大失敗
神界の更に高次元にある幻界から、お呼び出しを食らった。
うーっ、行きたくない。
幻界には複雑に混ざり会う『意思』だけがあり、一切の物質がない。
正直あたしはここが嫌いだ。
しかも、今回は大失敗の報告をするのよ。
「スファーラただいま到着後しました。」
物質がない世界に入る。
複雑に混ざり会う『意思』しかないので、距離も時間も概念がなくなる。
どこにいても同じなので、さっさと報告を済ませちゃいましょう。
「・・・と言う訳で、本来交わる事がない異世界が往来できるようになり、実験は失敗しました。」
「なるほど、万が一のためメンテナンスできるようにと作った抜け道を利用されたか。」
異世界同士は絶対に干渉できないように設計した。
各異世界からは意図的に干渉できないはずだった。
まさか、私が封神したタイミングでダンジョンをねじ込まれるとは思わなかったわ。
「はい、管理者機能に割り込まれた事により、元太ちゃんは世界ロジックから管理者扱いを受けました。
だから、世界ロジック使って排除できません。」
「そして、スファーラより有能だから、君が直接排除できないと。」
「あたしより有能ってひどーい。」
元太ちゃんはオブジェクトその1でしかないのに、『意思』の評価が私より上ってありえない。
「これ以上やってもまともなデータはとれないから、全ての世界をリセットしますか?」
「いや待て、その元太ちゃんは実に興味深い。
正直、管理者機能に割り込みをかけてくるオブジェクトなど想定外だ。
そのまま実験を続行せよ。
スファーラの神界が乗っ取られても問題ない。」
何よそれ、元太ちゃんがいる世界で言う、AIに現実が乗っ取られるって奴じゃない。
「私が大問題よ!
うわ~~ん!」
切り捨てられたーっ!
『意思』に泣き落としがきくかも分からないけど、必死に抗議する。
そんな私に容赦なくハリセンが振り下ろされる。
「いたーい」
「いつまで泣き真似してんだこのダ女神、仕事しろ仕事!
次の封神先どこだ?」
「げっ!元太ちゃん!!」
あたしにハリセンを振り下ろしたのは、空間型ダンジョンから現れた元太ちゃんだった。
そりゃそうよね、『意識』にはそんな事できないんだもん。
「ところで何だここ、気色悪いな。」
「お前が元太ちゃんか。」
『意思』が元太ちゃんに伝わる。
「そうですけど、ひょっとしてダ女神の上司ですか?」
「ダ女神か。
確かにここに来た痕跡を消さず辿られたスファーラはダ女神だな。」
「ひどーい、ちょっと神界から幻界に来ただけなのにーっ!」
「それ、空き巣に入られた奴の言い訳と一緒だぞ。」
そんなこと言ったって、今まで神界に乗り込んできたオブジェクトはいなかったんだから、しょうがないじゃない!
「えーと、上司さん、話の腰を折ってすみません、」
「いや、要件は終わった。
元太ちゃんはこれからも自由に生きると良い。」
「ひえ~っ!なんて事を!」
自由に生きろって、ナミちゃんはおろかあたしでも干渉できない特権与えてるじゃない!
「それでは、これにて失礼します。」
「いやーーっ、吊るされるーーっ!」
あたしは、元太ちゃんに首根っこを掴まれ、空間型ダンジョンに引きずり込まれた。
元太ちゃんは、この後500年にわたり、空間型ダンジョンで異世界同士をつなぎまくった。
当初の目的だった要素を変えた世界を作り、観察するといった目的からは、かけ離れてしまった。
しかも神界まで観光客が押し寄せるようになり、あたし自身も実験に巻き込まれる始末だ。
もう嫌!実験大失敗!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。