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「あらあ、ジェイド様ほど素敵な殿方なら、地位や財産がなくても狙われますわ!」口元を扇で隠しながら笑い声をあげているのは、彼の取り巻きの女性だ。確かティタス子爵家のシェリル様だ。
ふくよかな体に派手な赤い服をきこんでいる。黒い巻き毛にばっちり強いメイクが意外にしっくり似合っている。
もちろんこちらに紹介されたことはなく、聞きかじって名前を覚えただけである。
彼やその取り巻きの女性方とは、これまで会話をしたことがない。
何かきっかけでもなければ、彼らと交流する機会は無い。
ちなみに取り巻きの彼らがヴァンダル伯爵の令息であるジェイド様を相手にするのに、身分が相応の方ばかりかというと、そんなこともなかった。
取り巻きの方々は、ジェイド様にまとわりついてまわりで褒め称えているうちに、気分を良くした彼と自然に会話となり、取り巻きに加わっていっているため、身分自体は様々なのだ。
ジェイド様は海賊の討伐の兵士らと、交流をはかるため気やすく口をきくようにしているという。そして兵士には平民が多かった。
彼は、そういう交流を繰り返してきたこともあるからか、身分について堅苦しく言わずまわりに接しているようだ。まあ昔と違い今頃の世間ではそんなに身分の上下を厳しく言わなくなってきているのもある。
そして一度取り巻きに入った人達は身分関係なく彼の親しい友人のように振るまっているのだ。
私はというと、まずは恥ずかしさが先立ってしまい、まとわりついたり口をきいたりすることができずにいたため、取り巻きに入ることはなかった。
また、良いと言われても身分差を気にするたちでもあるので、余計親しげな付き合いは難しかっただろう。
人格まで誤解されている今の状態を思うと、恥ずかしがらずこれまでもう少し交流しておけば良かったと後悔してるけど。
ともかく引き続きジェイド様へ話しかけた。
「重ねて申し上げますが、こちらにはそのような意図はございません。
そちら様との婚姻を望んではおりませんし、ましてや傷をつけられたと申立てた覚えもございません。
おそらくどこかで何か誤解があるものと思われます。」
丁寧な姿勢を崩さずに話したが、本当は、人前でその手の種類の女性だと侮蔑的に言われた件の訂正は求めたいところであった。
身分が同格かこちらが上なら遠慮なく言うのだけども。
ジェイド様の顔が少し困惑気味になって黙ってしまったのをいいことに、そのまま礼をしてその場を立ち去った。
あまり騒がれすぎて今後のこちらの婚約の話(もちろんジェイド様とのではない)に差支えが出てきても困る。そんな話が出てくれば、になるが。
まずはこれが一体どこからでてきた話なのか、確認する必要がある。
かといって、そういった情報のつては特に無いので困るんだけど…
午後の授業を終えて帰ったら、すぐに父に相談してみよう。
いつも忙しいため、今夜父が家に戻るかどうかはわからないけども。