20
リデルがよく覚えていないことに、自分はジェイド様のプロポーズに了承をしたらしかった。
そんな大事なことを覚えてないなどと、動揺し過ぎだろうと思う。
そして先方のご両親に、ご挨拶に伺ったのだった。
驚いたことに、そんなに嫌な顔はされなかった。ごく普通に今後とも末永く宜しくと言われたのだった。
…もう、まるですべてが夢の中なんだけど…
現在、彼とデート中なのだ。
この私が、あの憧れの彼と!流行りのカフェで…
信じられない光景だ。いつまでも目に焼き付けておきたい。
この光景は夢か現実かと言えば、夢の可能性が圧倒的に高いから。
そもそもジェイド様とカフェでデートなんてあり得ない。
もしかしたら、自分はすでに命を失ってしまっていて、
最後のお願いとして夢を見ているのかも…
「ジェイド様なんて、様をつけなくてもいい。貴女はもうすぐ私の妻になるのだから。」ジェイド、もしくはジェイ、そう呼んでほしい、彼はそんなことを言うのだ。
「かわりに貴女のことはリデルと呼ばせてほしい。」彼はそう言いながら私の手の甲に口づけをするのだった。
折しも、カフェの店員が二人分の果実水を運んできたときだった。
恥ずかしくて顔から火が出そう!
ジェイド様は、こんなふうにデートを繰り返しながら私を流行りの場所に連れ出して行った。
カフェばかりではなく、予約を取るのが難しいディナーやら、コンサートやら、演劇やら。
それらはとる席も破格の値段の特別席などで、リデルはそこに座ることがあるなど、これまでの人生で考えたこともないほどだった。
これらの行いが広まるにつれて、リデルがジェイド側の両親に無理に令息との婚姻を要求したという不名誉な噂は、またたく間に消えた。
かわりに、あの人気者のジェイドが一目惚れをした相手と熱々のカップルになったという噂が流れるようになった。
リデル側ではありがたい事態だったが、ジェイド側もリデルの良からぬ噂は消したかったのだろう。




