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鈴木元太の影響(医療と禁術の境界)

 この年日本の医学会は、岐路に立たされていた。


 正確には去年の暮れからだが、始めは初級ポーションの登場だった。

 新生児にも投与できる新型の抗生物質ということで、一時期話題になったが、効能は煎じた薬草程度しかなかった。


 だが、この時すでに、一部の医師や製薬会社からは、懸念の声が上がっていた。

 問題は、これがダンジョン産だという点だった。

 一度初級ポーションを医薬品と認証してしまうと、製法不明のダンジョン産という理由で、認可しないという手が使えなくなる。

 かといって、初級ポーションを医薬外品とすると、白浜ダンジョンのもっと深い階層でエリクサーなんが出たら、薬品の効能を超越する栄養ドリンクなんて物が出回るかも知れない。

 そうなったら、どんな影響が出るか分からない。


 懸念は一部の医師だけだったため、医学界全体では初級ポーションを無視した。


 それから数ヶ月後、一部であがっていた懸念は現実の物となった。

 アルカトラズダンジョンから中級ポーションが見つかったのだ。

 中級ポーションは、初級とは比較にならない高性能な抗生物質で、抗がん剤としても使える画期的な物だった。

 しかも、傷口にかけると、またたく間に止血する信じられない代物だった。


 幸い、宝箱の出現率は低いため、大量に供給できる物ではないが、これが出回ると患者数が大幅に減る事が予想された。


 製薬会社の圧力により、アメリカ政府は中級ポーションを隠蔽した。

 しかし、この対応が災いした。


 情報の拡散を防ぐため、中級ポーションを有害物質と偽ったが、そのせいでアルカトラズダンジョンで続出した怪我人に使えなくなったのだ。

 困ったカリフォルニアの州兵は、新しくできたサンダルダンジョンに挑戦していた韓国軍と結託し、上の判断をすっ飛ばして、鈴木元太に治療用の魔法を公開させることで合意したのだ。

 鈴木元太は要請に従い『手当て』の魔法を公開してしまった。

 公開された魔法は、瞬く間に拡散し、ただでさえ『装甲』の魔法の影響で減った患者がさらに減ってしまったのだ。

 医者が少ない地域では歓迎されたが、都市部では病院の収入が減ってしまい、どうにかできないか?と検討会が開かれた。


 『手当て』の魔法は薬ではないので、薬事法にはひっかからない。

 ならば、医療行為に含めるか?

 しかし、この考え方も無理があった。

 日本の法律には、医師が医療施設で働く「医業」には、以下のような規定があるからだ。




 当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことである。




 つまり、医療知識や技術が無い人がやっても、医者と同じ結果になる『手当て』の魔法は、医業に含まれない可能性が高いのだ。


 しかも間の悪い事に、鈴木元太が『掃除』の魔法を公開してしまった。


 この魔法は、細かいゴミを一ヶ所に固める魔法なのだが、傷口の消毒にも使える事が分かったのだ。

 病原性バクテリアは対象外だったが、それ以外のウイルスや菌、および微生物が排泄した毒素は、全て対象だ。


 鈴木元太は、『掃除』の魔法で、獲物の血抜きを考えていたようだが、動物実験で、傷口からカーブした血管までが効果範囲と分かったとき、意気消沈したそうだ。

 しかし、医学界に走った衝撃はそれどころではなかった。


 『掃除』の魔法があれば、アルコール無しで手術可能だ、アレルギーの心配もない。

 そこに『手当て』の魔法があれば、簡単かつ確実に縫合できる、癒着など縫合による弊害が起こらない。

 今後、外科医の間でもノーリスクの『手当て』の魔法が広まるのは確実だ。


 近い将来、外科医に縫合技術が必要なのは、臓器移植の時だけになるだろう。

 しかし、臓器移植の縫合は、かなり高度な技術を要求される。


 今後は縫合の経験が無い外科医が、ぶっつけ本番で臓器移植をする事になるだろう。

 失敗する未来しか見えない。

 このままでは、臓器移植の道が閉ざされてしまうだろう。


「どうにかならんものか。」


 日本医学界の会長は、だんじょん荘の鈴木元太を訪ね、意見を求めた。


「それは無理ですね。

 臓器移植は合成獣の分野らしく、合成獣はどこの異世界でも禁術だったんです。」


「それは合成獣が危険だったからか?」


「いえ、合成獣は確かに強力でしたが、製造と調教に莫大な予算が必要なので、さほど広がらなかったようです。

 それより、戦争に利用するため奴隷や兵士に魔物の体を移植したところ、亜人が産まれるようになったんです。

 でも、魔物の臓器移植は強力で、他国が始めると自国もやらないと国が滅ぶからと、人間の魔物化が進んじゃって、世界がおかしくなっちゃったんです。」


 これをやった異世界は、いつの間にか国対国だけでなく人間対亜人の争いも起こるようになり、混沌とした社会になっていた。


「異世界では、臓器移植が必要な患者をどうしていたのかね?」


「運命だと思ってあきらめてました。

 後継者がいない貴族では、聖人や魔導師を多数抱え込んで、更に次の世代が産まれるまで、延命治療してました。

 異世界では無理でしたが、魔力が濃い地球なら、『治療』の魔法が有効かも知れません。」


 『治療』の魔法は、少し前に公開して良いか問い合わせがあり、検証のため医師4人が魔法を使えるようになっていた。

 検証の結果、『手当て』の魔法で治らなかった打ち身・捻挫・骨折はもとより、切断された手足の接合に破裂した内臓の修復もできた。


 『治療』の魔法は、総合的に見て、医療産業を潰しかねないほど超優秀な回復手段である。

 魔法の公開については、患者と医療関係者の綱引きが、激化するだろう。

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