第一回 武術家ですか何か ~異世界転生~
はじめまして、しみね・タヨルと申します。台湾人です。
この度、初めて「小説家になろう」に作品を投稿させていただくことになりました。
拙い文章ではございますが、読んでいただけたら幸いです。
この作品は、中国古式気功を使う武術家が、異世界に転生し、魔法に挑むという、異世界ファンタジーです。
かつて、中国では武俠小説と呼ばれる、武術を題材とした物語が人気を博していました。
しかし、今では昔ほどの勢いはありません。
この作品は、そんな武俠小説へのオマージュとして、中国武術の魅力を改めて皆様にお伝えしたいという想いで執筆しました。
主人公のウィリーは、魔法の才能がないと判定された貴族の末っ子。
しかし、彼は前世の記憶を頼りに、中国古式気功「伏羲心経」を修練し、
異世界で生き抜く力を身につけていきます。
魔法と気功、異なる二つの力がぶつかり合う時、
ウィリーはどんな運命を辿るのでしょうか?
この物語を通して、読者の皆様に、異世界での冒険と成長、そして、
文化や価値観の異なる世界で生きる主人公の姿を楽しんでいただけたら幸いです。
日本語は勉強中のため、表現が不自然な箇所もあるかと思いますが、
温かい目で見ていただけると幸いです。
定期更新(月、水、金)を目指し、頑張ります。
よろしくお願いいたします。
私はバヴァリア男爵家の末っ子、ウェールズ・バヴァリアです。みんなからはウィリーと呼ばれています。貴族の中でも最下位の男爵で、領地も農園のようなものなので、家督を継ぐことはありません。父リチャードは、かつては優秀な騎士でしたが、今は領地経営に苦労しています。母メイリは質素倹約を旨として、家を切り盛りしていますが、生活は決して楽ではありません。兄アレクサンダーは騎士を目指し、日々鍛錬に励んでいます。姉ノアは美しく聡明で、伯爵家に嫁ぐことが決まっています。
そんな家族の中で、私はあまり目立つ存在ではありません。両親は私に優しく、愛情深く接してくれます。しかし、質素な食事が多く、贅沢はできません。家には年老いたメイドのアンナが一人いるだけで、執事はいません。私は体が弱く、よく熱を出したり、体調を崩したりしていました。そのため、両親は私を過保護に扱い、外で遊ぶことや、他の子供たちと触れ合うことを制限していました。生まれつき体が弱く、屋敷から出ることもほとんど許されなかった私は、あの時はまだ、この世界が剣と魔法の世界だとは知りませんでした。
3歳の時、私は原因不明の高熱にうなされました。熱に浮かされる中で、私は前世の記憶を鮮明に思い出しました。
私はかつて宋朝※1の襄陽※2という都市の守備兵でした。咸淳9年※3、元朝※4の軍隊が攻めてきた時のことです。城壁が崩れ落ちる瞬間、砂塵が舞い上がり、空を覆い尽くす光景、巨大な回回砲※5の轟音が今も耳に残っています。城壁は砕け散り、いくら武術の達人でも、乱戦では火薬武器に全く歯が立たず、命を落としました。その時の記憶が今も鮮明に残っています。
今、私は全く見知らぬ世界に転生しました。
この街は、私が知っている宋朝のそれとは全く異なっています。高くそびえ立つ尖塔、色とりどりのガラス窓がはめ込まれた石造りの家々、そして、地面には綺麗に敷き詰められた石畳。人々は、丈の短い服に帽子を被り、白い肌をしています。中には、金髪碧眼の人もいれば、赤毛の人もいます。もちろん、黒髪の人もいますが、宋の人々とはどこか雰囲気が違います。
かつてペルシャ商人から聞いた西方の街の話では、石造りで、屋根は尖っていて、煙突から煙が立ち上っているとのことでした。確かに、家々は石造りで、屋根は尖っていますが、商人の話にあったようなレンガ造りの家はあまり見かけません。それに、煙突から煙が出ている家もありません。ただ、建物の壁はカラフルに塗られていて、それは宋の街並みとは全く異なる点です。宋の町では、赤い煉瓦と黒い瓦屋根の家ばかりでしたから。
活気あふれる市場では、見たこともない色鮮やかな果物や野菜が山積みされています。エキゾチックな香辛料の香りが鼻をくすぐり、商人たちの賑やかな声が響き渡っています。
この世界に転生する前、私は既にこの世界の言語を学ぶことができていました。そのため、人々の言葉は理解できます。しかし、言葉の使い方やマナーは、前世とは全く違います。特に、貴族社会の複雑な礼儀作法や、敬称の使い方には苦労しました。そのため、3歳で前世の記憶を思い出し、再び言葉を話せるようになっても、以前のように流暢に話すことはできませんでした。
私のぎこちない言葉遣いや、幼い頃に熱病を患った影響で、家族は私の体調や知能のことを心配しています。彼らの愛情は嬉しいのですが、過保護すぎるのも困りものです。
この世界は、一体どんな場所なのでしょうか?
私は、好奇心と不安が入り混じる気持ちで、この見知らぬ世界を歩き始めました。
幸いなことに、前世で偶然手に入れ、すでに奥義を習得していた武術の秘伝書「伏羲心経」を思い出しました。これは北宋の邵雍※6が易経※7の「天地定位、山沢通気、雷風相薄、水火不相射、八卦相錯」に基づいて描いた伏羲六十四卦をもとに、編み出された気功です。しかし、私がこの秘伝書を手に入れたのは、すでに成人してからでした。修練を始めるには遅すぎたのです。「伏羲心経」は幼い頃から修練を始めなければ、その真価を発揮することはできません。
そこで、私はぼんやりとした記憶を頼りに、ベッドの上で胡座をかき、内力を巡らせようと試みました。内力はまるで小川のように、私の経絡を流れ、温かさと心地よさを感じます。私は呼吸をコントロールし、「伏羲心経」の教えに従って、内気を小周天から大周天へと導き、一周させました。
しかし、幼い体は、これほどの内力に耐えられません。一周しただけで、私は全身汗だくになり、ベッドに倒れ込んでしまいました。
息を整えようとしたその時、ドアの外から急ぎ足が聞こえてきました。私は驚き、慌てて練功を止め、呼吸を整えようとしました。メイドのアンナが私の様子を見に来たのでした。彼女は私が汗だくになっているのを見て、いつものように熱があるのだと思い、私の額に手を当てました。すると、驚くほど熱かったので、すぐに両親と医者を呼びました。彼らは昼夜を問わず、私の看病をしてくれました。
実は、私は練功の後、体力はむしろ充実していました。ただ、日中に修練をしたため、陽気が強くなりすぎて、体内の熱がうまく発散できなかったのです。それからは、日中は座学をして、言語や歴史を学び、夜は毎日、気功の修練をすることにしました。
毎晩、寝る前のひとときが、私の楽しみでした。
両親や兄姉が寝静まった後、私はこっそりとベッドから抜け出し、月の光が差し込む窓辺に座ります。
夜の静寂の中、私は目を閉じ、記憶を辿るように「伏羲心経」の内容を思い浮かべます。
前世で手に入れたその秘伝書は、今はもう手元にはありません。
しかし、書かれていた文字の一つ一つ、図形の一つ一つが、私の脳裏に焼き付いています。
私は、その記憶を頼りに、ゆっくりと呼吸を整え、体内の気を巡らせようと試みました。
最初は、ほんの少し内力を動かすことさえ難しく、すぐに息切れしてしまいました。 しかし、諦めずに毎日修練を続けるうちに、体内の気の巡りがスムーズになり、内力を自在に操れるようになっていきました。
内力の向上は、私の体に様々な変化をもたらしました。
まず、体が軽くなり、動きが機敏になりました。 以前はすぐに疲れてしまっていたのですが、今では疲れ知らずで、一日中走り回っても平気です。
また、五感が研ぎ澄まされ、周囲の音や光、匂いなどを、より鮮明に感じ取れるようになりました。 小鳥のさえずり、風の音、花の香り…、世界が以前よりもずっと鮮やかに感じられます。
そして、私が最も楽しみにしていたのは、軽功の修練です。
軽功は、宋代では武術家にとって必須の修練項目でした。体内の気を足の裏に集中させ、地面を蹴ることで、まるで羽が生えたかのように軽やかに跳躍できるというものです。
前世で培った軽功の感覚を思い出しながら、私は「伏羲心経」でさらに鍛えられた内力を使って、修練に励みました。
幼い頃からの鍛錬のおかげで、私の体は以前よりも軽く、動きも機敏になっていました。
最初は、ぎこちなかった動きも、徐々にスムーズになり、ついには屋敷の塀を飛び越えることができるまでになりました。
ある夜、私はこっそりと屋敷を抜け出し、森の中へと足を踏み入れました。 月明かりに照らされた森の中は、昼間とは全く違う顔を見せていました。 木々の間を縫うように走り、軽功を使って枝から枝へと飛び移る。 まるで鳥になったかのような自由な感覚に、私は心からワクワクしました。
「伏羲心経」の力によって、私は、体弱多病だった過去の自分から、少しずつ解放されていくのを感じていました。
「伏羲心経」には、二つの八卦を重ねて、64個の脈絡を操る内功です。それも様々な技に変形できます。空手なら、掌法、拳法、指法、蹴法;武器なら、剣法、刀法、棍法、槍法も含まれている。点穴、金鐘罩、隔空取物、気功療法なども末の応用スキルのみ。
伏羲心法の修練は九品から一品まで。九品はほんの入門で、前世の私は成年から修練し、最後は六品。しかし、今の私の進歩は驚くべきもので、すでに七品に近づいています。あと一、二年もすれば、前世の私を超えることができるでしょう。大人になれば、一品に到達することも夢ではないかもしれません。私は、期待に胸を膨らませていました。
そして、6歳の誕生日当日。私は教会へと連れて行かれました。そこでは、貴族の子息たちが一堂に会し、選別の儀式が行われようとしていました。神官が厳かに宣言します。「汝らは本日、神々の加護を受ける者として、その資質を問われるであろう」。
選別の儀式と言われても、それが何なのか、私には全く理解できませんでした。魔法という言葉さえ、聞いたことがありません。屋敷の中で、書物と過ごす日々の中で、私は、この世界の宗教は、宋代の道教のようなものだと考えていました。人々を惑わし、金品を巻き上げるための、まやかしの教え。この選別儀式も、きっとそのようなものでしょう。
私は半信半疑のまま、祭壇の前に進み出ました。神官は私の額に手を当て、祈りを捧げます。選別の儀式では、神官が子供たちの額に手を当て、魔法の才能の有無を判定するそうですが、私の額には何も現れませんでした。
「…何もない。魔法の才能はないようだな。」
神官は残念そうに告げました。私は、内心ほっとしました。やはり、この世界の宗教は、まやかしだったのです。
周囲の子供たちは、魔法使いの才能を持つ者、持たない者に分けられ、それぞれの道を歩み始めます。魔法使いの才能があると判定された子供たちは、歓喜の声を上げ、誇らしげに胸を張っています。私は、彼らの様子を見ながら、疑問に思いました。
「なぜ、あんなにも喜ぶのだろうか? 魔法使いの才能があるかないかなんて、ただの宗教のまやかしではないのか?」
前世で、道教の祈祷師が、病人を治すと言いながら、高額な祈祷料を騙し取っていたのを思い出しました。この世界の魔法も、きっと同じようなものでしょう。人々を惑わし、金品を巻き上げるための、巧妙な手口に過ぎない。私は、魔法の才能がないと判定されたことに、何の落胆も感じませんでした。むしろ、彼らの愚かさを憐れむ気持ちさえありました。
しかし、両親の表情を見ると、事態はそれほど単純ではないようでした。彼らは、私の選別結果に、大きな衝撃を受けているようでした。まるで、私が不治の病にでも冒されたかのような、悲壮感漂う表情です。
「まさか、ウィリーが…魔法の才能がないなんて…」
父は、がっくりと肩を落としました。母は、涙をこらえながら、私を抱きしめました。
「大丈夫よ、ウィリー。魔法が使えなくても、あなたは私たちの大切な息子よ。」
彼らの言葉は優しいものの、その表情は、明らかに落胆を隠しきれていませんでした。私は、彼らの心中を察し、胸が痛みました。彼らは、すでにこの世界の宗教に深く染まっており、魔法使いの才能を持つことが、どれほど重要なことなのかを、心の底から信じているのでしょう。
私は、彼らを安心させたいと思いましたが、どう言葉をかけて良いのかわかりませんでした。魔法が使えなくても、私は幸せに生きていける。そう伝えたいのに、言葉が見つかりません。
不安と焦燥感に駆られながらも、私は、必ず道を見つけ、両親を安心させると心に誓いました。
※1 宋朝:中国の歴史における王朝の一つ(960年~1279年)。日本でいうと平安時代中期から鎌倉時代末期にあたります。
※2 襄陽:中国湖北省襄陽市にあった都市。南宋の重要な防衛拠点だった。
※3 咸淳9年:南宋の度宗の治世における年号(西暦1273年)。
※4 元朝の軍隊:モンゴル帝国の軍隊。
※5 回回砲:イスラム圏から伝わった大砲。
※6 邵雍:北宋の儒学者・易学者・思想家。1011年 - 1077年。字は堯夫。諡は康節。
※7 易経:儒教で重視される経典の一つ。古代中国の占いの書。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
初めての投稿で、至らない点も多々あったかと思いますが、
楽しんでいただけたでしょうか?
この作品は、中国武術と異世界ファンタジーを融合させたら
面白いのではないかと思い、書き始めました。
私自身、中国武術や異世界転生ものが大好きなので、
この作品を通して、その魅力を少しでもお伝えできれば幸いです。
もしよろしければ、感想やご意見などをいただけると嬉しいです。
今後の執筆の励みになります。
これからも、読者の皆様に楽しんでいただけるような作品を
書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。