23
「婚約おめでとう」兄が言う。
リデルの婚約の件で帝都から帰って来たのだ。わざわざじかに祝いを言いたかったらしい。
「お兄様、お仕事忙しいのにありがとう」
「何を言うんだ。当たり前だろう。」
兄に手紙を出した件で返事がなかった件を聞いてみた。
自分の手紙、忙しくて読んでなかったの?と聞いたところ、返事を書こうとしたら、父から先方と話し合いをすすめている最中だからリデルには中途半端なことになるから連絡するなと言われたと。
父から返事を拒まれたのも、そのせいだったようだ。
母に視線を向けると、母はにっこり笑っていうのだった。
「私も当初は話は知らなかったのよね。なぜかお父様は、私が話を聞いたら、伯爵家に怒鳴り込みにいくと思ってたみたいなのよ。そんなことするわけないのにねえ~」
父をチラ見すると目をそらしている。
あ、これ、母が乗り込むと、ほんとに思ってたぽいわ…
「ところで、お前、父上の爵位についての話をまだ聞いてないのか?」兄がそんなことを言う。
何のことか尋ねると、父が伯爵の位を継ぐことになったという話だった。
そもそもリデルの父方の祖父は、伯爵であったが、男爵の爵位とその領地も別に持っていた。
伯爵の爵位は父の兄が継いだが、父は男爵の爵位とその領地をもらったらしい。
ただその父の兄は体が弱かった。結婚はしたが子を授からないうちに妻を亡くし、自分も気がくじけたのかずっと病がちになっていた。
才気さかんな父は兄の伯爵家のきりもりもしていたため、普通の人の倍ほど働くこととなり、ひどく忙しくしていたのだと。
この度、父の兄が、とうとうもう長くないから父に爵位を継いでほしいと頼みこみ、国の方にも許可をとり、正式に書類もかわしたのだということだった。
…!それでお父様ここ最近、輪をかけてひどく忙しくされていたのね…
お父様のお兄様は、リデルの伯父になるのだが、リデル自身は実は面識はなかった。
伯父は近年では人前に姿をあらわすのも厳しい健康状態だったということだった。
そしてそのことはふせられていたのだった。
跡継ぎがいない状態で健康状態が不安なことが広く知られると、よからぬ輩がつけ込んでくる。
自分が実は近い血筋の者なのですと偽装するものもあらわれるかもしれない。
父は頭は良かったが、全てに対策の手をうてるまでの力はなかった。
さほど利益のでない領地の男爵としての経済的な限界もあるし、かといって兄の伯爵家の財力をそのことで使い倒すのもよろしく思わなかったと。
そのため、消極的な作戦にでたのだ。…まず、伯父は妻を亡くして以来人嫌いになり、交流を一切しない人物であるということにする。
健康状態のことは伏せる。
伯爵家の経営などは人任せにせず、父が自ら身を粉にして働くことで、外部に伯父が働けない状態であるという情報が漏れないようにしていたのだ。
父は、自分があとを継ごうとはさらさら思わず、とにかく自分の兄の健康状態が回復してくれれば、とずっと思っていたらしいが…




