テレビ出演 打ち合わせ編
姉貴のアパートに戻ると、これからどうするか考えながらテレビをつける。
バラエティー番組が放送されていた。
そこにニュース速報が流れる。
『7年前に失踪した鈴木元太(22)が、異世界から帰還した事が判明』
番組は再放送だったので、番組中に何かが起こる事は無いだろう。
と思ったが、突如テレビ画面がニュースに変わった。
このタイミングで変わるって事は・・・内容は俺の事だった。
コンビニ袋ダンジョンを使った記者が「これ、マジもんだ!」と叫ぶシーンやら、『点火』の魔法を使って火柱が派手に上がったりするシーンが放送される。
他の局では、記者の魔覚を覚醒させる所が放送されたり、実際に俺が魔覚を覚醒させた記者が出演するなど、記者が来なかった読売テレビ以外は一斉にさっきの記者会見の様子を放映していた。
そこに電話が鳴り響く。
「はい、鯉淵です。」
「その声は鈴木さんですね。牧野です。」
記者の牧野だった。
こいつ、どこで電話番号知ったんだ?
「突然ですが、今晩の生放送に出演してもらえませんか?」
「本当に突然ですね。
特に予定は無かったからいいですけど。
ただ、どこに行くか分からないですけど。」
「大丈夫です。
迎えをよこします。」
それから牧野とざっと条件を交渉し、俺のテレビ出演が決まった。
社用車でテレビ局に到着すると、案内の職員さんが待っていた。
今日は急遽組まれた特番という事で、司会は局のアナウンサーが担当するそうだ。
ゲストは8人、プロの手品師が2人、子役が1人、女性アイドルが1人、スマイルアップが1人、芸人が2人に弁護士1人か・・・
7年も日本にいなかったので、若手の芸人とアイドル歌手は知らない人だ。
スマイルアップの人は7年前に一世風靡してた超がつく有名人だったが、グループが解散したと聞いて若干驚いた。
知ってる人も、この7年で芸風が変わってるかも知れない。
なので今来ている出演者に挨拶しに行った。
異世界の帝国を去った後も、いくつもの異世界を渡り歩いて失敗してきた俺は、ファーストコンタクトは下手に出た方がうまく行く場合が多い事を思い知ったので、子役の子にも高圧的に出ないように気を付けた。
出演者の反応は、おおむね俺と同じく下手に出るか、フレンドリーに接してくるかだったが、手品師の1人は態度が若干高圧的だった。
出演者の方と、軽く打ち合わせをして、急ピッチで準備が進むスタジオの見学をしていると、中年の女性から声をかけられた。
「こんばんは、急にお呼び出しして申し訳ありません。
私、プロデューサーの柴田と申します。」
「こんばんは。
こちらも予定とかありませんでしたから、お気遣いなく。
むしろ、今抱えてる問題の手がかりが見つかるんじゃないかと、密かに期待してたりします。」
「1兆円問題ですね。」
異世界帰りが日本円を持ってる可能性は絶望的に低い。
そんな状態で消費税1兆円払えって言ったって無理に決まってる、1万円でもきついだろう。
「今日は弁護士の方も来てますから、面白い意見を聞けるといいですね。
あ、でも税金の事ですから、税理士の方が良かったかもしれないですね。」
「いえ、弁護士は税理士として活動できるんです。
むしろ今回は法整備の不備のような気がしますから、弁護士の方がいいと思ったんです。」
「なるほど、さすが人選は手慣れてますね。
ところで、話の流れは魔法とかダンジョンの話にもなりそうですが、魔法の実演はリスクが伴いますよ。」
「加減はできませんか?」
やはり魔法の実演はやりたかったようだ。
「無理ですね。
『点火』の魔法がライターの火くらいのはずでしたから、他の魔法もあり得ないほど強力になってると思います。
後は『意訳』みたいなテレビ向きじゃない地味な魔法とか。」
『意訳』は言葉だけじゃなく、赤ちゃんや犬の鳴き声、果ては樹木の揺れに至るまで、感情がこもってさえいれば、何でもかんでも意訳する魔法だ。
赤ちゃんを育てるお母さんには大人気だろうけど、テレビ的には物足りなすぎる。
「筋力が増える魔法とか無いですか?」
「『筋力強化』がありますね。
俺の場合はさらに強力な『剛力』とか使えますよ。
でも、『剛力』は体が壊れそうだな。」
『筋力強化』の魔法は、筋力をおよそ7割強化する魔法だ。
効力の割に魔力の消費が低く、大気中の魔力が薄い帝国でも連続使用できた。
一方の『剛力』の魔法は強力だが、魔力消費が高く、使用時間が短いといった欠点がある。
本当は更に筋力が上がる『怪力』という魔法もあるのだが、これをフルパワーで使うと骨が折れてしまうという問題点がある。
『怪力』は最後の手段として覚えておく事も考えたが、『怪力』が必要になる時点でほぼ詰んでいると考え、魔導書を入手するにとどめた。
「とりあえず『筋力強化』を使う方向で行きましょう。」
「分かりました。
それと、ダンジョンなんですけど・・・」
俺はダンジョンの見せ方について、柴田さんと話あった。
当初は行き当たりばったり的な雰囲気もあった特番は、急速に形になっていった。