第一章(23) 入隊試験(11)
「おいおい正気かよお前!」
「その判断は正しくないと思うが……」
「あら威勢のいい坊やなことね」
「後悔するだけに決まってると思うわ」
四人がハクの発言に耳を疑う。
全員信じられないといった様子だ。
「意見を変えるつもりはないと?」
道着の男が確認してくる。
「もちろんですよ。この状況で嘘なんてつきません」
意見が変わらない様子を見て相手も諦めがついたようだ。
男性二人組が話を始めた。
「仕方ねぇ、子供一人を痛みつけるのも少し嫌だが、今回はあくまで試験。
仕方ねぇもんだろう。ちなみにだが、俺たちから戦うか?」
「一度あの女性たちにも聞いてたらどうだね。あちらから攻撃を始めたいかもしれない」
「おい、あんたら!どっちが最初に戦うんだ?」
女性二人組に問いかける。
ハクはその質問に対して考えていた。
「さっきの質問に一緒に戦うかっていう発言はなかった。
あっちからすると一番手っ取り早いのは四対一を作る状況。
けどそうすることはできないと思う。
恐らくだけど手を組むのは一人だけなんじゃないかな。
見た限り、手を組んでいるペアは戦闘スタイルが似ている。
共闘したことがなくても、ある程度は攻撃に合わせることができると思う。
攻撃の仕方が多少でも似てたら、動きの動作と分かったりするものだし。
そこに新しいペアが入ってきても合わすことが難しくなる。
見たこともない動きに自分の動きが合うはずないだろうから。
元々仲間で、ある程度攻撃を見たことあるとかなら別かもだけど。
それに入ってきたペアに裏切られたりしても大変だろうし」
女性二人が少し話した後に回答をする。
「あなたたちにお譲りするわ。楽しみなことは残しておきたい主義なの」
ハクの考えは的中した。
四人で一緒に戦うことは今の発言でなくなった。
「そうかい。レディファーストと思ったが、そうもいかないようだ。
だが、その発言は建前だろう。私たちが少しでも疲労したところを狙うという作戦かな」
「まぁ、口がお達者なこと。私たちは美味しいものを最後に食べる。その事実は変わらないわ」
そう言いながらオホホホと笑う女性たち。
そんなやり取りを何とも言えない目で見ているハクだった。
「とのことだ少年!まずは私たちが相手になろう。いや、私たちで終わりにしてあげよう」
その発言の後、隣の男も喋る。
「俺たちの拳からはそう簡単に逃げられないと思うぜ。覚悟しな!」
俺達にはそう簡単に勝てないぜという感じだ。
かといってこちらも簡単に負けるわけにもいかない。
この不利な状況でも勝つことができないと、『約束』を果たすなんて夢のまた夢だ。
その約束を果たすために今まで力を付けてきたんだ。こんなところで負けたらなんて言えばいい。
それにグランにも申し訳ない。また会おうぜって『約束』したんだ。
友達との約束を破るわけにもいかない。友達を悲しませるなんて御免だ。
「僕のことを『待っている』人がいるんだ。だからここで負けるわけにはいかない」
真っすぐな目で男性二人組を見る。
その目を見たことで、この少年は全力で戦わないといけない。
そうしないと無礼になると察する二人。
少年は降参することなど全くない。負けるつもりなど一切ないのだろう。
そんな目をしている。年下のしかも少年がしているのだ。
恥をかかすわけにもいかない。その覚悟を受け止める必要がある。
すなわち全力で戦うまでだ。
「行くぞ!」
男二人がハクに向かって距離を詰める。
その後、左右に分かれてハクを挟む形になった。
これでどちらからも攻撃が可能な状況へと変わる。
それぞれが戦闘の構えをとった。
「最初に攻撃してくるのはどっちだ?同時攻撃の可能性もあるか」
少しだけ様子を見ていると、まず道着を着ている男が攻撃を仕掛けてきた。
「でやあああああ!」
走りながら拳に勢いをつけて攻撃をする。
「上!」
顔を目掛けて的確に拳を突いてくる。
だが、その攻撃を躱すハク。
「あの攻撃食らったら痛いだろうなぁ……。
一発がかなり重い打撃になってる。
まだ一発ずつだから避けれるけど、連続で攻撃してきたらまずいかも」
その後も強い攻撃を続けてきた。
「中!アゴ!回し!」
段々と連続攻撃に近い形になってくる。
剣を抜き攻撃に備える。
「武器など関係ない!でやああ!」
手の構えを変えて別の攻撃を仕掛けてきた。
「顔面!」
その攻撃を剣で防ごうとする。
「手刀の類か!」
剣で防ぐことはできた。だがその一撃は想像以上の威力だった。
「くっ!」
体が後ろに下がっていく。
その光景を見て道着の男が説明を始める。
「手刀かと思って油断をしたのだろう。だが私の攻撃は全て同じ威力で繰り出せる。
技によって明確な弱点があっては相手に見抜かれてしまうからな。
この領域になったのも鍛錬あっての賜物だ」
確かに手刀だと思って油断した。
剣に手刀で立ち向かうことができるのかと。
しかしその考えは甘かった。
「そして忘れていないか。私一人だけではないということを」
ハクの体が後ろに下がったことで、もう一人の男の方に近づいていく。
「次はこっちの番だぜ!」
待ち構えていた男が攻撃を仕掛ける。
「ストレート!」
真っすぐ打ち抜かれた拳がハクに向かってくる。
「やばっ……」
拳が命中するかと思われた。が、寸前で上に飛ぶことで回避した。
「ふー」
追撃がなかったこともあり、一息つくハク。
「おーよく躱したな。今のでくたばっちまっても困るからな。
さすがに一人で勝つって言ってるだけはあるみたいだな」
攻撃を躱したことを褒める格闘家の男。
「ありがとうございます」
素直にお礼を言うハク。
しかしそんなことを言っている場合でもなかった。
相手の連携は思っていたより上手く嚙み合っている。状況も変わらず不利なままである。
二回戦第一ラウンドは始まったばかりだ――。




