第一章(32) 入隊試験(20)
あの三人の内の誰か一人と当たる可能性は十分にあったが、まさかまさかの三人同時だ。
しかもグランとも戦うことになった。かなりの苦戦が強いられることは間違いないと確信を持つ。
「まさかあの三人だけじゃなくハクとも戦うことになるとはな……」
グランが話しかけてくる。
その声にいつもの力強さは全くなかった。
「そうだね……。でもあの三人とは戦いたかったんじゃないの?」
最初あの三人を見た時にグランは戦ってみたいと主張をしていた。
今はその時とは真反対の反応だ。だけどその理由は明確だ。
「まぁ、そりゃあそうだけどよ。ハクと戦うのがやっぱりな……」
予想通りだった。試験とはいえ、正直自分もグランと戦う気にはならない。
万が一の準備はできていたが、実際戦うことになるとかなり気分が落ち込む。
かといってそうも言ってられない。決められた以上戦うしかないのだから。
自分が思っていることをグランに伝えた。
「僕もグランとできれば戦いたくないよ。だからといって手を抜かれるのも嫌でしょ?」
「もちろんだ。全力で戦った上で勝敗をはっきりつけてぇ!」
「それならやるしかないよ。それに負けたとしても合格する可能性もあるんだ。
敵とか気にしてる方が全力出せなくなっちゃうよ」
最終試験においての一番重要な部分はここだ。
たとえ負けたとしても、力を示すことができれば合格する可能性は十分ある。
それなら、その力が出せなくなるような状況を作っては駄目だ。
全力で戦うことでお互いの為にもなるのだから。
ハクの言葉を聞いたことでグランは笑顔になった。
「あぁ。そうだな!俺らしくねぇし、無駄に心配かけちまった。ありがとなハク!」
いつもの調子を取り戻すグラン。これでこそ僕が知っているグランだ。
これで一番大きな問題は解決した。根本的な部分を解決したわけではないけども……。
となると次の問題はあの三人だ。実力も戦い方もまるで分っていない。
ただ強いということだけは間違いなく伝わってくる。
「グランちょっといい?あの三人についてちょっと話しておきたいことがあるんだけど」
「おっ、なんかの作戦か?」
「作戦ってわけじゃないけど一応ね」
一緒に三人の方を見て持っている武器を再確認する。
赤髪の人は武器を持っていないので、恐らく格闘スタイル。
青髪の人は変わらず槍を壁に立てかけており、灰色髪の人は狙撃銃を持っている訳だがこの武器から推測できることがある。
「武器はグランにも何となく分かるでしょ?」
「あぁ。それがどうしたんだ?」
あの三人の戦い方と僕らの戦い方で考えられること。
それは一人だけが有利な点だった。
「僕とグランの戦い方って近接でしょ?赤髪の人と青髪の人も武器から予想するに近接だと思うんだ。けどもう一人の武器はどう?」
説明をされたことでハクが伝えたいことに気付く。
「一人だけ遠隔武器ってことか?」
「うん、合ってるよ。あの人だけ遠くで戦うことを得意としている武器。
だから僕たちどころかもう二人も不利ってこと」
恐らくそのことについては、残りの二人も戦う時には気付くと思う。
かといってどんな状況になるかはまだ想像もできない。
遠隔武器は後回しにする可能性もあるし、逆に狙ってくれる可能性もある。
「だから気を付けてね。遠隔主体とはいってもどんな攻撃をしてくるかは分からないし」
「なるほど、忠告助かるぜ。他の奴と戦ってるってのに、遠くから邪魔されちゃたまったもんじゃねぇしな」
グランの性格からしても近接で戦うことが一番楽しいと思う。
手を組むわけではないが、状況次第では一時的な共闘をできるかもしれない。
「試験者の皆様、最終試験の準備ができましたので案内を開始します」
話がちょうど終わったタイミングでアナウンスがされる。
「グループAは左前の扉。グループBは左後ろの扉。グループCは右前の扉。
グループDは右後ろの扉。グループEは左奥の扉へと向かって下さい」
今回は一斉に試験が始まるようだ。
戦況を同時に見比べることで力量の差を明確にするつもりだろうか。
最終試験なので今までと形式が変わるのも不思議ではない。
そして、アナウンスがされたということはもう戦いの準備はできない。
グランと話すことしかできなかったが、十分リラックスすることはできた。
特に問題はないだろう。
「ハク!最後まで気張って行こうぜ!後悔のねぇようにな!」
「うん!」
一緒に左奥の扉へと向かう。
左右には他の3人の姿が見えており、次第に距離が近くなっていく。
すぐそばまで来ると、青髪の男が軽く会釈をしてきた。少し驚きながらもハクとグランは会釈を返す。
他の二人は特に反応を示すことはなかった。
「思ったより良い人なのかな……?」
心の中で考える。
戦う前に会釈をされたのは今回が初めてだ。
龍の国の礼儀か作法なのかもしれないし、性格上の問題なのかもしれない。
そしてもう一つ気になることがあった。
会釈をされた際、最初姿を見た時に感じた『何か』を全く感じ取ることができなかった。
原因は今になってもよく分かっていない。戦いが始まったわけではないので、まだ敵意を向けていないだけということかもしれない。
戦えば何か分かる可能性もあるので、一応気にしておくことにした。
会釈をしてきた後は、特に会話はなくコンタクトもなかった。
五人だけで扉の奥に続いている道を歩いていく。
全員が誰とも喋ることもなく、係員のもとに着いた。
番号や武器の確認を済ませ、戦う場所へと案内をされる。
係員の後ろを付いていくと明るい光が見えていた。
その光は不思議と眩しく見えており、この光の先には最後の戦う舞台が待っているのだろう。
今まで戦った舞台と何も変わらないと思う。だが、場所は変わらなくとも間違いなく今回の試験で一番特別な戦いになる。
そんなことを考えるハクの表情は、とても明るい表情をしていた。
「楽しみだな……」
五人は最終試験が行われる舞台へとたどり着いた。




