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大ダンジョン時代

 鈴木元太が月に作ったダンジョンでは、大したドロップアイテムが出なかった。

 いわゆるハズレダンジョンだ・・・と思われたが、『スペース砂かけババア』というレアな魔物がダンジョンマスターの魔水晶をドロップするのが分かると、国家をはじめとした様々な組織が月のダンジョンに乗り込んだ。


 結果、ダンジョンマスターの天職を授かる人が大勢現れ、地球は5000を越えるダンジョンが乱立する事態になった。


 そうなると、トランスポータルの罠を仕掛けまくり、国境を超えるダンジョンマスターが当然のように現れた。

 特に善行主義国のダンジョンマスターは、その傾向が顕著だ。

 善行主義の国は、入国審査がないので、密入国や密輸という罪がないからだ。

 もっとも、禁制品は不法所持の罪で検挙され、麻薬に至っては所持してるだけで日々カルマが下がる。その上金がないので売れない。

 密輸する奴は皆無だった。


 これが資本主義の国となると、パスポート偽造や犯罪者の取り締まり、ビザなどの必要書類の不備といった、善行主義ではどうでもいい事を確認しないといけない、抜け道はまずいのだ。


 資本主義の国々がダンジョンマスターを規制しようにも、善行主義の国には手が回らない。

 自国のダンジョンマスターについても、ダンジョンをまともに管理しているダンジョンマスターはほぼ無敵なので、力ずくで言う事を聞かせられない。


 資本主義経済の国は、大量にあるダンジョンの出入り口全てに職員を配置し、入国審査する羽目になったが、今度は一般の探索者が毎日出入国審査する羽目になった。

 カルマ目当てなら、審査がない善行主義国にドロップアイテムを献上した方が利便性が良い。

 しかも善行主義経済における経済基盤が弱い国に献上した方が、よりカルマが上がる。

 善行主義に移行しても、資源不足が緩和されるので、資本主義から善行主義に移行するハードルが下がるのだった。





 月日は流れ、俺が異世界から帰還して50年が経過した。


 資本主義はついに絶滅した。

 原因は、やはり魔法の仕組みを解き明かした事と、価値観が変わった事だった。

 日本も国債の発行額が1京円に達した辺りで善行主義に移行し、国債を堂々と踏み倒した。

 反対の声が上がったのは資産家と一部の議員のみで、大多数の国民は、意外とすんなり受け入れた。

 国民は、俺が異世界から帰る前から、まともな手段で国債を全て償還するのは不可能だと思っていたようだ。

 正確には、価値がゼロになって誰も見向きもしなくなった日本円を払ってもらえるけど。

 俺も結構な資産家だったが、預金がゼロになっても惜しいとは思わなかった。

 世間のやり方から外れないようにしてたら、いつの間にか金が溜まってただけで、異世界から日本に戻ったときから、金は割とどうでも良かった。


 善行主義の国では、予想通り技術革新が鈍くなった。

 しかし、本当に必要な技術は、採算を考えず開発するので、資本主義の時代より開発が進む事もある。


 その1つが、空間型ダンジョンと地球とで通信できる超空間通信だ。

 超空間通信は、その名の通り空間を飛び越えて通信する技術で、カオス様が地球で集めた情報を、神界に送るときの仕組みを利用した。

 なので、神界とも通信できる。


「カオス様、やっとあのダ女神に超空間通信がつながりましたよ。」


「こら、スファーラ様をダ女神呼ばわりするな。」


「あんなのダメ神で十分、あいつがイザナミ様の名前をまともに覚えてたら、2年早く異世界から帰って来れたのに。『ナミちゃん』じゃ分かんねーよ。」


 イザナミ様は、高野山奥の院の地下から行ける黄泉ダンジョンにいた。


 なんでも、信長が紀伊の国に兵を向けた際、高野山を焼かれそうになったから、明智光秀の魂を作りかえ、むりやり本能寺の変を起こしたのだそうだ。

 生きてる人の魂を作りかえるのは禁じ手だったようで、世界ロジックの防衛機構にひっかかり、ダ女神から封神を食らったそうだ。


 父さんから高野山の奥の院の地下にある黄金の身代わり大師の話を聞いて、俺が観光に行かなかったら、今もなお封神は解けてなかっただろう。

 正確にはターミナルダンジョンの出入り口を持ち込んだだけだから、まだ封神中だけど。


「アレ大変だったんだから。

 ダンジョンに入るなり、イザナミ様が光の速さで抱きついてきて、丸一日泣き続けるから全く身動き取れなかったんだぞ。

 おかげで服が涙と鼻水まみれでヌルヌルになった。」


「それは・・・大変だったな。」


 カオス様もクノッソスから出られないけど、データ収集はできたし、世界ロジックの抜け穴を狙ってクノッソスの記憶を公開できた。

 それでも初めてだんじょん荘に来たときは、大ハッスルしてたもんな。

 外部との関係を完全に絶たれた状態で500年以上放置って、俺なら脱獄するぞ。


「ええ、大変でしたよ。

 聞いてますか?ダ女神。」


「あたしダ女神じゃないもん!」


 超空間通信でダ女神が文句を言ってくる。

 まあ、いつまでもダ女神もないから、そろそろ許してやるか。


「それじゃ、イザナミ様の封神解いてください。

 もう500年以上経ちましたから、そろそろいいでしょ?」


「えーと・・・それが、解除する事考えてなかったから・・・てへっ(はあと)」


「てへっぢゃねーよ!やっぱお前はダ女神だ!

 そういやお前、『ナミちゃんみたいにデータ送って来ないのが何人もいるよのねー』とかグチってたけど、そいつら全員封神で働けないだけじゃないだろうな。」


「・・・えっと、そんなことよりホラ、ついにナントカって所に手下が到着するんでしょ?

 みんなで見ないと。

 衛星まで行った文明は他にもあったけど、他の惑星まで行けた文明は他にないのよねー。わーたのしみー。」


「この野郎、超空間通信で神界の座標は割れてるからな、後でおぼえてろ。」


 このダ女神、後で絶対吊るしてやる。


 今日は第1ダンジョン艦隊がアステロイドベルトに到着する日だ。

 カオス様は何も言わなかったが、かつてハンブルクで俺に捕まった小惑星は、ここから来た可能性が高い。

 まだあるかも知れない、まるごと魔金属の小惑星が。


「こちらフロンティア号、小惑星はただの鉄です。」

「こちらスーパーダンジョン号、小惑星の主成分は金です。」

「こちら지구号、周期表にない元素を発見!魔金属の可能性あり。」

「こちらジャンヌダルク号、見つかりました!準惑星ケレスにオリハルコンです!!」


 オリハルコンの発見に、国際ダンジョン連盟のみんなから大歓声が上がる。

 ああ、見つかってしまったか。

 しかもオリハルコンだ。


「わかった。元太様に行っていただく。

 ビーコンを設置して引き続き探索を続けよ。」


 あーあ、アステロイドベルトに出張ですよ。

 火星とアステロイドベルトの中間に見つかった小惑星ドゥルガーのダンジョンから、アステロイドベルトまで何年かかると思ってるんだ?

 ドゥルガーに行くのだって、結構ヒマだったんだったんだぞ。

 とは言っても、空間型ダンジョンを操れるのは俺しかいない。

 ダンジョンマスターは他にも大勢いるのに、空間型ダンジョンは、誰も修得できていない。

 これだけは異世界召喚を食らって、死ぬ気で帰って来ないと修得できないかもしれないな。


「元太様、申し訳ありませんが・・・」


 何も悪い事してないのに、国際ダンジョン連盟の盟主が申し訳なさそうにやってきた。


「分かってる、ダ女神をシメたらアステロイドベルトまでターミナルダンジョンの出入り口を届けに行くよ。

 第1ダンジョン艦隊も迎えに行かないといけないし。」


「えーーーっ!あたしシメられるの確定!?」


 アステロイドベルトまでの出張に、封神された神の救出に、ダ女神への体罰、やる事が満載だ。


「えーと、第2ダンジョン艦隊は今度木星目指すんだっけ?」


「いえ、今回アステロイドベルトにオリハルコンが見つかりましたので、今後はアステロイドベルト開発に重点が置かれます。

 アステロイドベルトより先は木星との間に小惑星を発見してからとなります。」


 そこに、壮年の千代が駆け込んできた。


「おっちゃん!大変よ!!

 太陽系の外から小惑星が来るわ!

 あれにうまく飛び乗れば、アステロイドベルトのケレスまで行った後、天王星にランデブーできるかもって!」


 唐突すぎる。


「カオス様、なんか仕込んだでしょ。」


「何の事かな?」


 こうみえてもカオス様との付き合いは長い。

 たまに、図ったようなタイミングで、誰の仕業かバレバレの天変地異を起こす事があるのだ。

 そんな事して世界ロジックから制裁受けないのか聞いてみたが、抵触しないギリギリのラインは見極めてるから大丈夫なんだそうだ。


「おっちゃん、急いで!」


「そうよ元太ちゃん、私になんか構ってる場合じゃないわ!」


「ダ女神、お前の命令か。」


「何の事かしらー?」


 ダ女神が、わざもらしくシラを切る。

 この野郎ムカつく。


「もう『帰ってきたダンジョン号』はスタンバイできてるわ。」


「後でおぼえてろよ。」


 俺は小惑星ドゥルガーに移動し、帰ってきたダンジョン号を発進させた。

 アステロイドベルトの前に太陽系外小惑星か。


 今回は名無しの太陽系外小惑星に、帰ってきたダンジョン号とターミナルダンジョンの出入り口を届けておしまいだ。


 その後、準惑星ケレス接近したら、にターミナルダンジョンの出入り口を届けダンジョンマスター達を回収して、アステロイドベルト開発に天王星の開発、場合によっては太陽系を飛び出したその先もダンジョンが必要かもしれない。

 あ、封神された神様達の救出もあるか。


「その前に、ダ女神を吊るす!」


「ひえーっ!つっ、吊るすってなによ吊るすって!」


 超空間通信の端末からダ女神の悲鳴が聞こえてきた。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

 ダンジョンネタが尽きましたので、次回が最終回となります。

 執筆当初はロストテクノロジーを避けるため、資本主義を残す予定でしたが、話を続けていくうちに、存続不能になってしまいました。

 資本主義が消滅するまでの経緯とその影響も書きたかったのですが、ネガティブな内容の連続の上にくどくなるので断念しました。

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