カオス神の影響(宗教)
元太が魔法やダンジョンおよび付随するスキルを持ち込んだため、経済・医療・スポーツ・教育など、大幅な見直しが必要となった。
控え目に言っても世界は大混乱だ。
その混乱が最も酷いのが、中東諸国である。
中東諸国はイスラム教が生活の中心で、国民の大多数はアッラーを信仰している。
それが鈴木元太がクノッソスを発見したせいで、教義に致命的な矛盾が出てしまったのだ。
キリスト教では、科学の発展とともに多くの矛盾が生まれ、宗教は宗教、現実は現実と割り切ってる信者が多い。
イスラム教もブルキナファソやトルコ辺りでは、さほど厳格ではないため、問題なかったが、信仰が強い国はそうはいかない。
アッラーは世界を創った創造主であって、カオス神のように創造主によって産み出された存在ではないからだ。
「リスナーの皆様、お昼のクレタ島の時間です。メインパーソナリティはDJドメニコスでお送りします。
さあ、またまたやってきましたクノッソスの3階層、ゲストというか毎度お馴染みのカオス様とケルベロス君です。」
「リスナーの皆さんこんにちは。」
「わん!」
「ケルベロス君ちょっと太りましたか?」
ドメニコスはちょっとふっくらとしたケルベロスが気になった。
「うむ、少し前に天職を得ようとする探索者がやってきてな、連れていた羊を捌いて調理してくれたのだ。
ケルベロスなど10匹分も食っていたぞ。」
「わん!」
ケルベロスは体型を気にした様子もなく、まだ食えるぞとアピールした。
「ではまいりましょう『教えてカオス様』のコーナー。
今日は世界中から寄せられたお手紙のうち、最も質問が多かった『創造主って何者ですか?』です。」
「うん、創造主様とは、今風に言うとプログラムやAIという事になるな。」
「えーっ!プログラム!?それじゃもしかして創造主様を作った人がいるんですか?」
「うん、スファーラ様だ。
多分、異世界を渡り歩いた鈴木元太なら、聞いたことくらいあるだろう。
そもそも、あまたある異世界は、スファーラ様の実験場なのだ。
ただ、何しろパターンが多かったため、一つ一つ世界を創造するのは時間がかかるから、創造主様を作って自動化したのだ。」
世界を作ったのはただのプログラムだというカオス神の発言は、あまりにも現実離れしすぎて、受け入れられないリスナーが多かった。
しかし信じようと信じまいと事実は変わらない。
「そのスファーラ様というのは、神様でしょうか?」
「プログラムを作る者はプログラマーと言うのではないか?
いや、仕様から関わった場合はシステムエンジニアか?」
ドメニコスは、思わず頭をかかえた。
思考が追い付かない、この世の全てはプログラムによって作られ、世界を創造したプログラムを作ったプログラマーがいる。
そこまで来ると宗教のしの字もない。
「えーと、そのスファーラ様と言うお方は、何のために我々を作ったのでしょうか?」
「我も直接聞いた訳ではないが、察するに要素を変えた世界が、どう変化するか観察したかったようだ。」
「つまり我々人間は、実験動物であると。」
「いや、データとして十把一絡げだ。
そうだな、君らもパンを作るとき、イーストを混ぜるだろ?でもイースト菌一つ一つを見てる訳ではない。
そんな感じだろう。」
実験動物より酷い扱いだった。
「それじゃ、神が私達人間を気にかける事はないと・・・」
「何をもって神とするかだな。
スファーラ様はそもそも何十人も管理できるほど頭は良くないし、創造主様は世界を創造し世界ロジックを動かすプログラムだ。
なので、我々のような世界ロジックを読み解け、スファーラ様に報告する者共を神と呼んでるかと思っていた。
そもそも人間達は、神を何だと思っているのだ?」
神とは何か、それは宗教によって違う。
いや、同じ宗教でも、人によって違う場合も多い。
なので神とは何かと聞かれても、答えられないのだ、なので・・・
「カオス様が神でいいと思います。」
ドメニコスは思考を放棄した。
お昼のクレタ島の放送を受けて、イスラム教徒が多い国はさらに混乱した。
唯一無二、永遠の絶対者、全知全能の創造主、それが神だ。
しかし、今回カオス神により、創造主は感情を持たないただのプログラムだと暴露された。
さらに創造主を作ったスファーラは全知全能どころか、あまり頭が良くないときた。
両方とも神とは言えない。
カオス神はさらにダメ押しで、「我々のような世界ロジックを読み解ける者共」と言った。つまりカオス神以外にも似たような存在がいるという事だ、唯一無二の存在でもない。
ならば、イスラム教徒はカオス・創造主・スファーラのいずれも神と認める訳にはいかない。
ではカオスとは何なのか。
神ではない超常の存在といえば残るは二つ、預言者か悪魔である。
預言者はムハンマドなので、イスラム教の信仰が強い国は、カオスを悪魔と断じたが、これには問題があった。
悪魔から何かを授かるのは論外なので、信仰心が強いイスラム教徒は天職を授かれなくなったのだ。
ダンジョンマスターの鈴木元太を見れば分かるとおり、スキルや魔法は天職の域に届かない。
石油の価値が落ちた中東諸国は、天職の分野でも遅れを取るようになり、以後急速に衰退するのだった。
宗教の問題は、意外にもここブルキナファソにも影響を与えた。
「そうか、アルカイダとイスラム国は自然消滅か。」
ブルキナファソの問題の一つは、アルカイダやイスラム国による内乱だった。
しかし、『水瓶』の魔法で戦闘車両は使用不能となり、今まで支援してきた産油国は不景気で手を引いた。
はしごを外された形となったブルキナファソ国内の両組織は、食糧生産の向上で飢える事もなくなり、もともと宗教観が緩かった国民性もあり、自然消滅したのだ。
これで、ブルキナファソが抱えていた水不足・イナゴ・内乱の三重苦は、棚ボタ的に改善されたのだった。
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