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天職を授かろう

 俺がブルキナファソに初めて足を踏み入れてから5年が経った。

 世界最貧国だったブルキナファソは、善行主義経済に移行した。

 北部のサハラ砂漠だった土地は、今や穀倉地帯になっていた。

 農民は作物を納めれば納めるだけカルマが上がるので、ガンガン耕した。

 よって食糧は過剰生産状態だ。


 北部のもと砂漠地帯が開発されたなら、これまで手をつけられなかった地下資源に手が届くようになる。

 鉱業も始まった。

 始まったはいいが、今まで金ばかり細々と製錬していたので、他の金属を製錬する技術がなかった。

 一応ネットで調べればやり方くらいは分かるのだが、ブルキナファソは技術的・経済的な理由で大規模な施設を作れなかった。


 『製錬』と『精練』の魔法もあるが、これを公開すると、全世界の製鉄所が倒産しかねない。


 ブルキナファソの善行主義経済も、元ゲリラなど、カルマが低い人が反対運動を起こしてる。まだまだ浸透したとは言いがたい。

 資本主義以外の社会を用意できていない現状で、彼ら製鉄所で働いている人を失業させるわけにはいかないのだ。

 ブルキナファソには事情を説明し、絶対に情報を漏洩しない事を条件に、内緒で『製錬』の魔法だけ教えた。

 でも、そのうち情報は漏洩するだろうな。

 まあ、情報が漏洩してカルマが落ちるのは俺じゃないだろうから、別にいいけど。


 不満分子を抱えた善行主義経済だったが、他にも問題があった。それは国内で生産できない工業製品をどうするかだった。

 異世界では、魔法と天職の合わせ技でポイントを管理してたからPCは不要だったし、運び屋の天職を持つ者が車両の代わりをしていた。


 しかし、地球では天職を授かれない。

 ダンジョンのドロップアイテムに魔水晶があるので、天職を授かる可能性はゼロではないが、やり方は知らない。

 んなもん神にでも聞いてくれとしか・・・ん?そういえば神いたな、今度カオス様に聞いてみるか。


 資本主義国から工業製品を輸入するため、どうにかして外貨を稼ぐ必要があった。

 インゴットはガーナまで運び、そこから全世界に輸出されるのだが、ブルキナファソを一歩出ると運送費がかかるので、思ったほど利益が出ていない。

 しかし、ブルキナファソは幸運にも、オリハルコンをドロップするダンジョンを2ヶ所引き当てた。


 オリハルコンは、反重力ユニットや最近開発された摩擦低減ユニットの最重要部品に使われたり、超高性能電池になったりするので、資源としての価値はかなり高い。

 現在、グラムあたりの価格が最も高いのが、このオリハルコンだ。

 

 ブルキナファソはオリハルコンでどうにかなったが、同じく善行主義経済に移行したニジェールは苦戦していた。

 ニジェールは海から遠いため、余計に運送費がかかる上に、魔金属を産出するダンジョンがわずか1ヶ所しかなかった。

 しかも、産出するのはアダマンタイトだ。

 アダマンタイトは、魔金属中最強の強度を誇るが、アホみたいに重いので、利用価値はそれほど高くない。

 軽さでは、ミスリルに敵わないからだ。


 俺は仕方なく、4万台ほどPCを購入し、ニジェールに送った。

 半導体を生産できる国が善行主義経済に加わってくれれば、この問題は解決するんだけどな。


 輸送については、国内のダンジョン同士を相互に行けるように、トランスポータルの罠を設定した。公共の交通機関が発達してないブルキナファソやニジェールだからできた荒業だ。

 ただ、ブルキナファソのダンジョンは20ヶ所しかない、ダンジョンまでの道のりは歩くかEV車を使う事になる。

 ガソリン車に比べ、EV車は構造が単純なので、ブルキナファソでもどうにか生産できたが、やはり電池がネックだ、オリハルコンが足りない。

 車両が足りないため、自然と人はダンジョンの回りに集まるようになった。

 スキルを修得するにも、ダンジョンに入らないといけないしね。


 なんとかダンジョンを増やせないかとンガリ大統領から要請されたが、ダンジョンを熱望する国は多い。

 最近では、モルドバやブルガリアといった東欧に力を入れている。

 その後はロシアに中東だ。

 ロシアはユナイテッド航空35便の件があるので、正直一番最後にしたいが、国民には恨みはない。

 エネルギー産業の衰退を招いたからと大統領が失脚し、雲のダンジョンを領土とする宣言も撤回したため、俺が狙われる事もないだろう。

 俺の身の安全を考えるなら、ダンジョンがない事で極端な格差を作るのは愚策だ、また暗殺を狙う奴が現れるかもしれない。





「リスナーの皆様、お昼のクレタ島の時間です。メインパーソナリティはDJドメニコスでお送りします。

 さあ、またまたやってきましたクノッソスの第3階層、ゲストはカオス様とケルベロス君、それにダンジョンマスターのゲンタだーっ!」


「「よろしくお願いします。」」


「わん!」


 カオス神はもう慣れたもので、悠然と構えている。

 元太はテレビ出演こそ多いが、ラジオは初めてだ。少し緊張している。


「では恒例、教えてカオス様のコーナー!」


 ギャラリーの野郎共からドドメ色の声援が飛ぶ、初めての収録のときには、4人しかいなかったギャラリーも、今では150人に増えた。

 神様に直接会える機会なんて、そうそうあるものではないから、世界中から猛者が集まったのだ。


「今日はゲンタからカオス様に質問だって?」


「そうなんだ、どうしても聞きたい事があって、ねじ込んじゃった。

 リスナーのみんな、ごめんね。」


 ラジオから日本語が流れる。

 本人達は『意訳』の魔法を使ってるから違和感がないが、ラジオを聞いてる人は訳が分からない。

 すかさず翻訳したギリシャ語が流れる。


「地球では、なぜか天職を授かれません、でも異世界で転職に使ってた魔水晶はあります。

 もしかして魔水晶をつかえば、無職からちゃんとした天職に転職できませんか?」


「確かに、6600万年前にクトゥールフのバカが世界ロジックいじってから、この世界ではスキルも天職も授かれなくなったな。

 さて、ゲンタの質問だが、ダンジョン内なら天職を授かれる可能性はある。」


 ゲンタも、ダンジョン内でスキルを修得できた時点で、その条件は勘付いていた。

 でも、その他が分からない。


「では、ダンジョン内に魔水晶を持った探索者がいたとして、どうすれば天職を授かれますか?」


「転職士に転職してもらえばいい。」


 天職を授かるには、転職士の天職を持つ人が必要だった。


「その天職士がいないんですけど。

 空間型ダンジョン使って転職士がいる異世界と繋げる方法もありますが、アレは結構レアな天職だから、見つからない可能性は高いですよ。

 それこそ、俺がやられたみたいに、天職なしの人を異世界召喚でもしないと。」


「そうだったな・・・仕方ない、天職を授かりたい者は、我の前に魔水晶を持って来るが良い、気が向けば天職を授けてやろう。」


 その一言でギャラリーがどよめく、何事かと思えば、ギャラリーの中にアルカトラズダンジョンのビホルダーからドロップした魔水晶を持っている男がいたのだ。


「カオス様!俺に天職を!!」


「うん、そうだな。

 初めてだから、一発芸がリスナーにウケたら授けてやろう。」


「いっ、一発芸!ラジオで!?」


 カオス神の口角が上がる。

 スベるの必至のこの状況でやらせるとは、人が悪いなと鈴木元太は思った。

 結果、彼の一発芸で、臨時スタジオは氷河期に突入した。


「わん!」


「うううぅぅぅ・・・」


 彼はケルベロスに励まされ、ようやく凍結から復帰した。

 臨時スタジオも再起動する。


「えーと、どうしましょうカオス様。」


「そっ、そうだな、彼のその勇気に免じて、天職を授けるか。」


 いたたまれなくなった彼を可哀想に思ったカオス神は、手招きすると魔水晶を手取り、彼の頭で叩き割った。

 倒れる彼に臨時スタジオのギャラリーがドン引きするが、元太には異世界で見た事がある光景だった。


 倒れたのは数秒だった。

 どよめきの中、彼は立ち上がって言った。


「ありがとうございます。

 無事ドラゴンスレイヤーの天職を授かれました!」


 スタジオがどよめく。

 ドラゴンスレイヤー、なんというカッコイイ天職だ!俺もなりたい!そんな会話が聞こえてくる。

 しかし、ドラゴンスレイヤーを知る2人の表情は渋かった。


「そうか・・・ドラゴンスレイヤーか・・・」


「微妙ですね。」


「微妙とは?」


 ドラゴンスレイヤーを羨ましいと思ったドメニコスは、なぜ微妙なのか気になった。


「ドラゴンスレイヤーっていうのは、ドラゴンブレスを無効にする権能とか、ドラゴンの防御力をゼロにする権能とかあるんだけど、ドラゴン以外が相手だと、無職とあまり変わらないんだ。」


 ぴたりと喧騒が止む。


「ビホルダーもドラゴンの属性があるし、アルカトラズダンジョンはドラゴンが多めだから必要ではあるけどね。」


「まあ、ドラゴンスレイヤーでないと倒せない魔物もいるからな。」


 ドラゴンスレイヤーがピーキーな天職と世界が認識した瞬間だった。

 数年後、ドラゴンスレイヤーとなった男は、アルカトラズダンジョンで大活躍する事になる。


「ではここで今日の一曲、アテネにお住まいのカオス様だいすきさんからのリクエストで、明日は結婚式。」


 ポップな曲が流れ、スタジオにつかの間の休憩が訪れる。


「ゲンタよ、話がある。」


「何でしょう。」


「トランスポータルの罠で世界中のダンジョンからクノッソスに来れるようにしてくれ。」


「政治的に無理です。

 マリアダンジョンと南紀白浜空港ダンジョンはトランスポータルで往来できるんですから、それで我慢してくださいよ。」


 元太は航空会社をはじめとした公共交通機関や、車両を作るメーカーの労働者保護が必要だと話した。

 他にも入国手続きが必要だとか、密輸対策が必要だとか、思い付く限りの理由を説明した。


「かたいことを言うな。

 ここで旅人の天職を授かる者が現れたら、不法入国や密輸などやりたい放題だぞ。」


「それがいましたね。」


 旅人の権能には瞬間移動がある。

 ただ、一度に運べる荷物はあまり多くないので、密輸は限定的だろう。


「ともかく、交通関連の会社の了解なしでは、おいそれとトランスポータルの罠を使う訳にいかないんです。」


「仕方がない。

 メテオストライクで各国を脅して、公共の交通機関を全て消滅させるしかないか。」


「やめんかい!」


「冗談だ、神様ジョーク。」


「アンタの場合、本当にできるから冗談に聞こえないんだよ。」


 メテオストライクは鈴木元太が持ち帰った魔導書では『隕石』となっている。

 異世界では1人じゃ魔力が足りないので、魔法使いが100人以上必要な戦略級魔法だ。

 いくら魔力が強い地球でも1人では使えないシロモノだ。


「冗談でもメテオストライクなんて使わないでくださいね。」


「いや、破壊以外にも使えるのだぞ。

 地球には少ない、例えばオリハルコンでできた隕石を落として資源にするとか。」


「えっ!」


「アテネにお住まいのカオス様だいすきさんからのリクエストで、明日は結婚式でした。」


 肝心な所でリクエスト曲が終わった。


「さてカオス様、以前から気になっていたんですが、クトゥールフは一体何をやらかしたんですか?」


「あいつは、この世界からスキルを消滅させたのだ。

 不完全ではあるがな。」


 カオス神によると、当時は恐竜が地上の王者だったが、恐竜はスキルに頼りすぎて知恵をつけなかったそうだ。

 このままでは、魔法文明が発生しないと危惧したクトゥールフ神は、この世界からスキルを消滅させ、知恵をつけさせようとしたが、恐竜は生きる事自体にスキルを使っていたので、すぐに絶滅したそうだ。


「そういえばアルゼンチノサウルスみたいな巨大な恐竜は、重すぎるから物理的には存在しないって聞いたこあるな、実際は存在したけど。

 あれって、スキル使ってたのか。」


「うん、そのとおりだ。

 世界ロジックを勝手にいじったクトゥールフ神は、世界の歪みを一身に受けて爆散してな、後には巨大なクレーターが残った。

 そのクレーターもすぐに海水が流れ込んで海の底だがな。」


「恐竜の絶滅って隕石が原因じゃなかったのか。」


 ドメニコスは新事実を疑いもせず、すなおに信じた。

 スキルや魔法はそこまで世界に浸透しているのだ。


「クトゥールフの思ったとおり、スキルが使えなくなった分、頭を使わざるを得なくなり、やがて文明が生まれるのだが、魔法文明ではなく科学文明になってしまったな。」


 他の星も俺が帰ってくる前の地球と似たような経緯を辿るらしく、文明レベルは弥生時代くらいが多いのだとか。

 現代文明が魔法文明になるのは、まだまだかかりそうだ。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

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