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日曜の光と、制服の彼女

  今日は休日で、天気がやたらと良かった。太陽はまるで世界全体を反射させるために輝いているかのように眩しかった。


  俺はコンビニの前に立ったとき、少しだけ空を見上げた。


  空は確かに青く、雲一つなかった。太陽の光は固く舗装された地面に突き刺さり、看板の端にあるプラスチック板をじんわりと照らしていた。


  店の入り口にある自動ドアは半分開いたまま、また静かに閉じた。まるで感情のない唇のように。


  俺が今日外に出たのは、ちゃんとした目的があるからだ。


  天気はやや暑く、コンクリの道に降り注ぐ陽射しは影まで熱を帯びていた。


  路地の角から差し込む陽光が腕に当たり、少し熱さを感じさせるが、ベタつきもなく、不快さもない、「まだ我慢できる」温度だった。


  家を出るとき、俺はスモーキーグレーの半袖シャツを羽織っていた。


  シルエットは体にフィットし、袖口はすっきりと仕立てられている。


  その上に黒の機能性ジャケットを合わせていて、ジッパーは半分開いた状態で、内側の裏地が肩甲骨に軽く当たるが、圧迫感はない。


  下はカーゴタイプのロングパンツ。裾は絞られ、足元はダークグレーのスニーカー。


  全体的に俺が好むトーン、目立たず、輪郭がはっきりしていて、だらしなくもない。


  傘は持っていないし、遠回りもしなかった。ただ決まったルートをたどって、家から一番近いあのコンビニへ向かっただけだ。


  午前 11 時前、人通りは少ない。俺はゆっくり歩いていた。ポケットの中では指先で小銭を弄んでいる。


  水を買うわけでもないし、おにぎりを買うわけでもない。


  アイスクリームだ。


  家の冷凍庫には何かしら入っているが、昨日妹がこう言った。「チョコレートの中にパリパリしたやつが入ってるアイス食べたいな~」と。


  語尾には「お願いね」みたいな甘えた声もついていた。


  だから、覚えていた。


  2つ買うつもりだった。一つは妹用、もう一つは俺の分。


  だから俺は出かけた。数分の道を歩いて、いつものコンビニに向かった。


  アイスを2つ買って帰るだけの予定だった。


  足がちょうど店の入口に差し掛かり、センサーが小さく反応音を鳴らした。


  俺はポケットに入れていた手袋を押し込むようにして、店に入ろうとした。


  そのとき、視界の右側に、人影がよぎった。


  ドアの真ん中に立っていたわけじゃない。


  ただ、ガラス扉の外側に立っていて、俺の視線と軽く擦れ合うように視界を通り過ぎただけだった。


  俺は無意識に足を止め、顔を向けて確認した、見覚えのあるシルエット。


  金髪のサイドポニー。ピンクのメッシュ。


  着ているのはコンビニの標準ユニフォーム。


  深い青の作業ベストの下に白い丸首 Tシャツ。胸元には名前入りのスタッフ証と店のロゴバッジがぶら下がっている。全体的に清潔感がある。


  ヘアゴムは配布された黒のタイプに変わっていたが、先端にはうっすらと金属製のリボンパーツがついていた。


  桐生はまっすぐ立ち、両手を自然に下ろしていた。


  指先の淡いピンクのネイルは、日差しの下で微かな光を反射していた。


  桐生 彩羽。


  彼女はコンビニの外側、ディスプレイ窓の隣に立っていて、微笑みを浮かべながら俺に軽く手を挙げた。


  動きは自然で、「こんにちは」と言うようなジェスチャーだった。


  「えっ、天雾くんじゃん!こんにちは〜」


  桐生の声は爽やかで、少し人懐っこい日常会話調だった。


  「お買い物?」


  俺は彼女を見て、小さくうなずいた。


  「うん。アイスを買いに。」


  口調は淡々としていて、特に抑揚はなかった。


  彼女の口ぶりからは話しかける気が見て取れたが、俺は話を広げるつもりはなかった。


  元々、会話のために来たわけではないし、偶然誰かと出会って、そこで展開が始まるような人生でもない。


  「こんにちは、桐生さん。」俺は応えるようにそう言って、店内へと足を踏み入れた。


  コンビニの冷房が顔にかかる。冷蔵エリア特有の乾いた冷気の匂いも混ざっていた。


  俺は振り返らなかった。


  余計なことも何も考えなかった。


  彼女は立ち番、俺はアイスを買いに来た。ただそれだけ。


  彼女のことは嫌いじゃない。彼女も別に嫌なやつじゃない。


  ただ、俺たちは沈黙を埋めるために雑談が必要な関係ではない。


  彼女は社交界の中心人物、俺はそうじゃない。


  俺は飲み物コーナーに向かい、斜めに置かれていたミネラルウォーターのボトルをそっと押して元に戻した。


  振り返らなくても、彼女が俺の斜め後ろに立っているのが分かった。


  「さっきのって……私のこと、スルーした?」


  彼女は軽やかに、少し笑い混じりで、まるで冗談めかしてそう言った。


  俺は横目で彼女を一瞥した。


  彼女は真っ直ぐ立っていて、まるで本当に仕事に集中しているかのようだった。


  俺は彼女の質問に答えず、より現実的な問いに切り替えた。


  「……ここで何してる?」


  「バイト。」彼女は即答した。


  桐生の返答は極めて自然で、明るく素直で、何の隠し事もなく、特に説明するつもりもないようだった。


  「今日から。」と、彼女はもう一言加えた。


  それが、俺の耳にちゃんと届くようにという意図が見えた。


  俺は彼女を見て、何も言わなかった。


  桐生は、これを特別なこととも思っていないようで、むしろ少し自慢げだった。


  口元が少し上がり、両手を背中で組んで、いつもの調子で立っていた。緊張感はまるでなかった。


  桐生は続けた。


  「今週のお小遣い、使い切っちゃって。」


  俺は2 秒ほど黙っていた。


  視線は彼女の名札から、彼女の手に持っていた販促チラシへと流れた。


  「バイトする理由って、それか?」


  彼女は目を上げ、澄んだ目で俺を見てきた。


  俺が何を指しているのかは分かっていない様子だった。


  「そうだよ。だって、欲しい物があるんだもん。」


  そう言って、こくりと頷いた。


  とても自然に、まるで当然のように話していた。


  甘えもなければ、ワガママでもない。


  ただ、「自分で決めたことを、自分でやる」といった様子だった。


  彼女は淡々と、説明するように言い足した。


  「生活のためじゃなくて、買い物のためだよ。」

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