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緊張と見えざる勇気

  誰かがついに叫び声を上げ、これまで口を押さえていた人も涙と汗を混ぜて泣き始めた。店内は極限まで張りつめていた緊張が、ようやく少しだけ緩んだかのようだった。


  一連の過程には余計な言葉はなかったし、英雄的な衝動もなかった。僕と真壁舞華の間にあったのは、ただ正確なアイコンタクトと短い動作の連携だけだった。


  真壁舞華はその時、倒した強盗がまだ隠し武器を持っていないか確認するため、静かにしゃがみ込み、やがて立ち上がって、ふうっと一息をついた。


  その表情は誰よりも揺るぎなく、僕たちが見つめ合ったとき、言葉は必要なかった。彼女が僕の信頼をちゃんと受け取ったこと、そして僕もまた、最も危険な場面でこそ彼女を信じているということ、それだけは確かだった。


  現実には浮ついた光輪などなく、ただ暴力と汗、そしてそれぞれの身体で他者を守る覚悟だけがあった。


  僕らは混乱と荒れ果てた現場の中で、行動によって全員の安全を守り抜いた。その瞬間、僕は「並んで戦う」という言葉の本当の意味が、たぶんこういうことなんだと突然実感した。


  ジュースショップの空気が一気に緩み、誰もが危機が過ぎ去ったと思い込み、子どもと母親は抱き合い、泣き声と安堵の囁きが店内を満たしていた。


  真壁舞華は倒れた強盗の横でしゃがみ込み、すぐには立ち上がらず、慎重に手を伸ばしてまだ危険が残っていないか確認していた。彼女の動きには最後まで警戒があり、視線も周囲の隅々にまで配られていた。


  僕は店の隅で素早く、棚の下にあった紐やジュースのビニール袋を使い、取り押さえた強盗たちを粗雑に縛り上げながら、いつ何が起きてもいいように備えていた。


  店内を見回すと、真壁舞華のそばに倒れている一人を除き、他の四人はもう全く動けない状態だった。


  すべてが落ち着いたように見えたその瞬間、予想外の出来事が起こる。真壁舞華の動きがわずかに止まった。


  彼女が助けを呼ぼうとした次の瞬間、倒れていた強盗の一人が突然跳ね起き、ズボンの裾から短銃を抜き出した。


  銃口はほとんど真壁舞華の胸元に突きつけられ、口元の歪んだ笑みと目の奥の悪意が、ひやりとした空気となって店内に満ちる。時間が止まったかのように、空気は一瞬で冷え切った。


  僕と真壁舞華の距離は三メートル。どう考えても間に合わない。脳が燃えるように熱くなり、すべての思考が一瞬で閃光のように収束した。


  その一瞬、システムパネルが極めて薄暗い輝きで視界の隅に浮かぶ、わずか一行だけ。


  【利用可能ポイント:8pt】


  脳が命令を下す前に、体がすでに動き出していた。


  「スピード(Speed)と反応力(Reflex)にそれぞれ4ポイント割り振る。」


  すべての動作と判断が極限まで圧縮され、世界はスローモーションのように遅くなり、僕は冷たい床を蹴って突進する。呼吸は胸にしか届かず、全身が一本の矢のように伸びる。腕が無意識に真壁へと伸びる。


  強盗の指はすでに引き金にかかっていた。銃口の金属光が真壁舞華の目の前で閃き、彼女は反応する暇もなかった。


  僕の手が彼女の肩を強く押し、全力で抱きかかえて床に倒し、左手で銃口を押さえつける、その瞬間、激しい銃声が店内に鳴り響いた。


  弾丸は僕の肩をかすめ、服が一瞬で裂け、焼けつくような痛みが皮膚を貫き、左腕は一時的にしびれ、温かい血が袖口から伝い、ひやりとした感触が残る。


  鋭い痛みが走り、細い血の筋が弧を描き、余波で血飛沫が真壁舞華の髪先をかすめる。


  弾丸は誰にも当たらず、まっすぐ冷蔵ケースの中、透明な桃味の炭酸飲料の缶に命中した。


  缶は一瞬で貫かれ、白い霧とピンクのジュース、繊細な泡が一気に炸裂した。


  缶を貫いた弾丸の爆発で、白いミストとピンクの果汁が冷たい泡とともに店内に四散し、真壁のまつ毛や髪にも水滴がついた。


  冷蔵庫のガラスが割れ、果汁と炭酸の泡が僕の背中や真壁舞華の袖口、スカートの裾まで飛び散る。


  飲み物の香りが空気に広がり、青春の酸っぱさと炭酸のツンとした匂いが入り混じる。誰もが反応できないまま、時が止まったようだった。


  僕は片膝をつき、片腕で真壁舞華を抱きかかえ、肩には焼けつくような痛みが走っていた。


  彼女は顔を上げ、不信感と動揺を隠せない目で僕を見つめ、唇が震えるも言葉は出てこない。


  泡とガラス片が雪のような袖口に絡み、スカートの裾は冷たい飲み物で濡れていた。空中にはガラスの欠片、飲料のミスト、そして僕の血の匂いが混じっていた。


  その瞬間、僕と彼女の世界には互いしか存在しなかった。彼女はずっと誰かを守れると思っていたのに、今度は僕が身を挺して彼女を守ったのだ。


  その短い沈黙の中で、店内にいた母親がついに正気を取り戻し、倒れていた消火器を強盗に叩きつけて気絶させ、他の人々も駆け寄ってその男を縛り上げた。


  警報が遠くで鳴り響き、救助の手が近づいてくる。


  僕はうつむき、呼吸はまだ荒かったが、低い声で真壁舞華に「大丈夫だ」とだけ伝えた。


  彼女は言葉を返さず、ただ僕を見つめ、その目にはこれまで感じたことのない、深い「守られる」感覚が浮かんでいた。


  余波の中、システムパネルが静かに表示される。


  【認定対象:真壁舞華】【好感度:10 / 100】


  効果音もエフェクトもなく、淡い文字列がパネルとともにそっと消える。


  この瞬間、弾丸は彼女を殺さなかったが、炸裂したドリンクと僕の傷によって、彼女の心は確実に僕の世界へ巻き込まれた。


  彼女は言葉で返す必要はなかった。不意打ちのような守りと共鳴が、心の奥を確かに打った。


  それは青春の炸裂であり、初めて「誰かに背中を任せられる」と知り、最も危険なときにしっかりと抱きしめられる安心を感じた瞬間だった。


  システムのデータはただの数字だ。本当に心に残ったのは、僕らが初めて並んで戦い、初めて信頼し合い、初めて守られたという実感と震えだ。


  店内の警報は遠ざかる時間の中でようやく現実を引き戻し、誰もが悪夢から日常へ引き戻されるような感覚を覚える。


  僕はまだ片膝をついたまま、震える腕で真壁舞華を守っていた。


  彼女はすぐそばで、肩を寄せて呼吸を整え、袖口やスカートの裾には桃の炭酸飲料の水滴が残り、白い布には泡がしっかりと絡んでいた。


  肩の痛みがじんじんと残るが、意識は彼女に集中している。外套の隙間から血がじんわりと広がり始めていた。


  空気にはジュースやガラス片、見知らぬ人の匂いが混じっていた。


  彼女は袖口の泡や裾の水滴を見下ろし、心は一瞬真っ白になり、自分でも何を考えているのかわからなくなった。ただ肩に残る温もりだけが確かだった。


  感謝も、疑問も、動揺も言葉にならず、ただ目の前の景色、泡、血、そして自分の前に立ちはだかった少年の姿、を覚えておこうと思った。


  少し離れたところでは、子供が母親にしがみついて泣きじゃくり、親は「大丈夫だよ、ママがいるよ」と何度も囁いていた。


  他の客たちも徐々に正気を取り戻し、おそるおそるスマホで通報したり、けが人を気遣ったり、若者たちは椅子やスマホのケーブルを使って強盗たちを縛っていた。


  カウンターの店員もようやく裏から出てきて、まずは他の強盗がいないか確かめ、それから怯える客たちを励ましに回った。


  全体が暴走した機械のようにきしみながらも、ようやく正常に戻りつつあった。


  真壁舞華は僕の腕の中でしばらく静かにしていたが、やがてそっと身を起こし、まずは僕を見るのではなく、すぐに子供と母親のところに駆け寄って無事を確かめていた。


  子供が怪我していないとわかると、彼女はようやく大きく息をつき、振り返ったとき、一瞬だけ僕の肩の傷に視線を落とした。その目には自責と心配、そして言葉にできない何かが浮かんでいた。


  僕は膝に手をついて立ち上がり、痛みを無理やり押さえ、左手で肩を押さえながら、素早く店内を見渡して危険が残っていないか確認した。


  真壁舞華は黙ったまま、袖口から泡がぽたぽたと床に落ちていくのを見つめ、自分のスカートの裾にも目を落とし、ぼんやりとした表情をしていた。


  唇が小さく震え、指先で袖の泡をなぞる仕草にためらいが見えた。それでも結局何も言わず、ただ僕の肩をじっと見つめていた。「なぜそこまでしたのか?」と、「私は何をしてしまったのか?」という、答えのない問いがそこにはあった。


  僕は無理に強がったり、慰めの言葉をかけたりはしなかった。ただ静かに彼女を見返し、小さな声で「君は子供を守った」とだけ告げた。


  それは「君が強いから」でも「君が戦えるから」でもなく、彼女が本当に弱き者を守ろうとした、その行動をきちんと見ていたよ、という小さなメッセージだった。


  彼女はその言葉に一瞬きょとんとし、初めて自分が見られていたのは外面の強さではなく、心の一番柔らかい部分だったことに気づいたようだった。


  彼女は小さく頷き、結局心の中の言葉は最後まで出てこず、袖口の泡やスカートの水滴、そして僕の肩の血だけが全てを物語っていた。


  あの瞬間、二人の間には言葉ではなく、傷と痕跡で結ばれた静かな誓いができていた。


  店員や他の客たちも続々と集まり、震える手でスマホを持ち、警察へと通報する人もいれば、互いにそっと支え合いながら小さな声で安堵の言葉をかける人もいた。


  子供は母親にしがみついて離れず、老人は静かに目元をぬぐい、中年は泣く母親を慰め、青年はミネラルウォーターを渡す、さっきまでパニックだった客たちも、徐々に互いを支え合うようになった。


  女子高生は友達の手を固く握りしめ、「やっと終わったね」と繰り返しつぶやき、少年は倒れた飲み物をロボットのようにぎこちなく拾い上げ、サラリーマンは手が震えてスマホを落とし、それでも何度も画面を見つめて祈るように指を動かしていた。


  誰かが「病院へ行った方がいいのでは」と心配し、誰もが何度も感謝の言葉を口にしていた。


  混乱と慰め、恐怖と感謝が入り交じり、少しずつ静けさが戻っていった。


  助けられた子供の親は、涙ながらに真壁舞華の手を取り、「あなたたちがいなかったら……本当にありがとう」と繰り返した。


  隣の年配の方も静かに涙を拭きながら、「今日はあなたたちのおかげだ、本当に良い子たちだ」と小さく感嘆していた。


  真壁舞華は微笑んで、子供の頭をやさしく撫でるだけで、何も言わなかった。


  僕も感謝に応えながら、英雄のような顔はせず、最後まで静かにしていた。


  本当のところ、この危機は真壁舞華がいなければ、こんなに早く終わらなかっただろう。でも僕はヒーローになるためにやったのではない。ただ、すべきことをしただけだった。


  みんなが事件は終わったと思ったその時、僕の視界の端に淡い青色の光が波紋のように走った。


  【認定対象:真壁舞華】【好感度:10 / 100】


  その数字は一瞬だけ目の端に現れ、すぐに消えていった。


  現実の喧騒の中で、そんなデータさえも風の中に溶けて消える。


  ほんの一瞬だけの数字だったが、確かにこの時、彼女の心は僕と強く結びついた。


  システムの数値は単なる印に過ぎず、本当に心に刻まれたのは、僕らが共に身体と行動で示した信頼と共鳴だった。


  はっきりと感じた。真壁舞華の存在は、この一瞬で確実に変わった。彼女はシステムに認定されたが、数字の変化よりも、「本当に自分が誰かに見てもらえた」ことこそ、彼女にとって一番の価値だった。


  「仲間として認められる」その信頼こそが、彼女の守り続けてきたすべての証だった。


  僕にとっても、あの「頼んだぞ」という一言は全てを託すことであり、無条件の信頼だった。


  これから先、どんな危機に直面しても、僕たちは必ず肩を並べて進んでいく。もう決して一人きりで戦うことはない。


  ジュースショップのガラス扉越しに、パトカーの青い回転灯と救急車の赤白い警告ランプが明滅し、遠くの通りからはサイレンが夏の空気を切り裂くように響いてくる。店内の人々は次々と現場を後にし始めていた。


  警察は後片付けを始め、親たちは子供をあやし、残った人たちはささやき声でさっきの事件について話し合っている。僕は静かに上着を脱いで肩にかけ、誰にも注目されずにそっとその場を離れようとした。


  ちょうどそのとき、真壁舞華が何か言いかけた。もしかしたら僕に「怪我の手当てを」と呼び止めたかったのかもしれない。しかし彼女の言葉は出る前に、さっきの小さな子供に袖を掴まれてしまい、繰り返し「ありがとう」と言われた。


  彼女はうつむいて子供と親をなだめつつも、どうしても無意識に入口の方を見てしまう。僕の背中が陽射しの中でどんどん遠ざかり、細長く引き伸ばされたシルエットはついには街角の光の中へ溶け込んでいった。


  彼女はその場に立ち尽くし、僕の去っていく後ろ姿をじっと見つめたまま、指先で袖口の水滴をそっと撫でる。その瞬間、心のどこか柔らかな部分がふっと揺さぶられたが、どう言葉にしていいか分からなかった。


  入口の足元では、転がったドリンク缶がまだ微かに揺れ、かすかな炭酸の泡立ちが続いていた。


  真壁舞華は自分の袖口に残る濡れた跡を見下ろし、不意に気付く、さっき飛び散った飲み物は、自分が一番好きな味だったことに。


  (この夏は、きっと、ほんの少しの冷たさと甘さ、そして守られた時に生まれるときめきが、ずっと心に残るのかもしれない……)


  彼女はほんの僅かに唇の端を上げて、その一瞬をそっと記憶の奥に閉じ込める。


  その時、彼女は思った、この冷たいサイダー、空気の中の血の匂い、そしてさっき自分を抱きしめてくれた背中、その全てが夏の心の奥底に溶け込んだ、と。


  この夏、いくつかの味はずっと記憶に残り続けるだろう。冷たい炭酸飲料の爽快さも、守られたぬくもりも、きっと時間が経っても消えずに残る。

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