表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/96

電車でギリシャに行こう

 国際放送社は元太が撮影中に突然気を失うという、不測の事態に沸き立っていた。


 彼に一体何があったのか。


 残念ながら音声は不鮮明だったので、唇の動きから何を言ってるのか知るため、聴覚障害者に画像解析を依頼した。

 その結果、元太が話していたのは、『ダンジョン』と言っている事と、その他の部分が日本語でもフランス語でもないことが分かっただけだった。


「異世界の言葉でしょうか。」


「だとしたらお手上げだな。

 いや、ムッシュゲンタに聞いてもらえば分かるかもしれない。」


 『意訳』の魔法は、録音には効果がない、肉声でないとダメなのだ。

 なので、異世界の言葉を聞いたことがある元太が必要だとプロデューサーは判断した。


「彼はまだ回復しないのか?」


「確認してみます。」


 ディレクターが電話したとき、元太は目覚めて検査中だった。

 すぐにハイヤーを差し向け、パパラッチに囲まれる前に元太を確保する。

 その手際の良さにはボブも舌を巻いた。





 検査が終わって、何も説明がないまま、俺とボブはなんか高そうな車に乗せられた。

 拉致と紙一重だ。

 飛行機と違って地面に足がついてるなら逃げ切れる自信があるので、特に抵抗しなかった。

 車内で聞かされたのは、俺が気絶しながら呟いた言葉が異世界の言語かもしれないので、確認して欲しいという話だった。


 俺も異世界では「意訳」の魔法を日常的に使ってたから、異世界言語なんて分からない。

 なので、異世界を渡り歩いていた時のテクニックを少し教える。


「録画で分からないなら、その通りに発音させて、もう1人が『意訳』の魔法使えばいいんだよ。

 意味が分かった後は、発音と意味が同じ言葉を探すだけだ。

 もちろん異世界の言語だったら、お手上げだけど。」


「なるほど、早速やってみましょう。」


 翻訳した結果、俺が呟いたのは「いにしえのダンジョンにむかえ、そこで待っている」だった。

 意味が分かれば、言語もすぐに分かった。ギリシャ語だった。


「さあ皆さん、ギリシャでいにしえのダンジョンて言ったら?」


「「クノッソス」」


 全員の声が見事にハモった。

 クノッソス以外にも、ハデスがいる冥府もあり得るが、そっちは場所が分からない。

 あとはエジプトのラビリンスとか、王家の墓とか、スカンジナビアのトロイタウンとか、始皇帝稜とかが考えられるが、わざわざギリシャ語で発音させたあたり、クノッソスの事で間違いないだろう。


「しかし、リアルのクノッソス宮殿は、地下迷宮なんてないぞ。」


「もしかしたら、ダンジョンマスターじゃないと分からないかも知れません。

 一旦日本に戻って雑事を片付けたら、ギリシャに向かいます。」


「そのときは、我が局のスタッフも同行させてもらえませんか?」


「はい、日本のテレビ局も来るかもしれませんが、合同でよろしければ構いません。

 あと、クノッソス宮殿の調査について、許可を取って頂けると嬉しいんですけど。

 俺がギリシャにダンジョンを1つ作るのを交換条件にしてもらっても構いません。」


 DPの関係で、1度の出国で1ヶ所しかダンジョンは作れない。

 その辺のダンジョンからDPを拝借する方法もあるが、一度に拝借できる量が少ないので、何ヵ所も回らないとダメだ。200万を越える人と、100万を超えてそうな羊、および何万匹いるか分からないカピバラからアホみたいにDPを徴収できるだんじょん荘で補給するのが一番手っ取り早い。

 いや、人の方は定住しないで長期宿泊してる人もとんでもない数がいるから、さらに2倍~3倍いるかもしれないな。


 コードバダンジョンみたいに、最低限探索できる小ぢんまりしたダンジョンなら作れなくはないが、よほど運が良くなければ、まともに活動できるようになるまで、年単位でダンジョンの成長を待たねばならない。

 なお、カステレジョダンジョンが現在最小だが、あれは20年は経って、初めて今のコードバダンジョンと同レベルの規模になるだろうな。


 国際放送社は早速ギリシャ側と交渉し、なんと俺が日本に戻る前に話をまとめてしまった。


 あとは足だが、国際放送社に、いくらかかってもいいから、パリからアテネまで素早く電車移動したいと言ったら、「そんじゃ、オリエント急行走らそうぜ!」というボブの軽いノリに、関係者が悪ノリしてあれよあれよという間に復活のオリエント急行という企画がたちあがった。

 ちなみに、オリエント急行の最後の現役車両は、なんと日本にある。


 日本から持ち込む訳にいかないので、博物館で眠ってた車両をヨーロッパ中から集め、同時に引退した当時の関係者達が集結した。

 車両の整備が急ピッチで進む様子に、本当にこんなことしていいのかよと、内心びくついてたが、嬉々としてオリエント急行を通すためだけにダイヤをいじる人や、当時のシェフが準備してる画像を見て、ああ、これは「オリエント急行走らそうぜ」と言い出すバカを待ってたんだなと気がついた。


 ちなみに乗車券は1枚1億2千万円、即日完売した。

 俺はテレビクルーも入れて10枚購入した。


 出発当日、パリ北駅には、鉄道ファンとミステリーファンの両方が押しかけ、ホームから転落する奴が何人も出る盛況ぶりだった。

 なんでも客車のうち一両が、オリエント急行殺人事件が書かれた当時の車両なんだそうだ。

 マスコミには、出発前の車両が公開され、内装をしきりに撮影していた。

 そんなもん、博物館に戻した後にゆっくり撮れるのにね。


 定刻となり、復活したオリエント急行は、午後の日差しをあび、ファンの皆さんに見送られながら発車した。

 鉄道ファン達のうち、少なくない数が、飛行機でアテネに先回りし、到着する光景を撮影しに行くそうだ。


「なんか、当初思ってたのと違うな。

 俺なんか紀勢本線の車両みたいなの想像してたんだけど。」


 俺は食堂車で豪華なディナーをつつきながら、ボブと雑談していた。


「いいじゃねーか、みんな大喜びだぜ。」


 テレビクルーは車窓から外を撮影し、鉄道ファンは通過する車両を撮影する。

 当事者にとっては面白いんだろうが、俺は正直現地にさえ無事に到着すればどうでも良かった。


「大喜びなのはいいけど、襲撃は警戒しろよ。」


「大丈夫だって、乗客の中には世界の大富豪とか有名俳優とかもいるんだ、そんなの攻撃したら世界を敵に回すぞ。」


「旅客機を撃墜してアメリカと関係が悪くなった国があるよ。」


 自分が撃墜されたのに、たいそうな楽天家だ。


 ボブは食事が終わると、さっさと寝やがった。こいつ本当に緊張感ないな。

 俺は1人でいると暗殺される可能性もあると考え、テレビクルーの皆さんに索敵してもらう事を条件に、テレビ朝日と国際放送社の取材を受けたる事にした。


「やはり、フランスもかなり影響を受けてましたか。」


「はい、白浜に行った人とそうでない人とで、かなり差が開いています。

 今も40万人が日本に渡ったままです。」


「フランスがそんな様子だと、だんじょん荘は住人と滞在者合わせて1000万人越えてるかもしれませんね。」


「特に『平行処理』のスキルがないと、PSLリサーチ大学パリやソルボンヌ大学といった有名大学には入れませんので。」


 やはりそうなのか、学習ダンジョンはかなり増設したもんな。

 今じゃ暗闇部屋より多いくらいだ。

 もっとも、暗闇部屋は長時間占有する傾向にあるから、あまり増やすのもどうかと思ったから、8階層全体を暗黒の罠にして、ハイダーやイリュージョンスライムといった、幻覚を見せたり透明になったりする魔物を配置しておいた。

 普通なら強敵だが、暗闇では目眩ましも透明もあったものじゃなかった。


 ヨーロッパにダンジョン増やせば白浜ダンジョンの利用者が減るかと思ったけど、スキルを修得するなら白浜ダンジョンが最適だ、今後も増え続けそうな気がする。


「あとは、スポーツ大会が不人気です。」


「やはりですか。

 俺は、スポーツをしなくなって、成人病の患者が増えるかもしれないと予想してますが、どう思いますか?」


「確かに増えそうですけれど、ダンジョンがあれば、スキルを修得するために、体を動かすと思います。

 スキルは財産ですから。」


 スキルは財産か。

 これは財産の価値観も変わりそうだな。


「これからの時代は、スキルとかカルマとか、自分だけの財産が重要になるかもしれませんね。」


 これからもダンジョンを作りまくる日々が続きそうだ。


 カミーユさんの取材を終えた俺は、襲撃に備え、寝台車のベッドではなく、リュックの底にある空間型ダンジョンで寝たが、ボブが言ったように、列車は何事もなくアテネ中央駅に当直した。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オリエント急行乗りたい~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ