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世界経済どうなっちゃうの?

 鈴木元太の影響で、不振になった業界は多い。

 軍事・エネルギー・医療・保険・スポーツ、特に産油国はアジア大平洋方面の輸出が減り、どこも頭を痛めていた。


 元太のヨーロッパ入りは何としても阻止したい。


 元太を抹殺するためだけに、スパイ衛星を打ち上げ、潜水艦を建造し、艦対人ミサイルを開発し、独立した諜報機関も創設した。

 鈴木元太1人のために、もう何千億円使ったか分からないほど産油国の危機感は強かった。


 しかし、産油国と一部の国を除けば、世界的に歓迎ムードが強い。


 その歓迎しない一部の国の一つが、実はスイスである。

 アルプスの少女ハイジで有名なこの国は、寒冷な気候のせいで農業が低調だ。

 そんなスイスの産業は、金融に大きく依存している。


「ゲンタめ!」


 スイス銀行のトーマス頭取は、報告書を憎々しげに読んでいた。


「何がカルマだ!何がスキルだ!何がダンジョンだ!!人類の文明をここまで築き上げてきたのは金の力だ!」


 報告書には、だんじょん荘では既にカルマがかなり浸透し、スキルを鍛えれば金はダンジョンですぐに稼げる環境になっていると書かれていた。

 事実、だんじょん荘の住人は、スキルを獲得するついでに手に入る魔石だけで生活費を賄っていた。

 だんじょん荘の住人にとって、金とはその程度の価値しかないのだ。

 報告書には、カルマやスキルが社会に浸透すると、相対的に金の価値が下がると結ばれていた。


 金の価値の低下は、スイスの国力低下を意味する。

 長年スイスという国を金融で支えてきたトーマス頭取には、絶対に受け入れられない現実だ。


「各国の高層建築物や乗り物、電化製品全般だって金の力がなければ実現しなかった!ゲンタは何を考えているのだ!

 おい、誰かゲンタに探りを入れろ、経済をズタズタにして、あいつは何が楽しいんだ。」





「という訳で、スイス政府から日本政府に質問状が来たのじゃ。」


「まずは平和的に情報収集ですか。

 まあ、あちらも大変でしょうから、解答はしますけど。」


 総理自らだんじょん荘に乗り込んできたから、何事かと思ったら、開口一番その口に俺の焼きカピバラを放り込んだ。

 別にいいけど、腹減ってるんなら、自分で買えよ。


「えーと、質問状の内容は・・・こりゃ即答できないな。」


 質問の内容は、平たく言えば、経済という物をどう考えてるか?世界経済を今後どうするのか?だった。


「時間がかかりそうか?」


「はい。

 そもそも、経済とは何か?を即答できる人は少ないでしょ?」


 俺は経済という物を深く考えていなかった。

 だが、幾多の異世界を渡ってきた俺には、地球の資本主義経済が重大な欠陥を抱えてる事は分かっていた。


「時間があるなら、経済とは何かを整理するために、お話ししませんか?」


「ああ、構わん。」


 と言って、総理は秘書からビールと肉を受け取った。

 これは初めから居座るつもりだったな。


「経済と一口にいっても、視点によって色々解釈がありますよね。

 人が暮らすための仕組みの視点から考えましょうか。

 人間は1人でできる事に限りがありますから、分業しないと全人類が器用貧乏で終わってしまいます。」


 魔石で焼いたラムの焼き肉が、じゅうじゅういってる。

 ラム肉はリンダが育て、食肉加工場の従業員によって食べやすく加工され、このフードコートの店に卸される。

 当然の事だけど、ラムの焼き肉を食うために、一連の作業を1人でやったら、時間がかかって他の作業ができない。


「作業を分担するには、労働対価という概念が必要で、それを数値化したのが金ですよね。」


「まあ、そうじゃな。」


「金が多いという事は他に頼める事が多く、少なければ自分でやるしかない。

 自然界では、同じ種でもできる事が多い固体が生き残る。

 手にした金は劣化しにくく腐らない。

 なので、誰もが欲しがり金を稼ごうとする。

 その活動全般が経済って事なんでしょうね。」


「まあ、そうじゃな。」


「そこまで考えると・・・ああ、そういう事か。

 魔法やスキルが登場すると、個人にできる事が多くなるから、そもそも金が必要になる『分業』の必要性が落ちるのか。」


 ここまで言って、スキルや魔法は、資本主義経済と致命的に相性が悪い事に、今更ながら気がついた。


 その最たるものが医療だ。

 魔法により、怪我の治療は一般人でも出来るようになった。

 自分にできるから、わざわざ金を出して医者に診てもらう必要がない、怪我の治療という市場が経済から消滅したのだ。


 もしも、ドラえもんの四次元ポケットみたいなスキルや魔法があったら、運送業にあんなに人はいらず、トラックなどの輸送車は必要ない。

 経済からトラックの市場が消えるのだ。


 『掃除』の魔法はオーバースペックだから使いどころが難しいが、能力を抑えられたら、掃除要員も、掃除や洗濯に使う家電も不要になる。

 経済から掃除関連の市場が消滅するのだ。


 加えて俺の場合は、ダンジョンから得られる魔石でエネルギーをまかなえる、スキルや魔法を駆使すれば、市場から原油が消滅する。


 市場が消滅すれば、失業者がどんどん増え、経済の規模は縮小し、人が生活するために必要だった資本主義経済は、人の営みを支えられなくなる。


 人は必要と感じるから金を出す。

 自分に簡単にできたり、空気みたいに簡単に手に入ったりする物には金を出さない。


 異世界人と比べて、地球人は個人にできる事が少なかった、どおりで地球では貨幣価値が高い訳だ。


「これだけ大々的に魔法やスキルを広めちゃったら、地球の資本主義経済も別の形に変わるでしょうね。」


「具体的にはどうなる?」


「さあ、経済とか社会は1人の人間だけで変わらないですからね、それは何とも。

 経済を個人の活動の集まりと考えるなら、スキルの獲得が重要になるでしょう。

 金をスキルには変えられないけど、スキルで金は産み出せそうですから。

 なので、ダンジョンがある国とない国で格差が出るでしょうね。

 ダンジョンは資源を獲得する手段でもありますから、そういった意味でも格差が出ます。」


 特に魔金属類はどれも性質が尖ってるから、物理的に無理だった事も、一部実現するだろう。


「あと、『金持ち』と並んで『善人』が重要な社会的ステータスになりますね。

 カルマが高い人は、それだけで信用できますから。

 さらには、魔法の開発競争がそろそろ始まるでしょうか。

 その成否によって、人類の活動は影響を受けるでしょう。」


 魔法の開発に成功したら、また知的財産権とか言いだすだろうか。

 地球は資本主義で培った開発力がものすごく高い。異世界で30年かかった魔法の開発が、地球なら1年で終わる気がする。

 俺の予想では、魔法を開発してる最中は経済が回るが、粗方開発が終わったら、かなりの数の産業が消滅して急速に経済が縮小すると思う。

 魔法の開発に手を出したら、資本主義経済は終焉まで一直線だろう。


「あ、もしかして、日本は既に魔法の開発に手をつけてます?先日オリハルコン探しで異世界に接続したら、大量に魔法がもたらされたましたしね。」


「そんなの、お前が魔法を公開してからすぐに始まっとる。

 日本だけでなく、世界中でな。」


 すでに始まってたか。

 当時公表してた魔法は、『装甲』『水瓶』『探知』『意訳』の4つだったから、魔導書から法則性を見つけるのは無理だ。

 その後『カルマ判定』『暗視』『筋力強化』『手当て』『鍵』『掃除』『解呪』を公表し、『治療』が漏洩した。

 だが、いろんな異世界の魔導書をまんべんなく公開したから、医療のくくりで『手当て』と『治療』の魔導書から共通点を探ろうとすると、訳が分からなくなる。研究しても無駄のはずだった。


 でも、オリハルコン探しで異世界に接続したときに、同じ世界から7つの魔法が地球にもたらされたから、ここから研究が進むんだろな。


「しばらくは、魔法の開発とか、ダンジョン産の資源の活用とかで研究が進むんでしょうが、それによって更に既存の業界が不要になって、労働市場はどんどん縮小すると思います。」


 現に、かつてのオフィスは、大勢の事務員がソロバンを弾いたり、作業台で図面を引いてたが、PCの登場でそんなに人はいらなくなった。

 通信技術の向上で郵便の必要性は落ち、デジカメの登場で写真は現像しなくて良くなったから、町の写真館は次々と閉店していった。

 そのデジカメもスマートホンに取って代わられている。


「頭の痛い話じゃな。

 労働市場が縮小すれば、失業が増えて税収も減る。」


「そのうち、資本主義じゃ国民を養えなくなりますね。

 まあ、遅かれ早かれ、資本主義は衰退すると思いますけど。」


 かつては必要は発明の母と言われ、夢を実現した新製品を販売する事で企業は利益を得ていた。

 しかし、夢を実現するという事は、世界から夢が減る事でもある。

 かつてエジソンは様々な発明をしたが、もはや個人でできる発明なんか、重箱の隅をつつくような代物しか残ってない。

 集団で実現させるような発明だって、もはや一筋縄ではいかない物しか残ってないだろう。

 売れる新製品がなくなれば、企業は支出を減らすために投資し、成功すれば労働市場が縮小する。

 それも限界にくれば倒産して、さらに労働市場が縮小する。


 電気やインターネット級の夢が世界にもたらされればまだ目はあるが、そんなの強いて言えば魔法くらいだ。

 その魔法も開発し尽くせば、人は万能に近付くので、ますます金の出番がなくなる。


「既に各国が魔法の開発に躍起になってるなら、資本主義終焉まで一直線ですね。はははは。」


「はははじゃない!

 税収が落ちたら国はどうなるんじゃ!」


 それでも開発を止められない、全ての人類が古代から憧れてきた魔法にはそれだけの魔力がある。魔法だけに。


「いっそ、通貨なしの経済に移行したらいいんじゃないですか?

 国債発行しまくっても、資本主義終わったら、日本の借金踏み倒せますし。」


「そんな経済あるかーっ!」


「ありますよ。」


 それから俺は、総理に異世界仕込みの通貨なしの経済を延々と説明したのだった。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

 通貨がない経済の登場は、もう少し先になります。

 なにぶん一人で考えた架空の経済なので、穴だらけだと思います。

 あまり期待しないてね。

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