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目指せヨーロッパ

 俺は、今日も今日とてダンジョンを作る日々だ。

 最近はカナダの内陸部を攻めている。

 本当はアメリカの内陸部に作りたかったが、ダラスを初めとした石油産業で成り立ってる地域も多いため、トラブルを回避するために、こちらに来たのだ。

 カナダの発電は、水力発電が半分を占めているため、魔石発電の需要はさほど多くない。

 ダンジョンは資源および修練の場としての側面が強いようだ。


 そしてもう一つ、カナダ政府から空港が無い僻地と都市部を、トランスポータルの罠で往来できるようにしてほしいと要望があった。

 地元の合意があれば、どこにダンジョン作ってもいいと許可ももらったので、大西洋目指してダンジョンを作りまくった。

 その数20ヶ所、そのうち軍事施設内に作った1ヶ所は南紀白浜空港ダンジョンとも繋げ、カナダ軍に入国手続きを代行してもらった。

 ダンジョンの製作は、かなり効率化したが、大西洋側の港町メアリーズハーバーにダンジョンを作るまで、1年かかった。


 ここから先は、だんじょん丸でグリーンランドに渡り、アイスランド・アイルランド・イギリスのどれかを経由して、ヨーロッパに上陸するのだが、ここでロシアが立ちはだかる。

 ロシアとしては、俺を絶対にヨーロッパに入れる訳にはいかない。

 もしも俺をヨーロッパに入れて、ダンジョンを作られたら、ヨーロッパ向けの天然ガスの輸出が、アジア向けと同じように激減するからだ。


 なのでロシアは、俺1人のためだけに、北方艦隊・バルト海艦隊・黒海艦隊のほぼ全てを動員して索敵していた。

 さすがにそれだけ動員すると、バカみたいな戦費がかかるが、そこは中東をはじめとした世界の産油国と手を組んで支援を受けてるらしい。

 ご苦労な事だ。


 対する俺は、メアリーズハーバーから海岸沿いにダンジョンを作りながら北上し、悪天候を待った。


 カナダとグリーンランドの間にあるラブラドール海は、霧と氷山が有名な危険海域である。

 特にここの氷山は、タイタニック号を沈めた事で一躍有名になった。

 それ以来カナダとアメリカは氷山の監視に余念がない。

 当然、そんな危険な海域を、悪天候の状態で航行するバカはいないが、ダンジョン丸は氷山と正面衝突した程度では傷一つつかない。


 俺は濃霧でなおかつ月のない夜に、カナダを出国した。

 濃霧のせいで航海灯が見えないが、こんな非常識な航海やる奴はいないだろうと、ロシア海軍が監視してるかも知れないラブラドール海を、40ノットで突っ切る。


 ダンジョン丸はレーダーを積んでない、なので小さい氷山に何度かぶつかった。

 そのたびに船体が跳ねあげられ、一度は本当に転覆して冷たい海に投げ出された。

 だが、転覆しても絶対沈まないのがダンジョン丸だ、すぐに空間型ダンジョンを生み出し、ダンジョン丸と俺を収納する。


「つめてーっ。」


 いくら『低温耐性』のスキルがあると言ってもまだレベル2だ、文字通りの氷水は死ぬほど冷たい。

 

 着替えを終え、ダンジョン丸を元通りにひっくり返したら、グリーンランドへの航海を再開する。

 無事グリーンランドの海岸に座礁したのは、カナダを出て16時間後の未明だった。


 なおこの夜、ロシアは原子力潜水艦が俺を捕捉し、追跡したところ、俺がぶつかった氷山の一つにぶつかり、潜航不能になったそうだ。

 もっと深い所を進めばいいのに。


 グリーンランドの次の目標は、アイスランドに定めた。

 ここはデンマーク海峡と呼ばれる海域で、氷山は流れてくるが、ラブラドール海と比べて霧が少ない。

 ラブラドール海と同じ作戦は効果が薄いだろうし、ロシア側も警戒してるはずだ。

 なので、極めて原始的な方法を採用した。


 グリーンランドから海底の更に下を掘り進み、アイスランドまでダンジョンを開通させたのだ。

 直線距離にしておよそ300km、東京駅から金沢駅くらいだ。

 だんじょん荘の管理もあり、工事は3ヶ月もかかった。

 その間落盤事故が18回、水没事故が7回、油田を掘り当てること2回と、様々な事故に見舞われたが、極端な話、俺さえ死なずにアイスランドに着けばダンジョンは全区間崩落してもいいので、安全対策なんかなしで掘り切った。

 日本でこんなことしたら、確実に工事中止だよね。


 ちなみにこのダンジョンは、パワードイエティーやブレードライガーといった、毛が生えた魔物がやたら多く、みんなダメージを軽減するスキルを持っていた。

 ドロップアイテムの毛皮は見栄えがするだけでなく、『低温耐性』の付与がついた逸品で、高値で取引されそうだ。


 暫定ラスボスのアークマンモスなど、マジックミサイルどころか、ビホルダーがぶっ放してきた加電粒子でもダメージが通らなかった。


 後に、アークマンモスは討伐不能という事で、事実上のグリーンランドとアイスランドの境界と言われるようになる。

 ギネスも認める世界最強にして、世界で初めて国境となる魔物だ。


 緩んだ空間型ダンジョンを締め直すため、一旦だんじょん荘に戻った俺は、お土産の溶岩チョコをお茶受けにまったりしてた加藤に、新しいダンジョンを報告していた。

 加藤は、でかい世界地図に新たなダンジョンを追加した。

 ダンジョンがまだ2桁のときは、俺も把握しきれていたが、さすがに300ヶ所を越えると、影が薄いダンジョンはどうしても忘れる。

 この地図を見るたびに、そーいやあんなダンジョンもあったなーと、思い出すものだ。

 それに一般向けの情報公開にも便利だ。


「そうか、ようやくアイスランドか、でもよ、そのままノルウェー辺りまで掘り進んじまえば、ロシアに気付かれなかったんじゃねーのか?」


「それできないんだ。

 前にプレート境界クラスの大きな断層を無視してダンジョン作ったら、大地震起こした事があったんだ。

 アイスランドのギャウなんてモロだよ。」


 ギャウとは、大西洋を南北に走る巨大断層の一部で、唯一地表に露出した部分だ。

 もちろん俺も観光してきた。


「オーナーって、日本に結構ダンジョン作ってなかったか?

 日本なんて断層だらけだろ。」


「大きな断層は避けたから大丈夫。」


 実は日本ではダンジョンのせいで地震が多発してるのだが、最大でも震度2にとどかないので、全く問題になっていない。

 台風の方がよっぽど建物を痛めるだろう。


「さて、ここからどうやってヨーロッパまで行ったものか。」


「アラスカに行く時の手は使えないのか?」


「ノルウェー海は意外と貨物船が多いから、あんなところに大渦なんて生み出したら、犠牲者が後を絶たないよ。」


 アラスカ湾は貨物船がほとんどおらず、大渦を出した場所は有望な漁場からもかなり離れていた。

 しかし、ノルウェー海にそんな所があるとは思えない。

 フィヨルドならあるかもしれないが、そんな細かい所、現地に行かないと設定できない。


「だったら、韓国に行った時の手はどうだ?

 護衛艦沈んだ後で、空間型ダンジョンの位置ずらしながら進んだ奴。」


「あれは遅いんだ。

 原理的には不可能じゃないけど、1000kmもあると11日じゃつかない。

 それじゃ、だんじょん荘の空間が緩んで結合が解ける可能性が万に1つはある。」


 当初は一週間ごとに締め直していた空間型ダンジョンの緩みだけど、途中からちょっとずつ期間を伸ばして、今では11日ごとでも大丈夫だと確証が持てるようになった。

 しかし、1000kmに渡ってダンジョンと入口を伸ばして縮めてを繰り返すと、2週間でも到着しそうにない。

 もし、空間型ダンジョンの結合が解けたら、10万人単位で行方不明が出てもおかしくない。

 はっきり言って大惨事だ。


 しかも、空間型ダンジョンの入口は電磁波を弾くので、レーダーによーく映る。

 外の様子は全く分からないから、毒ガスの爆弾投げ込まれたりしたら・・・と思うと、おちおち寝ていられない。


「それじゃ、アイスランドからノルウェー海の下を掘り進むのは?」


「あそこ水深2000mあるんだぞ。

 そんな深い所を掘った事ないよ。」


 デンマーク海峡でさえ事故が多発したのだ、いくらなんでもノルウェー海を超えてダンジョンを掘るのは無理だ。


「ならばいっそ、オーナーを弾道ミサイルに搭載してヨーロッパに打ち込めばいいんじゃないか?」


「死ぬわ!『装甲』の魔法使っても、さすがに即死だわ!」


「なんだよ、さっきから文句ばっかじゃねーか、せっかく考えたのに。」


「目的を達成できないなら、無策と一緒だわ!」


 半分期待してなかったけど、加藤からまともな案は出なかった。

 加藤からは。


「あのー、弾道ミサイルでちょっと思ったんですけどー。」


 話に割って入ってきたのは、加藤が今年中卒で採用した新人だった。


「弾道ミサイルに入れるのはオーナーじゃなくて・・・」


「なーるほど、その発想はなかった。

 さすがに弾道ミサイルは無理だけど、いけるかも知れない。

 というか、うまくいったら革命的だ。

 うまくいったら報償金も出そうかな。」


 新人の子は、報償金と聞いてとても喜んだが、俺にとっては小銭だ。

 溜め込むのも良くないので、少しは回さないとな。

 そのうち金を持ってても意味がない社会になりそうな気もするけど。





 俺はアイスランドやグリーンランドにダンジョンを増やしながら、隙あらばノルウェー海をつっ切るぞと、ダンジョン丸でアイスランド近海をうろうろする。


 沖に見えるロシアの艦隊には空母を始めとした軍艦の姿もあるが、イカダのような小型挺がかなり多い。

 ミサイル撃っても効かないなら、取り囲んで素手で捕まえようというのだろう。

 ご苦労な事だ。


 皆殺しにしていいならダメもとで『隕石』の魔法に挑戦してみるけど、その後の事を考えると、直接の犠牲者は出したくない。

 

 そんな日々が2ヶ月ほど続いたある日、作戦成功の知らせが届いた。

 ポルトガルのプライア・ド・カステレジョにダンジョンが発生したのだ。


 俺がアイスランドにいながらにして、でどうやってポルトガルにダンジョンを作ったのか。

 正解は、日本で作ったダンジョンを、貨物船に乗せてポルトガル沖まで運び、そこから魚雷のごとく浜に射出したのだ。


 だんじょん荘管理会社の新人は、だんじょん荘で販売しているウエハースダンジョンを見て、小さなダンジョンを弾道ミサイルに搭載して、ヨーロッパに打ち込む事を提案してきた。

 さすがに弾道ミサイルではダンジョンコアがもたない。なので、ダンジョンそのものに浮力をもたせた軽いダンジョンにエンジンを積んで海岸に突撃させる作戦を思い付いたのだ。

 今回はロシアや産油国の妨害も予想されたので、ダンジョンは純ミスリル製だ。

 お値段は推定50兆円の強襲揚陸ダンジョンの爆誕である。


 浜に乗り上げた後は、指示通りにダンジョンを据え付ければ、カステレジョダンジョンの完成である。

 後は放置すれば下へ下へとダンジョンは伸びていく。

 本当に小さなダンジョンだから、大きくなるのに時間がかかるが、最初が純ミスリルだったので、拡張したダンジョンもミスリルになる。

 ウエハースダンジョンが大気中の魔力を吸収して大きくなるのと一緒だ。


 ちなみに、カステレジョダンジョンの最初の魔物はミスリルゴーレムとミスリルボールが一匹ずつで、どちらも撃破不能だ。

 ただしミスリルは軽いので、ちゃんとガードすればスキルや魔法無しの生身でも思ったほどダメージを受けない。

 後にカステレジョダンジョンは、物理的に攻撃されると修得できる『身体強化』と、ダメージを受けると修得できる『耐久強化』の修得に向いてるとして、それなりににぎわう事になる。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

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