第一章(33) 入隊試験(21)
舞台に着いた後も特に会話はなく、緊迫した状況が続く。
嵐の前の静けさとはこういったことを言うのだろう。
この後の戦いはかなり大規模な戦闘になりそうだ。
グランの方を見てみると視線に気づいたようで、軽く親指を立てて反応を示してくれた。
グランも緊張ではなく楽しみという気持ちが強そうだ。
「それでは戦いの準備をしてください」
係員が五人に向けて指示をする。各々が所定の位置へと歩いていき、準備を始めた。
相手の位置としては左に灰色髪の人。左奥が青髪の人で右奥が赤髪の人だ。そして、右にグランがいる。
最初の配置としては悪いわけではない。
遠隔武器を持っている相手とは距離が近い。最初に戦いたいと思っていたから都合がかなり良い。
グランと戦う可能性ももちろんあるが、この配置なら赤髪の人と戦うのではないだろうか。
戦い方も一番似ているし、何より近接主体であることは間違いない。
グランが好んでいそうなシチュエーションだ。
そして、個人的に気になっているのは青髪の人だ。
やはりあの時感じ取った何かについて知りたくはある。
一度戦ってみたいが、まずは戦い方を見てから色々と考えてみよう。
「只今より最終試験を開始します」
全員が配置についたことにより開始の宣言がされる。
誰も慌てる様子はなくゆっくりと戦闘態勢に入っていく。
緊迫していた空気がより一層重くなる。一般人ならこの場にいるだけで逃げ出したくなるだろう。
それほどまでに重要な一戦なのだから。
「準備はよろしいでしょうか?」
五人の返答はない。
だが、全員の目は戦う準備ができているという気持ちが感じられるほどに覚悟が決まっていた。
それぞれが考えていることは多少なり違うだろう。
だとしても最終的にたどり着く考えは全員同じだ。
それは『勝利』。そのために今まで勝ち進んできたのだから。
五人の目を見てから係員が言葉を発する。
「始めてください!」
大きな声が舞台全体に響き渡る。
最終試験が始まった――。
開始の合図と共に動き出したのは赤髪の男だった。
攻撃の前兆があるわけでもなく、急に横へと走り出した。
様子見をするわけでもなく、いきなりの速攻。かなり好戦的なタイプなのだろう。
走っていくその先には青髪の男が待っていた。
「まずはお前から試す」
攻撃の構えを取りながらどんどんと距離を詰めていく。
詰め寄るスピードはかなり速く、油断していたらまともに防御する時間もないだろう。
だが、青髪の男は特に戸惑う様子もなく防御の構えを取った。
攻撃が当たる数歩先まで近づいたところで赤髪の男が攻撃を仕掛ける。
走る速度と自分の力を合わせてかなり威力の高い一撃を繰り出した。
その攻撃は体に命中すると思われた。
「……」
しかし、無言のまま速攻攻撃を軽々といなしてみせる男。
攻撃が当たりそうになる寸前で、無駄のない体の使い方により攻撃を避けるのが分かった。
そのまま攻撃が終わると思われたが、追撃を始める赤髪の男。
拳だけではなく膝といった足の攻撃も交えて戦っている。
一連の動きは綺麗で軸がしっかりしているが、何よりも力強さがある。
どちらも引けを取らない戦いが続いた。
「さすがに早い……」
ハクは二人の戦う姿に見入っていた。
今まで戦ってきた人よりも距離を詰める速度から攻撃までが圧倒的に早い。
もちろん今までの人たちが弱いというわけではない。
あの人たちが一枚、いや二枚くらい上手であるというだけだ。
ここまで勝ち進んできたのも納得ができるし、グランが強いと感じたのも分かる気がする。
「今までの戦い方じゃ少し厳しいかもな……」
これまでの戦い方でも相手にならないわけではない。
今どんな攻撃をしているのかをしっかり確認することができている。
並大抵の人なら何をしているのか全く理解することもできないと思う。
ただ早く動いていることしか分からないのではないだろうか。
つまり攻撃が分かっているということは、防御することもできるため、相手と渡り合えることは可能だろう。
だからといって押し切ることもできないと思う。
攻撃が分かったとしても反撃することはかなり難しいだろうし、決定打になるものが思い浮かばない。もしかしたら負ける可能性だってある。
「仕方ない……か」
万が一の場合は『その時』が来ることを考えよう。
「おらおらおらぁ!」
一方、二人の戦いはまだ続いていた。
追撃はかなりの速度になっており連撃と言った方が正しいとまで思える。
最初は攻撃を避けるだけだったが、さすがに今は槍を使って防御している。
だからといって状況が悪化したわけではない。
戦況は未だ互角といったところだ。お互い息一つ上げず攻撃、防御を続けており、周りも近寄れないというよりは近寄ってはいけないという感じだ。
「いきなりとばしてんなぁ!」
グランも戦いを見て反応を示している。
最初から攻撃を仕掛けていくのかと思っていたが、赤髪の男に一歩遅れを取ったみたいだ。
「早く俺も戦りたいぜ……」
本当は戦いに交じりたいのだろう。体を動かしたそうにしている。
だとしても今は、邪魔をするべきではないと考えているみたいだ。
戦いたい気持ちをグッと抑えて戦いの行方を見ている。
拮抗している熱い戦いは、グランにとっても気になることは間違いないだろう。
戦闘を始めずに見守るのも納得はできた。
「いいね!そうじゃなくちゃな!」
自分と渡り合えることに満足したのか赤髪の男が言い放った。
連撃を一度止め、後ろへと一歩下がる。
青髪の男も少し構えを解いて、次の攻撃に警戒する。
「これならどうだ?」
体制を少し低くし、右拳に力を込める。
その力は遠くからでも分かるほどの強さを感じた。
自分の持っている力を少しずつ、そして丁寧に拳へと伝えていく。
次第に右拳には絶大な力が生まれていくのだ。
「結果は変わらないさ」
表情を変えないまま言い放つ。この程度なら他愛ないということだろうか。
青髪の男も槍の構えを変え、次の攻撃に備える。槍を前と後ろに動かしながら、回転を始めた。
手慣れた動きで槍を自在に操っている。回転に繋げるまでの動きがとてもスムーズだった。
「余裕……ってか!」
表情が変わらない様子を見て、全く問題ないという気持ちなのだと確信をする。
その気持ちを打ち破るべく、渾身の一撃を繰り出した。
前に踏み込みながら力を込めた右拳を全力で振り抜く。
「『炎豪拳』!」
拳が前に進みにつれ炎を纏っていく。
攻撃をまともに食らったらただでは済まないだろう。骨が折れるどころか、かなりの火傷までしてしまう。
どう対処するのかと思ったが、青髪の男も反撃を始めた。
回転させた勢いを生かしつつ、槍が前に出た瞬間両手で持ち直した。
そのまま力強く拳へと叩きつける。
「『打水』!」
その攻撃は回転の勢いと自身の力により、相手の攻撃と同等の威力を生み出していた。
そして、拳に叩きつける瞬間、槍は水を纏っており、水の力は相手の攻撃の威力を抑える効果もあった。
ドンというかなり大きな音と共に衝撃波が走る。
攻撃だけでなく、炎と水がぶつかり合ったことで爆発のような現象が起こった。
その勢いで突風が舞台全体に襲いかかる。
「うっ……」
大きな衝撃波に全員が少し後ろに体が押されてしまう。
顔を腕で軽く覆いつつ、前を見てみる。
二人が戦っていた場所では煙が上がっており、どうなったか確認することができない。
まだ風も完全には収まっていない。それほどまでの威力をあの二人は生み出していたのだろう。
少なくとも二人の戦いを見ることはできた。今後の状況次第では、何か生かせるかもしれない。
「やるなぁ!」
グランは感動をしていた。
最後の戦いの始まりとしては十分すぎるほどの戦闘。
だが、今回は見ているだけで戦闘にはまだ参加していない。戦闘狂のグランが落ち着いていられるはずもなく、早く二人と戦いたくて仕方がない様子だった。
「負けられないな……」
ハクもまた気持ちを奮い立たせていた。
自分の力を知るためにはもってこいの強者だ。恐らく二人はまだ本気を出していない。
相手の力量を見るための小手調べといったところだろう。やはり全力で戦わないと勝てないかもしれない。
その時だった……。
ヒュンという音が一瞬耳に入る。
「っ……!!」
顔のすぐ横を銃弾が通り抜けていった。




