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客間に入って来たジェイド様を見た途端、リデルはちょっとしたパニック状態になってしまった。
頭が真っ白になりながらも、なんとか挨拶をする。
…これは!先日の件において、正式な話し合いをする場を設けてもらったのかしら?
きっとそうに違いない!でも…
こちらへ謝罪するのかしら?
それとも、もしかして誤解させたり場を騒がせた件で、私からジェイド様にあらためて謝罪しろと言われるのかしら?…
こちらに原因や罪がなくとも、ジェイド様の方が位が高いため、あり得る話だ。
でもその場合だと、こちらから先方へお伺いするはずよね…?
一度に様々に考えすぎたせいか、笑顔が引き攣って貼り付いたような顔になってしまう。
ジェイド様が優雅に挨拶を場の皆にした時点で、父母はにこやかに笑いながら、それではお二人でお話をと言いながら去っていった。
…ちょっと!お父様お母様!私を一人にして行かないでええ!
心の中で叫んでいることを、おそらく二人ともこちらの気持ちには気づいているように思うのだけど、
両親はその場を去ってしまった…
全くの二人というわけではなく、使用人の方達が壁際に控えてくれているのだけど、彼らがこの件で助けを出してくれることはまずない。
あたふたしているうちに、ジェイド様がいきなりこちらの手を取った。
「リデル嬢。私からの詫びをさせてほしい。」
そして跪いた。
「私が勝手な思い込みで一方的な話をしてしまった。
それどころか、他人の目の前で貴女について不名誉な噂が立つような言い方をしてしまった。
謝罪と共に、なぜそういうことになったのか説明もさせてほしい。完全にただの言い訳になってしまうが…」
そして彼は説明を始めた。
…彼の話によると、なんとうちの父が伯爵家に訪問し、私の幼い頃に顔に傷を負った件について彼のご両親に話をしたということだった。
幼い頃に混ざって遊んだ時、顔に傷がつく原因となったのは、海軍リーダー役の子供だったのだが、それがジェイド様だったのだ。
父は私の顔の傷についてマリーから話を聞いた後、急いで該当する子供について調べたらしかった。
そしてこの件で責任をとって欲しいとジェイド様のご両親に話をしたと…
ジェイド様のご両親は、そのことについてはひとまず確認するとうちの父に約束した。
そして当時の使用人たちから話を聞きだしたところ、父の話の裏がとれたので、事実らしいと先方はわかったそうだ。
女の子の顔に怪我をさせたことを知らなかったこととはいえ、申し訳なかったと、うちの父へ謝罪もされたそうだった。
さらに、まだ相手も決まっていないジェイドが責任を取るのが筋ではないかと考えるようになったと…
そしてジェイド様に、これこれと経緯を話そうとしたが、
ご両親の説明が感情たっぷりで背後関係が抜けた説明となってしまい、
責任を取りなさいとばかり強調して話をしたらしく、
女性本人が貞操を傷つけられたと伯爵家へ乗り込んで結婚を要求してきたのだと、そう彼は思いこんでしまったらしかった。
以前から、知らない女性が同衾しようと旅先の宿の部屋へ忍び込んだりなどということが度々あったせいもあり、そういう発想に至ったのだと…
リデルは父の行動にも驚いたし、ジェイド様の性急な勘違いにも驚くというかなんというかで、固まってしまったままだった。




