国際ダンジョン連盟
俺が異世界から帰還してから17年が経った。
世界的な不景気の影響もあり、だんじょん荘の住人は1億人に達し、日本人だけで東京の人口を抜いてしまった。
その東京の人口も900万人まで減って、大手のゼネコンが2社も倒産した。
新築のタワーマンションが一室も売れないまま、まるごと不良資産となったのが痛かったようだ。
国際ダンジョン連盟は、発足しないまま、ダンジョン課がまとめた『ダンジョン利用のガイドブック』がそのまま全世界の探索者の指針となった。
俺が『ダンジョン利用のガイドブック』を守れる国だけ白浜ダンジョンと接続すると言ったら世界の国々が次々と賛同したからだ。
かつてだんじょん荘とクノッソスをつないだお試しの空間型ダンジョンは、各国の出入り口が集中する巨大なターミナルダンジョンとなった。
ターミナルダンジョン内は航空会社に配慮して、他国の出入り口は通れないように、各国にゲートを用意させた。
現在、ターミナルダンジョンを経由した出入国や貿易を認めるのか否かは、国際的な論争になっている。
結論が出るのはしばらくかかりそうだが、密輸は直接カルマが減らないので、ダメと言われてもやる奴はやりそうな気がする。
各国から通信環境を何とかしてくれと言われてるが、残念ながらそれは無理だ。
俺も努力はしてきたが、カオス様と出会い、世界ロジックの存在を聞いて、ようやく原因が分かった。
俺の空間型ダンジョンと地球とでは、世界ロジックの電磁波の仕様が若干異なるのだ。
つまり、ターミナルダンジョンから地球に通信するという事は、地球から異世界に通信する技術を開発するという事なのだ。
ハードルはめちゃくちゃ高い。
通信が壊滅的でも、安全にスキルを修得できる白浜ダンジョンの利用者は多い。
スキルを得た人は自国にもどり、ダンジョン探索に精をだし、一気に通常ダンジョンの探索が進んだ。
その結果、様々な天職の魔水晶が見つかったが、ダンジョンマスターや転職士といった檄レアの天職は見つからなかった。
なので、世界中にダンジョンを作る作業は依然として俺の仕事のままだ。
「うーっ、いっくらダンジョン作っても次々依頼が来るよーっ。」
「おっちゃんお疲れ様。」
ちーたん改め千代がカピバラの姿焼きを用意してくれた。
「そういや、秘書検定1級合格したんだってね、おめでとう。」
「あんなの天職があれば大した事ないわよ。」
千代は中学の卒業と同時にだんじょん荘に引っ越してきた。
昔は高校に進学するのが一般的だったが、最近では有名大学に入るには、学習ダンジョンでスキルを修得しつつ、通信教育で高卒の資格を取るのが一般的になっている。
もっとも、最近の学歴はカルマやスキルを合わせた1要素にすぎず、たとえ東大卒でもカルマが悪いと、中小企業はおろかコンビニのバイトですら採用されない事もある。というか、頭が良くてカルマが低い奴なんて危なくて採用できない。
その就職自体も、白浜ダンジョンで狩れば生活できるので必須ではない。
俺は中学卒業のお祝いにと、どこかのダンジョンで手に入れた魔水晶を使わせ、千代は秘書の天職を授かった。
今は大学進学を捨てて、鈴木蓮の秘書をしている。
その鈴木蓮は、一足飛びどころか十足飛びに今度発足する国際ダンジョン連盟の盟主に決まった。
盟主は当初カオス様の予定だったが、立場上一つの組織だけ深く関わるのはダメだと、断られた。
そこで俺の所に話が来たのだが、俺は俺で世界中にダンジョンを作りに行ったり、通信環境が壊滅的なだんじょん荘や白浜ダンジョンの管理をしたりと、連絡がつかない事が多いので無理だった。
そこで白羽の矢が立ったのが、白浜町にだんじょん荘が移転したときから運営に参加していた鈴木蓮だ。
「仕事うまくいってる?」
焼きカピバラをかじりつつ、千代に近況を聞いてみる。
「うん、こまかい事は言えないけど、うまくいってないよ。
国によって常識や思惑が違うし、時差があるから面会時間の調整とか大変。」
「天職があっても大変かー。」
「本当、各国の調整とか、経済とのバランスどうするのかとか・・・」
秘書の仕事は俺が思ってたより激務だった。
俺は心の中でスマンと謝った。
「えーと、国際ダンジョン連盟の発足はいつだっけ?
そろそろだったよね。」
「あさってよ。
おっちゃんも出席するんだから、忘れないでね。」
国際ダンジョン連盟の本部は、ギリシャのクレタ島に決まった。
クレタ島では、今日行われる国際ダンジョン連盟の発足セレモニーのため厳戒態勢・・・と思いきや、ガイドが多数配置されてるだけで、警備態勢は普段と変わらなかった。
魔法が浸透したせいで、暗殺が困難になった上に、カルマが浸透したため、ボランティアでカルマ稼ぎする人が増えたのだ。
なので、有名人や要人が普通に町を歩いてたりする。
今も四条がギャラリーに囲まれて、サインを書きまくっている。
こいつは人生のほとんどをスキル修得とダンジョン探索に、稼いだ金のほとんどをドーピングの種や装備に費やすバカだが、それだけに人類最強の一角に数えられる猛者だ。
なお、そんなもんについてこれる女性などいるわけがなく、自分以外を美女でかためるチーレム計画は頓挫した。
俺は延々とサインを書くなんてゴメンだ。
スキルをフル活用して、国際ダンジョン連盟の本部を目指した。
セレモニーはオンライン参加したカオス様の祝辞から始まった。
続いて国連事務総長の挨拶と続き、盟主の鈴木蓮が壇上にあがる。
「世界の皆さん、国際ダンジョン連盟の盟主を務めさせていただきます鈴木蓮です。
既にほぼ全ての国にはダンジョンがあり、魔石発電の普及により地球温暖化の脅威は去りました。」
鈴木蓮の演説が長々と続く。
途中はほとんと聞いてない。
「だが、我々は前進を止めません。
我々国際ダンジョン連盟の次の目標は月です。
月にダンジョンを作り、地球から一歩で行けるようにします。」
なんか、よまいごと言いだしたな・・・このてっぺんハゲ何言ってんだ?あまりの激務に頭おかしくなったか?
「かつてダンジョンマスター鈴木元太は言いました。『大空が地底で何が悪い!』と。
そして彼は大空を掘り雲のダンジョンを創造しました。
大空を掘れたなら、宇宙を掘れるのも道理であります!」
道理じゃねーよ!宇宙を掘るって何だよ!やるのは俺なんだぞ、この大バカ野郎!
俺は叫びそうになったが、ぐっと堪える。
「まずは月にダンジョンを作り、次は火星を目指します。
いずれは太陽系全ての惑星にダンジョンを設ければ、人類が夢にまで見た惑星旅行や有人探査は現実の物となります、決して夢物語ではないのです。」
かつてプライア・ド・カステレジョに強襲揚陸ダンジョンを突撃させ、トランスポータルの罠の転移地点に設定した事があったが、それは座標がずれないからできた技で、動き回る月ではそんな事できない。
やるなら、ターミナルダンジョン直通しかないが、それだと俺自身が通常の手段で月に行くしかない。
「そのために、世界各国は鈴木元太氏に全面協力を約束しました。
では鈴木元太氏、意気込みをどうぞ。」
まるで示し合わせたように、俺の前の列席者が道を作った。
まさか、千代が言ってた調整が大変てこの事だったのか?こっちは聞いてねーぞ!
無視して知らんぷりしたくなったが、こんな事されたら壇上に上がるしかない。
壇上まで歩む途中、俺の頭は勝手な事を決めた鈴木蓮と世界の首脳に怒りがこみ上げてきた。
壇上に上がり、思いのたけをぶちまける。
「こうなったらヤケだ!太陽系なんてケチな事言うな!みんなの情熱があるかぎり、銀河の果てまで掘りまくるぞ!
宇宙が地底で何が悪い!」
こうして月にダンジョンを作る事が決まった。
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