第一章(29) 入隊試験(17)
「何をしたの?」
後ろの女が聞いてくる。
地面へと落ちてゆく剣が、頭を少し過ぎた後に拘束がとけたのだ。
何をしたのか後ろから見えないのも不思議ではない。
「左手を使ったのよ……」
もう一人の女が目の前で起きたことを説明する。
そう言われて後ろの女は少し移動し、左手を確認する。
ハクの左手には剣が握られていた。
それはつまり、上に投げられた剣を左手でキャッチしたということだ。
回転している中で正確に。
「僕もあなたと同じで『両利き』なんです。右手で剣を使っていたから特に疑いもせず右利きと思ったはずです。だからこの作戦が使えた」
相手の反応を見て詳細を話し始めるハク。
「じゃあもしかして剣を上に投げたのはやっぱり……」
まさかと思いつつ、質問をしてみる。
「多分合ってますよ。剣を上に投げたのは左手に渡すためです。右手を上手く使えなくされたとしても、手首くらいなら動かせますから。
それに左手で剣を取ろうとしても恐らく阻止される。そんなことは見逃さないはずです。
なら投げればいい。見ている分には諦めたようにも見えますからね」
「そんな危険なことやるなんて……」
まさかの発言に驚きを隠せない二人。
狙ったところへ投げたり、回転数を予想することは簡単ではない。
いくら勝負に負けたくないからといっても今回はあくまで試験。本当の戦いではないのだ。
しかも、剣を上に投げたとしても万が一取れなかった場合はどうなるだろうか。
その時点で負けは確定。だが目の前の少年はやり遂げた。
「そのために集中してたんです。剣の回転度合いとかを予想して、左手に持ち替えれるように。今は模造の剣ですけど、本物だったら左手無くなっちゃいますからね」
冗談交じりに笑うハクを見て、二人は確信をした。
この子は思っていたより「只者」ではない。
「つまり舐めていたのはこっちだったってことね……」
しかし、勝負はまだ終わってはいない。
まだ鞭を切って拘束を逃れただけだ。もう一人相手はいる。
「だけど忘れていないかい?まだ私がいるよ。この鎖で痛みつけてあげれば一人戦えなくなっても問題ない話さ」
後ろから話しかけながら、鎖を地面に叩きつけてハクを威嚇する。
一対一になっても負けるつもりはないらしい。
しかしハクは恐れることもなく後ろを向き対峙した。
「もちろん忘れてませんよ。だから今そうさせないようにします」
圧倒的不利な状況を覆したことでの自信の表れなのだろうか。
妙に勝ち気でいるハクを見て苛立ちを覚える。
「やれるものならやってごらんなさい!」
鎖を振り回し始め、ハクの方へと走っていく。
「これ以上試験を長引かせたくないし、もう終わらせます」
左に持っていた剣を右手に持ち替え、軽く構えた。
右足を少し引き、前姿勢になりながら相手の出方を伺う。
「覚悟なさい!」
鎖を上へと振り上げ叩きつけようとする。
しかしハクは動じることもなく、一歩踏み込んだ。
「『流光』」
その言葉を発すると同時に女の方へと斬りかかった。
光が一直線に流れていくのと同じくとても綺麗で自然な動き。
ハクが女の後ろにいる時には、鎖が切られていた。
「なっ……」
何をされたのか全く分からない。
攻撃しようとしたその時には鎖は切られていた。
ハクは後ろを確認することなく、ゆっくりと剣を鞘へと入れる。
「これでもう終わりですね」
女二人に向けて言い放つ。
鞭も鎖も切られ二人の武器は使い物にならなくなった。
このまま降参を宣言すると思われたが、そうではなかった。
持っていた武器を地面に投げ捨て、ハクの方を向く。
まだ諦めてはいないようだ。
「まだ、終わりじゃないわ!こうなったら私たちの手で直接可愛がってあげる!」
「もう勝ったつもりかしら?舐めた真似してるんじゃないよ!」
女二人が走ってハクの元に向かう。
だがハクは身構えるどころか心配そうな目で二人を見る。
「あっ、来ない方が良いですよ。危ないと思い……」
しかし、走り出した体はそう簡単には止めることができない。
忠告を言い終わる前にその理由が明らかになる。
「えっ?キャー!!」
舞台の一部分が崩壊したのだ。壊れた部分から舞台下へと落ちていく。
「鎖であれだけ舞台を攻撃したら地盤も弱くなると思いますし、さっきの攻撃の時にちょっとだけ斬っときましたから」
鎖を切った際に舞台の一部分にも斬りこみを入れていたのだ。
さらに地盤が弱くなったことで、その上を少しでも歩くと崩壊してしまう程度に。
何か言ってくると思ったが返事は返ってこない。さすがに心配になり、崩壊した部分へと歩いていく。
「大丈夫かな……」
落ちていった二人を見てみる。見た限り無事ではあるみたいだ。
だが、白目をむいて気絶をしている。急に足場が無くなって下に落ちたから無理もない。
二人のためにもあまり見ないようにしておいた。女性としては見られたくもない姿だろうし。
安否を確認したあと、係員の方を見る。
「係員さん!これって場外判定ですか?」
係員に向けて大声で確認を取る。
「す、少しお待ちください」
舞台が壊れる自体になったと思ったら、次は急に質問をされる。
明らかに焦っている様子が感じられた。
返事をすると舞台の壊れた部分まで来て確認を始めた。
「はい、お二人は地面に落ちたものと同じ状態のため場外と認めます。どちらにしても戦闘することは不可能だと思いまから」
「ということは、つまり……?」
係員の方をちらりと見てみる。
視線に気づいた係員は笑顔で言葉をかける。
「はい、ハクさんの勝利です。おめでとうございます」
「よしっ!」
笑顔で小さくガッツポーズをする。
ハクは二回戦も無事に勝ち進んだのだった。




