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「はじめまして」手を掴まれたままで可能な限り淑女の挨拶の礼をとる。「リデル・モリウスと申します。」モリウス男爵家の娘です、ともつけ加える。
ジェイド様はにらむのをやめて、不審そうに眉間にシワを寄せてこちらをじっと見た。
「君が私に傷を負わされた責任をとってほしいと話をされたと、私の両親が言っていた。
婚約するのが男の責任の取り方だと言っていたらしいな。
君とは個人的に会って話したこともなく、今後もそのつもりはないと両親には話した。
そして君本人にもそう伝えに来た。
それなのに全く何事もなかったかのように、はじめましてとのご挨拶とは驚きだ。」
「初めてお話するものですから、そうご挨拶申し上げたまででございますが、不愉快に思われましたならばお許しください。」
これでも心中バクバクしながらもどうにか声を出しているのである。
彼が言っているのは一体何の話だろうか。
「恐れながら、私の方から責任を取ってほしいとご両親様に申し上げた覚えはございませんが、どなたかとお間違えではないでしょうか。」
「しらをきるつもりか!」いきなり彼が声を高めたのでこちらはビクッと首をすくめてしまった。
「あ、いや、女性を怒鳴りつけるのはよろしくないな…すまなかった。
ただ、君の側に問題があるからこそ、こういった話し方になっているというのは、
わかってもらわないとな。」
ちょっとこの方が何を話しているのか、さらにわからなくなってきたかも。
「その、本日が初対面であるはずです。傷をつけるもつけられるもありません。ましてや、婚約を結ぶように迫る予定もございません。
そもそも、傷とやらは体のどの部分のことでしょうか。」
「今この場所で話す類の話ではない!
…やはりそういう種類の女か!」
何やら聞き捨てならないような言葉を言われたような。
「そういう種類の女性とは、
どういう種類の女性でしょうか?」
ジェイド様はフンと鼻でこちらをせせら笑った。
「それはそなたのような、はしたない女性のことだ。
会ったこともない相手に傷を負わされたと冤罪をかけ、無理矢理に婚約に持ち込もうなどと。
爵位がこちらが上だから、どうやってでも妻の座に狙いをつけようとしたか。
金や財産が目当てなのが丸わかりだな!
父と母はなぜだかそちらの話を信じてしまったらしく同情的で、私に責任を取ることを真剣に考えろなどと言ってきた。
こんな恥知らずな真似をして、自分や相手の名誉は二の次になるんだろうな。
いや、そんなものはお構いなしってことになるのかな、君のような種類の女性とやらは。」