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通貨が無い経済とは

 今回出てくる経済は、延べ百億を越える人類が関わってきた資本主義と違い、筆者一人が考えた穴だらけの机上の空論の上に、現時点では実現不能なファンタジー経済です。

 批判されても多分返せないので、ご了承ください。

 

 あの後、中国に空挺ダンジョンを25基輸出した。

 アフリカに投下した空挺ダンジョンもだが、育てば普通にダンジョンとして使えるので、イナゴを殲滅した後も無駄にはならない。

 アビススライムは危険すぎたので、中国のダンジョンでは昆虫を食べるケットシーに変更したが、奴は頭が良いので、ダンジョン探索でエンカウントしたら苦戦した。

 ままならないものだ。





 イナゴをあらかたやっつけて再びやって来ましたブルキナファソ共和国。

 ブルキナファソは輸出額のほとんどを金に頼っていたが、コードバダンジョンのゴールドラッシュのあおりを食らい、経済は壊滅状態の世界最貧国だ。

 しかし、水瓶の魔法で食糧生産は向上し、イナゴも殲滅したため、食糧事情は大幅に改善した。

 飢える心配がなくなったため、貧しいながらも国民には笑顔があった。


「それで、ダンジョンなのですが・・・」


「もちろん作りに来ました。

 こちらの要望を聞くなら、国内に20ヶ所作ります。

 要望を聞かないなら、ガーナと同じく4ヶ所です。」


 大統領は少し嫌な顔をした。

 無理もない、これは明らかな内政干渉なのだ。

 しかし、世界が魔法を開発する方向に向かっている以上、近い将来、開発した魔法によって駆逐される業界から、大勢の失業者が出る可能性は高い、いや確定している。

 それまでに失業しても、生きるだけなら困らない社会は用意しておきたい。


「それは一体何をすればいいのでしょう?」


「一言で言うと、通貨が無い経済をやってもらいます。」


 そんなの資本家が猛反対するに決まってる。

 だから、国が貧しく、大した資本家がいないブルキナファソを選んだのだ。


 かつての社会主義国のソビエトですら通貨はあったのに、通貨が無い経済なんて可能なのか?


 完全な共産主義経済なら不可能ではない。


 ネットには、共産主義とは、『社会全体の生産と消費が計画によって調整され、各人の労働に応じて所得分配が行われる経済』と書かれていた。


 しかし実際の消費は、大地震や津波のような自然災害もあり、火災や事故といった人災も多い。

 災害は損害であって消費ではないと言う人もいるがそれは詭弁だ、家を失うのが災害か老朽化かの違いがあるだけで、どちらも新しい家が必要になる。

 むしろ災害の場合は、今までの蓄えまで失うので、緊急性が高い。とてもではないが『労働に応じた所得』ではどうにもならない。

 資本主義なら、金の力に物を言わせて復旧できるが、社会が適正化された共産主義では、計画全体を見直す必要がある。


 俺が異世界で経験した経済は、善行主義経済と言う。

 その名が示すとおり、国民一人一人が社会に奉仕することで成り立っている経済だ。

 要は労働の対価が金ではなくカルマなのだ。

 資本主義か共産主義かで言えば、共産主義寄りだろう。

 共産主義経済と決定的に違うのは、善行主義経済は計画経済なんかしない事だ。

 消費を調整するなんてハナから無理と割り切り、生きるのに絶対不可欠な物は常に過剰生産して、余裕を確保するのだ。


 ガンダーラ王国の善行主義経済は、カルマだけで回していたが、ブルキナファソでは頻発した内戦の影響でカルマがマイナスの人が多い。

 なので、カルマを基準とした善行ポイントが、誕生日に補充される方式にする。

 カルマがマイナスの人が多い人を救済するため、前年に比べてどれだけカルマが改善したかも評価するためだ。


 善行ポイントを消費すると、様々な商品やサービスを受けられる。

 資本主義のポイントサービスに近いが、付与基準が違うので、似て非なるシステムだ。

 当然、善行ポイントが尽きると最低限度の生活が待っている。

 国は、この最低限度の生活は絶対に保証しなければならない。


 善行ポイントは全て国が管理するので、国民は誕生日以外で増やす手段がない。

 よって社会から、金目当て限定ではあるが、窃盗・恐喝・強盗・横領・詐欺および誘拐、果ては薬物犯罪などが根絶するというメリットがある。


 また、カルマの低下が生活の質の低下につながるので、おいそれと暴力的な行動を取れなくなり、傷害も減少するのだ。


 しかし、人々から攻撃衝動が消えた訳ではない。

 当たり前のようだが、適者生存・弱肉強食の法則で生き残ってきた人類は、本能的に他者より優位に立ちたいと思う一面がある。

 世の中の暴力は、元を辿ればほとんどがここに行き着くのかもしれない。


 異世界のガンダーラ王国の国民は、弱肉強食ではなく共存共栄で生き残った人類だった。

 なので攻撃衝動が弱く、暴力沙汰が起きにくいから、善行主義経済はうまくいった。


 しかし地球人類は、暴力と真正面から向き合わなければならない。

 幸い今の世界には、魔物をいくら殺してもカルマが落ちないダンジョンがある。

 ダンジョンは、攻撃衝動が強い人々の不満の捌け口として最適だ。


 ダンジョンで攻撃衝動問題は軽くなるが、全員が完全消化できる訳もなく、別の犯罪の増加が予想される。


 それが性犯罪だ。


 善行主義経済では、女性が体を売って大金を稼げない。

 しかし、生物の3大欲求が、食欲・睡眠欲・性欲なのは変わらない。

 エロ産業が下火になると、攻撃衝動の消化不良もあいまって、性犯罪が増加するのだ。

 一応エロ漫画作家になったり、AV女優になって男共の溜まった性欲を処理すれば、結構な量のカルマが定期的に入るが、直接だと相手は1人なので、カルマはあまり上がらない。


 もちろん、性犯罪をやらかせばカルマが減るのだが、その減り方は傷害罪とあまり変わらず、覗きに至っては、本人が気がつかなければ、ほとんどカルマが下がらない。

 国は世界ロジックと現状の差分を埋めて、善行ポイントを調整しなけはればならない。


「なるほど、しかし今の性犯罪もですが、他にも問題が多そうですね。」


「ええ、パッと思いつく所では、より良い物を開発して売上を上げる必要がなくなるので、技術開発全般が遅れるというのがありますね。

 善行主義経済では努力が報われますが、逆に言うとある程度努力さえすれば、無難に人生を送れます。

 そこで現状に満足したり妥協したりすると、人は改善しないですから、そちらも開発力の低下につながります。

 みんなに有益な発明をすると、カルマが爆上がりしますから、開発力は完全にゼロにはならないと思いますが。」


 善行主義経済を採用したガンダーラでは、俺がたどり着いたときには、モンゴル帝国が猛威をふるってた頃と同レベルの技術力しかなかった。

 レオナルドダヴィンチが発明したボールベアリングや、アルキメデスが発明した揚水幾を持ち込んだだけで、俺のカルマは爆上がりしたもんな。


「でも、今の人類の科学力は、正直突出しすぎだと思います。

 現状から全く技術革新がなくても、200年くらいで不都合が出るとは思えないんですよ。

 むしろ、夢を叶えるために発明しまくったから、地球では夢が枯渇してると思います。

 新製品を開発して儲けるようなビジネススタイルは、もう限界かもしれません。」


 ンランバ大統領は、しばし考え込む。


「うーん・・・事は国家の命運を左右する一大案件だ、有識者を交えて閣議決定しないと決められない。」


 そうだろうね、今までのやり方と90度違う経済だ。

 そう易々と決められる訳がない。


「確かにすぐには決められなでしょう。

 しかし、今のブルキナファソを資本主義で立て直すのは困難です、現状でも繁栄は見込めません。」


「分かっている。」


「ダンジョンは、最低後3ヶ所発生させる予定です。

 まずは3ヶ所作るまでに一次解答をください。

 まとまらないようなら、この話はニジェールでも進めますんで。」


 今の世界経済は、かなり悪い。

 魔石発電の普及により産油国は輸出先を失い、魔法やスキルによって多くの企業が倒産している。

 そんな状況なのに、各国は魔法の開発を進めているのだ。

 このままだと資本主義が立ち行かなくなる可能性は高い。と俺は思う。


 もっとも、資本主義が今とは似ても似つかない形態に変化することもありうるが、俺はそれはそれで構わないと思う。

 要は、俺自身が誰からも狙われない社会が来ればいいのだ。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

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― 新着の感想 ―
善行主義経済、J.P.ホーガンのハードSF小説『断絶への航海』に近いものがあるかも。 とても面白い
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