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「そしてその素敵なジェイド様は、私のような平民あがりの者とあなたが友人でいるのを嫌がるのよね。」
ミネルヴァはリデルに苦々しい口調で話した。
「私ね、リデルが伯爵家との縁談が決まりそうだから、たかが男爵家で少し前まで平民だった私とは、もう縁を切ろうとしているのかと思っていたのよ。
それで私の手紙へ返事くれないのかと。
でも、あなた自身は違うのね。
ただ、婚約者のジェイド様は、そのつもりでいるのよね。」
壁際に控えていた護衛のレベラが、リデルに発言の許可を求めてきた。
リデルが驚きながら許可すると、レベラはおずおずと口を挟んだ。
「以前のことですが、お話にあるジェイド様が、リデル嬢にふさわしくない友人ミネルヴァ様とは縁を切らせるようにしてくださいとリデル様のご両親様にお願いしていたのを聞いたことがあります。
彼の言い分はこんな感じでした。
…リデル嬢が私の妻となった時に、男爵家育ちの奥様のご友人は、身分が低い者がいるのですね、などと陰でそしられるのを避けたいのです。
自分は手紙まではリデル嬢にはやり取りをやめろとは言わなかったのですが、ご両親様の方で手紙などリデル嬢に取り次がないようにしてください…
…そんな感じのことを、彼は話されていました。」
「そんな!聞いてないわ!」リデルは立ち上がった。
「そか、あなたに私からの手紙届かないようになってたんだ。
娘の縁談のためですものね。仕方ないわね。」ミネルヴァは疲れたように言った。
「待ってよ、そんな言い方…
私は友人を失うの?」
「結婚するんでしょ?彼と」
「そんな!いいえ!
友人との縁を切らせようとする方となんて…
私は、彼とは最初から住む世界が違ったんだと思うわ。
そもそも友人関係に口出しして縁を切らせてしまわなければ結婚できないような女性なんて、彼だって結婚相手に選ぶべきじゃないわ。
それに、彼には愛する人だっているのよ!」
リデルはジェイド様が結婚を考えていた女性がいた件を話した。
「うーん、それっていつのこと?」
リデルがなんのことかわからないという顔をしているので、ミネルヴァは重ねて聞いた。
「あなたと出会う前に、もう終わった相手なんじゃないの?」
「なぜそう思うの?」
「いえね、同時進行していたのなら、状況だけなら、天秤にかけてあなたを選ぶ理由が確かにわからないわ。
突然あなたへの恋に落ちたのかもしれないけどね…
その話は、本人に確認する必要があるわね。
あと、リデルのご両親にも話したほうがいいわよ。
向こうの土俵だけで話すと、向こうの都合の良いように言いくるめられてしまうかもしれないわ。」
「…確かにそうね。」
自分との婚約時にその彼女とすでに別れていたのなら、心にモヤモヤが残っても、婚約については問題とはならないだろう。
他に彼に特別な思惑が無いのならば。
リデルはため息をついた。
ジェイド様への気持ちはまだあるのだが、人格を否定されるような扱いをされているような感じもあり、
色々裏切られたような思いがあるため、婚約を継続するのはやめたいという気持ちになりつつあった。
ただ先方が了解してくれなかったらどうしよう。
また自分の今後の縁談も、さっぱり無くなりそうなので、こちらの両親もいい顔をしないかもしれない。
「リデル、悪いんだけど、もっと突っ込んだ話をしたいんだけど。」
そこの護衛の人、悪いんだけど隣室まで下ってほしいんだけど、とミネルヴァが言ったが、レベラは渋ってしまった。
「ここからの話が外部にもれだしたら、聞いていると思われる者に責任を取らせることとなるわ。」ミネルヴァが言う。
リデルはレベラの目を見て言った。
「レベラ、いつもありがとう。でもここでは席を外してほしいの。
ミネルヴァは当事者だからはっきりどうすると言えないけど、この種の話を漏れ聞くと、下手するとあなたの命やあなたの家族の命にかかわる場合もあるのよ。
だから、大人しくお下がりなさい。隣室のドア前とかにいてください。他に人が通れる場所もないから、そこを警備すると足りるはずだわ。」
リデルかこう言うと、レベラは渋ったのが嘘のように飛ぶように引き下がっていった。
バタバタと走って遠ざかる足音からすると、隣室より遠くまで下がったようだった。
「あの様子だと大丈夫そうね。」




