とらぬ狸の皮算用
カステレジョダンジョンが完成した翌日、ロシア海軍がまだノルウェー海に居座るが、そんなの無視して白浜空港ダンジョンからトランスポータルの罠で、俺とボブはポルトガルの浜に降り立った。
なんでもかんでも弾くミスリルでできたダンジョンに、他のダンジョンからのトランスポータルの罠が使えるのか心配だったが、問題なく使えた。どうやらダンジョンでさえあれば良いらしい。
ちなみに入国審査は、まともな手段で入国できないので免除である。
EU側もダンジョンは喉から手が出るほど欲しいので実現した。超法規的的措置だ。
法的には問題ないが、事前申請した物以外をリュックから取り出すと嘘をついた事になるのでカルマが落ちる。注意せねば。
プライア・ド・カステレジョには3mを越える波がドッカンドッカン打ち寄せ、たまに5m級の波が近くの磯で砕ける。
千葉の釣ヶ崎の波?何そのさざなみってくらい迫力の海にサーファー達が果敢に挑んでる光景は、なかなかに勇壮だ。
強襲揚陸ダンジョンが沖から浜に向けて凄い勢いで突っ込んできたときは、さすがに慌てて逃げたそうだけど。
そんな光景を眺めていたら、俺達は記者に囲まれた。
ポルトガルにとっては国内初のダンジョンだ、それも1日しか経っていないなら、記者がいて当然だった。
今までは、政府に守られてたり、ひとけがない浜に上陸したりと、なんだかんだで記者はいなかったから油断してた。
「ゲンタ、ポルトガルにようこそ!」
「やはりダンジョンを作るのが目的ですか?」
「ロシアがノルウェー海を海上封鎖していた件について一言!」
「魔法の過剰使用は魔力の枯渇を招くという学説がありますが、どうなんでしょうか?」
「入国審査してないようですが、密入国なのでは?」
「ダンジョンは何ヵ所作る予定ですか?」
「トランスポータルは常時日本と繋ぎますか?」
矢継ぎ早に質問が来たが、一斉に言うのでよく分からない。
なので、俺は自分が言いたい事を一方的に言う事にした。
「ロシア軍について、上の命令で俺に付き合わされた兵士の皆さんには、ご苦労様としか言いようがありません。
結局一度も矛を交えませんでしたから、彼らには特に恨みはありませんよ。
あの包囲網を突破できなかったのは悔しいですがそれだけです。
次があれば突破してみせますけどね。」
最後にちょびっと挑発して、ロシア向けの声明は終わった。
「あと、ここに来たのはダンジョンを作るのが目的です。」
記者からどよめきが聞こえる。
驚きと言うより、予想が的中したって感じだ。
「ダンジョンは、既存の施設が多い所は避け、新規に開発しやすい所に生み出す予定です。
これからペドラルヴァ村に行って、村の代表と交渉してみます。
では皆さんアディオス!」
俺はしゅたっと手を上げ・・・ない。
それはヨーロッパでは『ハイル・ヒトラー』になるので、軽く手を振って記者と別れた。
ペドラルヴァ村はダンジョンが突撃したプライア・ド・カステレジョよりやや北東にあるとしか分かってなかった。
現地はポルトガルに多いオレンジ色の屋根にしっくいの壁の家が建っていた。
村人に有力者について聞いてみると、90過ぎのジイサンが村長らしいが、かなり前から認知症になっていて、村人は結構好き勝手してるらしい。
その他に有力者はおらず、行政手続きは6km離れたヴィラ・ド・ビスポの町に行くのだそうだ。
前々から欧州からはダンジョンを作れと矢のように催促されてたので、勝手にダンジョンを作っても、多分問題ないだろう。
できれば許可が欲しかったが、たかがダンジョン作るだけの事で、認知症の村長をだますような事はしたくない。
もちろんだます気はない、しかし、本人が思い出せないなら、後で言葉巧みにだまされたと感じるかもしれない。
俺が勝手にダンジョン作ったなら、「アイツが勝手に作りおった」「うん、無断で作っちゃった。ごめん。」という話の流れになるから、認知症の村長にとってもシンプルで分かりやすいだろう。
俺は一応近所の人と相談して、近くの雑木林にダンジョンを生み出した。
このダンジョンは、30mの縦穴にネジのような螺旋階段がある構造にした。
螺旋階段の途中には横穴があり、そこから奥に進めるようになっている。
このタイプのダンジョンには階層という概念がない、地上から計って『◯◯m地点』という表記になる。
「あ、どうせなら・・・」
俺は階段にいくつか穴を開け、階段を飛ばしてよじ登れるようにした。
せっかく縦穴があるから、『絶壁踏破』のスキルを取得できるようにしたのだ。
そして現時点で最深部の30m地点に、南紀白浜空港ダンジョンへのトランスポータルの罠を設置する。
が、その前にリュックからダンジョン丸を取り出した。
ペドラルヴァダンジョンを魔改造するため、ダンジョン丸からDPを補給するのだ。
ペドラルヴァダンジョンからトランスポータルの罠で簡単に日本に行けたら、航空各社が黙ってない、収入が激減して盛大に悲鳴が上がるだろう。
なので、南紀白浜空港ダンジョン行きの順路には、魔物や罠を配置した。
これで気軽に日本には行けないはずだ。
「さて、ようやくフランスを目指せるな。」
「本場のフランス料理楽しみだぜ。」
EU加盟国同士は、入国審査無しでどこまでも行けるから楽でいい。
その頃、ポルトガル北部にあるペドラルヴァ村では、記者や住民などいろいろな人達がゲンタが来るのを今か今かと待ち構えていた。
村には旧跡があり、観光地としての側面もあるので、ポルトガルでペドラルヴァ村といえば こちらを連想する人の方が多い。
降って湧いたダンジョン誘致に、現地は大いに盛り上がっていた。
気が早い投資家は土地を買い漁りだしたが、ポルトガル南部のファーロ県にある同じ名前の村と分かると、不動産価格は一気にダンジョン発生前を下回った。
「なんだよ!こっちじゃねーのかよ!」
「ファーロ県?なんだってそんな端っこに作るんだよ!」
投資家は大損したが、酒場だけはヤケ酒の客が詰めかけ大繁盛した。
元太は、ダンジョンを作れば作る作らなければ作らないで、社会に影響を与える男だった。
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