第一章(30) 入隊試験(18)
「控え室はあちらの扉にあります。心より応援していますので、頑張ってくださいね」
手を扉の方へと向けて説明をしてくれる。その後、深々とお辞儀をして不合格者たちを連れていった。
そのまま終わると思ったが、途中で男二人がハクに近づいてきた。
それは最初に戦った男たちだった。
「まさか宣言通り本当に一人で四人を倒しちまったな。見た目だけで判断するとよくねぇってこった」
笑いながらもハクを賞賛する格闘家の男。
続けて道着の男も話してきた。
「君の力には驚かされたよ。私もまだまだ鍛錬が足りないな。最終試験も頑張ってくれ」
自分の力不足を痛感した戦いだったのだろう。かなり悔しそうな顔をしている。
だが、気持ちを早々に切り替え、応援する言葉をかけてきた。
「正直連戦は大変でしたけどね。でも、ありがとうございます。皆さんの意志を力に変えて最終試験合格したいと思います」
「はっ、随分かっこいいこと言うじゃねぇか。その言葉信じるぜ。俺はまた再来年頑張ることにするよ。あんたもだろ?」
「そのつもりだよ。私はまだ強くなれることが分かった。次の試験までは鍛錬に励むつもりだ。お互い頑張ろうじゃないか」
「そうだな。次は正々堂々サシで勝負しようぜ」
お互いが今回の敗北を知ったことで高め合う存在に変わっていた。
その姿は一時的な協力関係である時とは違うものだった。
これが戦いを交えることで友情が芽生えるということなのだろう。
「そんじゃ俺たちは行くぜ。係員を待たせるわけにもいかねぇしな」
係員の方を見てみると、話が終わるまで待ってくれていた。
目が少し潤んでいる。恐らくこういう話に弱いのかもしれない。
「はい!また会えるといいですね。次は政府軍の仲間として」
それぞれと握手を交わし、男二人は別れを告げて係員の後ろに着いていった。
背中が見えなくなるくらいまで見送る。
その後、ハクは一人で反省会を始めた。
「かなり手強い人たちだったけど何とかはなった。正直危ない橋を渡った感は否めないけど。でも今回で手を組んでくる人たちもいるってことが分かったし、次もそうしてくる可能性がないわけじゃない。一応警戒しておこうか。それに……」
ハクが少し考える。
その表情は暗いようにも見えた。
「いやこんなことを考えるのはよそう。万が一そうなってもその時にどうすれば考えればいい」
自分の両手を見て軽く握った。
少しだけ目を閉じる。周りの音は相変わらず何も聞こえない。
まるで世界に自分一人しかいないみたいだと思う。
目で確認できる情報は黒く何も見えない。
ゆっくりと目を開ける。光が目に差し込み、明るい世界が映し出される。
「それじゃあ行こうかな。グランも待ってるはずだろうし」
ハクは最後の控え室に続く扉へと向かった。
「よっ」
扉を開けると控え室にいる全員の視線がハクに向けられる。
その中にはあの3人とグランの姿もあった。
「来たな!ハク!ずいぶん遅かったじゃねぇか!」
グランが大声で名前を呼びながら走ってくる。
「遅かったってことはもしかして……」
「おう、ハクが最後だったぜ。この場にはもう30人揃ってる」
思っていたより遅くなってしまったようらしい。
他の試験者たちは同じ状況に陥らなかったか、なったとしても対応できる力を持っていたか。
正解は知る由もないが、この場所にいる全員は間違いなく強いことだけは分かる。
ハクとグランが話を始めると、他の試験者たちは自分のことに集中をし始めた。
「なんかあったのか?」
グランが少し心配そうに問いかける。
「ちょっと色々あってね。でも特に怪我もないし大丈夫。心配かけたならごめんね」
「それならいいんだがよ。それにそこまでは心配してないぜ。試験が始まった時からハクなら大丈夫だと思ってたからよ!」
笑いながら話すグランを見て自然に笑顔になった。
いつも場を明るくしてくれる。これがグランらしさなのかもしれない。
「そうだハク。ここにはもう30人しかいねぇ。つまりは全員の顔を見ることができるだろ?一通り見たんだが、あの三人より強そうなやつは俺には分からなかった。ハクはどう思う?」
グランに言われて周りを見てみる。
確かに今の人数なら全員のことを確認するのは容易だろう。
左からゆっくりと全体を見ていく。
見た限りだと、自分たちと同じく知り合いがいる境遇の者はいないようだ。
誰も他の人と喋ってはいない。
「んー」
次は顔と体、武器の有無などを確認してみる。
「あっ……」
ハクはある一人の女の子に目を止めた。
椅子に座ってドリンクを飲みながら休憩をしている。
容姿は目が隠れるくらいの前髪の長さで髪は橙色。
服装は和風の上着を着ていて、ショートパンツを履いている。
武器は何も持っていない。つまり格闘スタイルで戦う可能性が高い。
「あの子少し気になるかも……」
ハクが気になる人となってはグランも黙ってはいられない。
興味津々の顔つきで誰なのか聞いてきた。
「おっ、いたのか!ハクの気になるやつってどいつだ?」
「あそこに座ってる女の子だよ」
ハクが目線を向けている方にグランも視線を動かした。




