ロワール地方
ペドラルヴァダンジョンはさすがに不便なので、ポルトガルの首都リスボンおよび、第2の都市ポルトからアクセスしやすい位置にダンジョンを作り、俺達は鉄道でスペインに入った。
どこで聞き付けたのか、バパラッチの数が凄い。
『意訳』の魔法は、『装甲』の魔法と干渉するので、いつも狙われている俺はボブに通訳してもらう。
そのせいか、細かい行き先はボブが決めるようになった。
「俺スペイン始めてなんだよ。」
「そりゃ俺もだよ。」
「スペインて言ったらパエリヤだよな。だよな。」
鈴木蓮のアドバイスで、観光地は避け、徹底して個人経営の定食屋を狙う。
しかし、昨今の不景気の影響で、観光地でも空き店舗が目立つ中、個人経営の定食屋は少ない。
それでも朝もパエリヤ、昼もパエリヤ、夜もパエリヤ、ボブてめーどんだけパエリヤ好きなんだよ、俺も好きだけど。
店ごとに味が違うから、思ったほど飽きが来なかった。
スペインのダンジョンは、ビスケー湾沿いに3ヶ所作った。
そしてやってきましたフランス!
フランス当局には、古城の地下の一般人立入禁止エリアにも入らせてもらう代わりに、見学した古城1ヶ所につき1ダンジョン作る約束を取り付けた。
これでデイヴ・アーンソンがどうやってダンジョンと接したかが分かる・・・といいな。
「やっぱ、フランスの1発目はボルドーだよな。」
「だよねー。」
まだ真っ昼間なのに、ボブはもう飲む気だ。
ボルドーのワインは日本でも輸入してるから珍しくないが、本場で飲みたくなるのが人のサガだ。
結論から言うと、本場ボルドーのワインと輸入したワインの差はよく分からなかった。
当然と言えば当然なんだけど。
むしろ、ワインのつまみにと、チーズ屋に寄ったときの臭いの方が、印象に残った。
ボルドーで古城をめぐりながら、ダンジョンの語源となったドンジョンをチェックし、お礼にダンジョンを作る。
ボルドー近郊だけで、3つもダンジョンを作ってしまった。
そこから北上し、本命のロワール地方を目指す。
ちなみにここまで狙撃はなかった。なんか寂しい。
だんじょん荘の管理も必要なので、ロワール地方についたのは、プライア・ド・カステレジョにダンジョンを突撃させてから3ヶ月後だった。
はてさて、デイヴ・アーンソンはここで何を見たのか。
15才の誕生日から200日目じゃないと何も起こらない可能性も高いから、過度の期待は禁物だ。
何が起こるかわからないので、先にダンジョンを作り、職員引率のもと普段入れない所も入れてもらう。
観光客に解放されてない区画は、城によって整備の度合いが違うのが面白い。
シャンボール城、ブロワ城、ショーモン城と堪能し、2日目にひとつだけ離れた所にあるシュノンソー城に行ったが、ここには地下牢がなかった。
シュノンソー城は、ほとんど水上に建ってるもんな。
「くそーっ、失敗した。
地下牢があるかくらい確認するんだった。」
「ハッハッハーッ、俺は色々見れて楽しかったけどな。」
ボブは昼食に訪れたバーで、ブロシェのクネルを肴に白ワインを飲んでいた。
黒人なので、顔が赤くなったりしないが、結構酔いが回ってそうだ。
「一体デイヴ・アーンソンはどの城に行ったんだ?」
「それな、俺思ったんだけどよ、奴は一般人として来てるだろ?ならば、立入禁止の所は行けないんじゃねーのか?」
「はうっ!」
ボブに言われて気がついた。
ロワール地方の城は、一般の順路でもかなり見ごたえがある。
破天荒なゲイリー・ガイギャックスと違い、経営を軌道に乗せた彼が、警備員に捕まるようなバカなしないだろう。
でも、売れるかどうか怪しい商品を取り扱うような、フロンティアスピリットも持ち合わせてるんだよな。
「ん?フロンティアスピリットか。」
「どうした?」
「もしかしたら、彼は保全されてない城址みたいな所に行ったんじゃないか?日本で言うナントカ城址みたいな。
フランスは古い国だから、もしかしたら・・・」
「そんなのあるのか?
あったらナチスにやられてるだろ。」
「いや、地下施設なら攻撃に耐えるかも知れない。」
旧跡を防空壕代わりに使ってたとか・・・あるいは古代でも地中で運用されてた施設とか・・・そんなもんあるのか?
俺が考え込んでると、ボブはウナギのマトロットを追加した。こってりとした茶色でなかなかうまそうだ。
日本じゃウナギは背引きとか腹開きとかあるけど、フランスはどうなんだろ。
やはり頭に杭を打って、細長い魚体を一気に開くんだろうか。
ん?細長い?
「水道!」
「おわっ!いきなりなんだよ。」
俺が突然叫んだから、ボブが鼻から白ワインを吹いたが、俺はそれどころじゃなかった。
「イタリアじゃ、古代ローマ時代の水道をいまだに使ってる所があるらしいじゃないか。
もしかしたら、フランスも同じなんじゃないか?」
「そんな訳ないだろ、下水道に問題があったから、中世のフランスはペストとかコレラとかが蔓延したんだぞ。」
「でも、それって人口が多いパリから蔓延したんだよね。
一回当たってみよう。」
早速バパラッチ共を引き連れて、水道局を直接訪れ、水道について尋ねたら、パリ近郊にダンジョンを作るのを条件に、情報をもらえた。
ここロワール地方には、200年ほど前から使われなくなった取水口があったそうだ。
しかも作られた年代はかなり古く、一説にはフランスがまだガリア地方と呼ばれてた時代とも言われている。
「しかし、30年前の土岸工事で入口は塞いでしまいました。」
「でも、点検用のマンホールとかはあるんでしょ?
まさか貴重な文化財を調査不能にはしないよね。」
「まあ、マンホールありますけど、私の一存では何とも・・・」
職員の反応からして、これは無理だと思った。
なので、パパラッチ共を仲介してテレビ局から圧力をかけてもらった。
日本でもやってる『立入禁止のその先』的な企画を立てて、俺も潜ろうと言うのだ。
実現したのは1ヶ月後だったので、バルカン半島にダンジョンを作りつつだんじょん荘の管理に精を出す。
それまでにテレビ局は企画を具体化させ、いよいよ数百年前の取水口址に突撃となった。
今回のクルーはカメラマン2人とカミーユさんという女子アナの3人、それに俺とボブが加わる。
カミーユさんは、テレビ局に女子アナとして採用されるだけあって、金髪碧眼のかなりの美人だ。
欲を言えばスカートで来てほしかった。
撮影なのでパパラッチがいないのが地味にありがたい。
マンホールがある場所は、既に行ったブロワ城の中庭だった。
城を管理してる職員は、マンホール自体は知ってたが、その中が何なのかは知らなかった。
なので、特に俺を案内しなかったんだそうだ。
水道局立ち会いのもと、ボブが蓋を開ける。
当然ながら中は真っ暗だ。
酸素があるか分からないので、城のランタンを拝借し、灯りが消えない事を確認して俺が降りた。
中はレンガではなく、大きめの石材が組まれていた。
ロワール川の方は完全に塞いでるようで、地面は乾い
あれ?なんで俺ベッドに横になってんの?
まるで夢でも見てるかのように、何の脈絡もなく、突然カットが変わった。
「ミスターゲンタ、気がついたか!」
「いや、まだ気がついてない、多分夢の中だ。」
「気がついてるじゃねーか。」
体を起こし普通にベッドから降りる。
「で、何で取水口址に入ったら入院してるんだ?俺。」
どういう訳か、俺にはここが病院だとすぐに分かった。
いや、見て嗅げば一発か。この部屋の配置と臭いは病院以外ありえない。
「お前が地面に立った瞬間に、そのままの姿勢で動かなくなったんだ。
口だけが別のパーツみたいに動いてて、なんか呟いてたみたいだから、今テレビ局で解析してもらってるんだ。」
なんか当たりを引いたようだ。
それから簡単な検査を受け、俺はその日の内に退院した。
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