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鈴木元太の影響(スポーツ)

 鈴木元太の影響は、当然のようにスポーツ業界に及でいた。


 当初、IOCを始めとするスポーツ団体は、スキルや魔法を全面禁止した。

 しかし、パラリンピックは事情が大きく違った。


 『魔力感知』と『魔力探知』のスキル


 鈴木元太がまだ東京にいた頃は、聴覚障害者は修得不能と思われていたが、その後聴覚障害者でも修得できる条件が見つかっている。


 このスキルを禁止すると、視聴覚障害者の自立を阻害する事になる。

 しかし認めると、国により格差が生まれてしまう。


 障害者のために、スキルを認めるべきか、公正な競技のためにスキルを認めないか、パラリンピック委員会は難しい判断を迫られた。


 不毛な会議が繰り返された末、国際パラリンピック委員会は、『魔力感知』と『魔力探知』のスキルの使用を認める決断を下した。

 国際パラリンピック委員会は、競技の公平を捨てて、視聴覚障害者の自立を選択したのだ。


 しかし、話はこれだけでは終わらない。


 『魔力感知』のスキルを修得するために、白浜ダンジョンでは、タフさはあるが攻撃力が低いスライムを使っている。

 スキルを修得するには、当てずっぽうに武器を振り回す事になり、その間百回以上も攻撃を食らう事になる。

 すると『身体強化』のスキルを修得してしまうのだ、それも5%補正を受けられるレベル2を。


 かつてズゴックマン元帥は言った。「オリンピック選手はその1%のために命削って練習してんだよ!十分スゲーわ!!」と。

 レベル1でも『身体強化』のスキルは、オリンピック級の大会では、成績を左右してしまうのだ。


 こうなると各国のパラリンピック委員会は是正を求めるように騒ぎだしたが、障害者の支援団体は『魔力感知』と『魔力探知』のスキルは生命線なので使用を認めて欲しいと突き上げだした。


「という訳で、どうにかならないかと、相談に来た次第です。」


 スポーツ庁の職員は、ほとほと困り果てたようで、担当者を白浜ダンジョンに送り込んできた。


「だったら、パラリンピックに出場する障害者は、全員白浜ダンジョンでスキル覚えさせればいいんですよ。」


「それができたら、苦労しませんよ。

 各国から日本までのチケット代は誰が出すんですか。」


 鈴木元太の解答はシンプルだった。


「本人。」

「お金が無い方は?」

「借金。」

「誰から?」

「俺から。」

「どうやって返すんです?」

「ダンジョンで稼いで。」


 365日朝から晩まで白浜ダンジョンに籠れば、年収1000万円はいくはず。

 ビザ無し渡航の期間だけでも、生活費や帰りのチケット代はもとより、帰りの土産代まで十分に稼げるのだ。


 スポーツ庁は、関係省庁と相談の上、元太の案を採用した。

 しかし、スキルをめぐる混乱は、まだ始まったばかりだ。


 兵役がある韓国では、サンダルダンジョンに派遣されたアスリートがいたのだ。

 ダンジョン内で10km移動すれば『体力強化』のスキルが、10kg以上の装備を持ち上げれば『怪力』スキルが手に入る。

 他にもダンジョンで戦うと、無意識に手に入るスキルは結構ある。

 兵役を終えた後、一切のスポーツ大会に参加できないと知った彼は、兵役を終えた者でも大会に参加できるよう、活動を始めた。


「スキル修得者が、スポーツ大会に出る権利が無いというのはおかしい。

 スキルの有無が、スポーツの成績を左右するなら、スキルを得る努力をするべきなのだ。

 ダンジョンの有無が不公平だと言うなら、スポーツに専念できる環境がある国とできない国がある時点で、不公平ではないか!

 これからは鈴木元太によって、多くのダンジョンが作られるだろう。

 そうなったら、多くの人がスキルを修得し、スポーツ人口がどんどん減る事になるだろう。

 パラリンピックでも視聴覚障害者のスキル使用は認められているのに、健常者にスキル使用が認められないようでは、この先スポーツの国際大会だけでなく、プロスポーツも全て衰退の道を辿るだろう。」


 以後、彼が言ったスポーツにスキルや魔法を認めるか否かは、世界的な議論となった。


 なぜ人はプロのスポーツ選手に憧れるのか。

 それは選手が自分では絶対にできない超人技を実現してくれるから。

 それは人間的の限界に挑み、限界を超えた瞬間を見せてくれるから。


 だから、スキルを使えば自分にもできる事を、スキルを使えないプロスポーツ選手が成し遂げたとしても、それを凄いと思えなくなる。

 議論の過程で人々は気付いてしまった。

 スキルの出現で、自分でもプロスポーツ選手が今まで築いてきた世界記録を塗り替えられる事を。


 社会とは、当然『人間』が活動す事が前提で、人間の能力を元に構築されている。

 ならば、人間の能力が大幅に変われば、社会そのもののあり方も変わってしまうのは必然だ。


 スキルを認めなければ、10年以内にオリンピックを始めとしたスポーツ業界は無くなるかも知れない。

 しかし、スキルを容認すれば、既存のスポーツは成立しなくなるかも知れない。


 鈴木元太が異世界から地球に魔法を持ち込んだ事で、人類は魔法を使えるようになった。

 鈴木元太がダンジョンを持ち込んだため、人類はスキルを修得できるようになった。


 人間の能力の基準が変わろうとしている。

 それはスポーツだけにはとどまらなかったのだ。

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