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リデルはふらつきながらどうにかカフェを出たが、そのままカフェの外で立ちつくしてしまった。
…何をするのだったのかしら?
リデルは外出前にアクセサリーを見たいのだと母に話していたことを思い浮かべた。
…そういえば、アクセサリーを見るんだったわ…
フラフラとそれらしい店に向かい歩き始める。護衛のレベラがついてくる。
そこもミネルヴァの商家系列の店ではなかった。そもそもミネルヴァのところは多くの店を経営しているため、どこかの店舗へ行ってもミネルヴァに会えるわけではない。
彼女はよく街歩きをしており、自分の系列の店はよく出入りしているとのことだったので、会える可能性は高いと思っただけだった。
でも、会えたとしても…今の自分は話がしっかりできる状態ではない。会えない時は店の人に言付けを頼もうと思っていたが、喋ることすら難しいかもしれない。
リデルはぼんやりしたまま近くにあったアクセサリーの店に入った。もう帰ったほうが良さそうなのだが、リデルは判断ができる状態ではなかった。
店の店員が笑顔でご自由にご覧くださいと言いながら何やらすすめてきているものが、どれもこれもブライダル用の物だ。
ジェイド様との婚約は、正式に発表されている訳ではなかったが、連れ歩かれ出向いているところが一流どころばかりなため、二人は正式な婚約をするのではないかと一部では噂になっている。
店は初めて入る店だったが、店員は噂を知っている者だったようで、わざわざブライダル用のものをすすめてきているようだ。
リデルはそれに気づくと得体のしれない虚しさに襲われた。
…何を聞いたとしても、双方の両親の了解を得ての正式な婚約なのだ。
今更、簡単に破棄や解消などは、やりようもない。
美しく輝く宝石類を見ながら思う。
あんなに家族皆に祝福を受けたのに。兄など忙しいのにわざわざ帰宅して祝ってくれて。
先方のご両親も普通に賛同して頂いて。
相手の方があんなに憧れたジェイド様で。
本当に文句のつけようもない。
幸運を絵に書いたような話だわ…
こんな顔に傷のあるのを隠していた令嬢なのに。
一生独り身でいることも覚悟していて。
でも、独り立ちできたり、職に生かせるほど、勉学に秀でていたり技術を持っているわけでもなく。
後ろ盾もなく。
現在の状態は、これまでの自分であれば、望むべくもない幸運なのだ。
それこそ、シェリル嬢の言うように、うまくやったというべきなのだ。
それなのに、胸によぎる虚しさ…
一体、これ以上、何が不満だと言うのだろう?
自分はここまで我儘な人間だったのだろうか。最高を手に入れたらもっともっとと欲しがるような。
いいえ!そんなことじゃないわ!…ジェイド様のつき合われていたという女性のことが、心に深く棘をさしてしまい頭から離れてくれないのだ。
彼女に会って話を聞くべきだろうか?どなたか、なんとか調べだして…
シェリル嬢の誤解という可能性もあった。
ただリデルはなぜかこの話は真実だと心の中では確信めいたものがあった。
どなたか調べだせたとしても…
その方、一面識もないのに、会ってもらえるだろうか…
そして会って頂いたとして、一体、何を話すのだろう!?
私達、婚約しました、ごめんなさいね、とでも!?




