じゃなくて必然かしらん…」
…必然…街に、あの日出向いて、知らなかった話を聞いたことは、必然…
運命の相手…
真実の愛…
リデルは震える手でお守りとやらを強く握りしめた。




