無限増殖ダンジョン
さて困ったぞ。
何がって?オリハルコンだよ。
ほとんどの異世界では、オリハルコンは重要な魔金属だった。
1ヶ所だけ、オリハルコンの価値が腐食しない金属としか考えない異世界があった。
異世界から日本に帰ってきたときに保有していた大量のオリハルコンのほとんどは、その異世界で手持ちの宝石全てと交換して手に入れた物だ。
やはり、オリハルコンを手に入れるためには、異世界と接続しかないか。
でも異世界の権力者って、傲慢なのが珍しくないんだよな。
現にあれから7ヶ所ほど異世界と接続したけど、内3ヶ所が俺のダンジョンを領有しようと領主が軍勢を送り込んできた。
俺は探索者や各国の軍隊に働きかけて、その都度異世界の軍勢を押し返した。
そこで異世界側のダンジョンの手前に深い空堀を設置たり、探索者を本気で殺すための罠を大量に敷設したりして、往来が難しくなるようにしたが、このとき大問題が発生した。
探索者だか軍人だかが敵の魔術師から魔道書を手に入れ、魔法をネット上に拡散したのだ。
拡散された魔法は以下の通り。
・ディスペル
魔法を無効にする魔法。
そもそも魔法は、干渉すると消えるので、イマイチ使い所がない。
『装甲』の魔法には、5重の魔力障壁のうち、一つしか無効にできなかった。
・ファイアーボール
火の玉を飛ばす魔法、着弾地点で延焼する。
白浜ダンジョンではゲンコツくらいの火の玉を50m飛ばすくらいだが、外では酒樽くらいの火の玉を300mくらい飛ばす。
・キュア
『解毒』の魔法とほぼ一緒
・ウォーターキャノン
放水する魔法、白浜ダンジョンでは家庭用ホースで5m先まで放水する程度の威力だが、外ではポンプ車を超える水量を50mくらい先まで飛ばせる。
・アシッドキャノン
ウォーターキャノンの水が酸になった魔法、白浜ダンジョンの外で使うと酷い公害を起こし、カルマが大幅に下がる。
・アイストルネード
無数の細かい氷の粒を、旋風とともに相手にぶつける魔法、白浜ダンジョンでは半径10mに10秒くらい放っておしまいだが、外だと半径50mに及ぶ上に、ディスペルを使わないと止まらない。
・マジックミサイル
無属性の魔法の矢を放つ、白浜ダンジョンではクロスボウと同程度だが、外では対物ライフルと同レベルの破壊力がある。
ついに攻撃魔法が拡散してしまった。
アイストルネードは試し打ちの段階で使いにくい事が分かり滅多に見なくなったが、ファイアーボールとマジックミサイル、この2つはそれぞれ別の意味で世界に衝撃を与えた。
マジックミサイルの登場で、ダンジョン探索は飛躍的に楽になった。
魔法陣を見ながら発動するから、命中率は銃の方が上だが、銃弾と違って弓矢を鍛練すると修得できる『命中率向上』を初めとしたスキルによる補正をかけられる。
しかもマジックミサイルは魔力が濃い地球では弾切れを起こさない。
S&Wを初めとした兵器産業は、またしても冬の時代を迎えるだろう。
ファイアーボールは破壊力がありすぎて、ドロップアイテムまで焼失するあり様だった。
兵器転用についても考えられたが、訓練された敵兵なら『水瓶』の魔法ですぐに鎮火できるため、戦果は限定的と分析された。
問題は放火事件を起こす奴だ。
魔法は基本、魔法陣を寸分たがわずイメージするか、魔方陣を見ながらじゃないと発動しない。
一般人が、いきなり放火されて、とっさに『水瓶』の魔法を使えるか?といえば、まず無理だろう。
ちなみに、ファイアーボールを拡散したバカは、世界のどこかでファイアーボールを使った放火が起こるたびにカルマが落ちるので、公開から半日を待たずに白浜ダンジョンから出れなくなった。
カルマ判定の罠は、解除できるように作られていないので、罠に弾かれた探索者を外に出すには、ダンジョンを変形させて迂回路を作るか、強力な免罪のペンダントを持たせるしかない。
彼は故郷に帰り、以後どうなったのかは分からない。
こっちはこっちで忙しいからね。
「はぁ・・・次も話を聞かない領主だと嫌だな。」
「いっそ侵略しちまえばいいんじゃないか?」
ボブは相変わらず脳筋だ。
「嫌だよ、侵略なんかしたら、国民の面倒見ないとダメじゃないか。
だんじよん荘だけだって、大変なんだから。」
外国にダンジョン作りに行って、戻ってきたら、ダンジョン改造の要望に応えたり、偉い人と会ったり、これでも結構忙しい。
その上異世界の統治なんて増えたら過労死するぞ!
「mrゲンタ、ダンジョンでオリハルコン作れねーのかよ?」
「前に挑戦した事あったけど、無理だった。
多分、天職の練度が足りないんだと思う。」
「ポーションとか、おーいお茶とかは宝箱から出せるのにか?」
おーいお茶は具体的に何物かわかってるし、ポーションも錬金術師の作業を見て理解した。
実際、材料があれば、俺でも初級ポーションは作れる。
しかし、オリハルコンの錬成は、実際にこの目で見ても何がなんだかわからなかった。
「魔金属類は、一言で言うと正体不明なんだ。
金属なのに周期表に載ってないだろ?
トヨタ自動車の研究所で調べてもらってるけど、お手上げ状態らしいよ。」
「魔金属類に共通するのは、どれも錆びない事だけか。
金属って考え方が間違えじゃないのか?」
「その線でも研究してるらしいけど、成果なしだって。」
だいたいにして、周期表に載ってない物体って何だよ。
「mrシジョーはどう思う?
なんか適当に言ってみろよ。」
ボブは、次の階層の追加をお願いしに来た四条に話を振った。
「なんとなく、極小の結界の集合体みたいな気がする。」
「はっはっはーっ!適当な事言うじゃないか。」
「適当でもないんだ。
前に雲のダンジョンに挑戦した帰りに、スカイタイトのインゴット持たせてもらったんだけど、軽すぎて空箱みたいだなって思ったんだ。
それでも、ちゃんと硬いんだよ。
それ以来、空箱から結界を連想して、結界で作った剣とか鎧とか、そんなもの出来ないかなって、考えてたんだ。」
「四条は面白い事考えるね。
残念ながら、その考え方は間違えている。」
結界という事は『装甲』の魔法みたいな物だろうが、あれは質量が0だ。
それに『装甲』の魔法は高温で魔法障壁が剥離する事もないから、高温で溶ける魔金属類とは特徴が異なる。
ミスリルは溶けないけど、アレが溶けるほどの高温を人類が産み出せていないだけかも知れないしね。
「でも、発想が面白い。
極小のダンジョンの集合体とか、なんかできそう。」
あ、ダンジョンは成長する物だから、徐々に大きくなるか。
推進型ダンジョンもDP抜かないと大きくなるし、ウエハースダンジョンだって、だんじよん荘から外に出したら、ちょびっとずつ大きくなるからね。
そう諦めたときだった。
「そうだ、ダンジョンだよ!」
「ユーも気がついたか。」
おや、俺の一言で何か分かったかのか?
「オリハルコンとダンジョンて、どこか似てるよね。」
「魔力をDPに変換できる所とか、あと、DPをある程度貯めておける所とかな。」
「必要なのは、オリハルコンじゃなくて、反重力なんだよね。
だったら、エネルギー的な物を蓄積するのに特化したダンジョンと、その謎のエネルギーを反重力に変換できる仕組みがあればいいんじゃないか!」
2人が興奮気味にまくしたてた。
でも、それも無理なんだ。
「すまん、反重力が具体的に分かってないから、それも無理。」
「だめかーっ」
「いいアイデアだと思ったんだけど。」
2人は露骨に落胆した。
だが、俺は今のヒントでピンときた。
「いいアイデアだよ。
反重力は無理だけど、DP蓄積に特化したダンジョンはできる。
そして、DPの電力変換も手がある。」
DPの電力変換は、ダンジョン内のゴーレムに発電させりゃいいだけだ。
もっと言えば、発電機をゴーレムにしちゃえばいい。
他にも俺がダンジョンからDPを直接取り出せるので、その応用で電気にして取り出す方法があるかもしれないが、これは研究に時間がかかりそうだ。
「さすがに性能は劣るけど、ダンジョンをスカイタイトにできれば確実に軽くなる。
今みんなが使ってるオリハルコン電池と、新しいDPから電力変換電池を交換すれば、オリハルコンは手に入る!」
「さっき大家さんは、魔金属類作れないって言ったじゃないか。」
「作れないから、現地から購入する。
幸い、雲のダンジョンは霞網猟が順調で、そこそこスカイタイトを産出してるし、まだまだ狩場は沢山余ってる。
こちらに回せるだけのスカイタイトはあるはずだ。」
「DPの充填は?」
「俺の魔力でもいいし、電気を流し込んでもいい。
もともとダンジョンは貪欲にDPを吸収する性質があるし、95%以上は充填できないから安全だ。」
「でも、巨大化するんだよね。」
「はみ出したら、その部分を切断すればいいんだ。
あ!そうすれば、ここでもスカイタイト生産できるじゃん!」
それは爆弾発言だった。
俺達は、そのまましばし固まった。
そして・・・
「あーーーーーっ!
スカイタイトと言わず、オリハルコンでダンジョン作れば!」
「簡単にオリハルコン増やせる!」
「何でこんな簡単な事に気がつかなかったんだ!」
今までダンジョンそのものを道具や食糧にする発想はあったけど、栽培したダンジョンを削って資源にするような発想はなかった!
無限増殖ダンジョンの爆誕であった。
「よーし、今日は久々のサラマンダーステーキだ!
お前らも食ってけ!」
「おおっ、夢の魔物食!」
「なんか知らんが、うまそうじゃないか。」
かつて鯉渕家で失禁者を出したサラマンダーステーキを食べた四条とボブが、サラマンダーと灼熱の階層を猛プッシュしてきたのは言うまでもない。
12階層は灼熱の階層にするかな。
水分補給しないと死ぬけど。
『新規スキル獲得 六感強化』
えっ?
オリハルコンダンジョンは、だんじょん荘に建設した。
本当は外の方が魔力が濃いから効率的なんだけど、セキュリティーはだんじよん荘の方が上なので、仕方なくこうなった。
オリハルコンダンジョンの拡張に必要なエネルギーは、関西電力に外注した。
もともとだんじよん荘の電気は、アパート内の魔石発電機で作っていたが、これを機に管理会社から発電部門を関西電力に売却した。
正直、専門知識が乏しい上に、入居者が増えすぎて、発電施設の管理は大変だったんだ。
年間の電気代は20億円、えらい高いように見えるけど、オリハルコンはグラム百万円だ。
実際に稼働してみたら、オリハルコンダンジョンは1ヶ月でだいたい5kg増えた。年間なら600億円だ。
純利益は半分の300億を余裕で越える・・・ちと儲けすぎだな、オリハルコン電池のレンタル料だけで年商250億円もあるから金は余ってる。
正直、大幅値引きしてもいいんだけど、それをやると探索者が命がけで獲得したオリハルコンが値崩れするから、おいそれと下げられない。
使いきれないほど金を持ってても、強盗に狙われるリスクばかり増える。
最近はカルマという価値が浸透しつつあるが、既存の金もまだまだ価値が高い、捨てたらいろんな所から余計なヘイト集めそうだから、捨てるわけにもいかないし、どうしたものか。
後日、記者会見を開き、オリハルコンを安定して毎月5kg生産できると発表し、本当に産業や研究のために使う団体にのみ販売すると発表したら、即日完売した。
ちなみに価格は、消費税込みで国際価格とした。実質消費税分だけ割引だ。
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