公園で記者会見
数日後、俺は横浜の山下公園で記者会見を開いた。
屋外にしたのは、魔法を実演する可能性があったからだ。
「今日はお集まりいただき、ありがとうございます。
こらから記者会見を行いたいと思います。」
集まった記者は4人だけだった。
内1人は、朝日新聞の牧野だ。
みんなハンディーカメラを回している。
俺は牧野に話した内容をもう一度説明した。
牧野を除く記者の皆さんは、よたばなしをしてるなーくらいの感触のようだ。
「ダンジョンについては、税関の方々に封印されてしまいましたので、お見せできません。」
「でも、異世界からダンジョンをつないで帰ってきたならば、新しくダンジョンを作れるんじゃないですか?」
記者から当然の指摘が出た。
でも、それは無理なんだ。
「残念ながら、自分の土地じゃないとダンジョンを作れないんです。
もしくは誰も管理してない場所とかですね。」
「土地が無理なら、バックとかでもできませんか?そのリュックみたいに。」
「残念ですが、リュックみたいにダンジョンを作った場合、DPを・・・」
と言いかけて気がついた。
そうか、この場合ダンジョンを維持する必要が無いから、DPが尽きても問題ないのか。
ちょうど大菩薩嶺につながったダンジョンを閉じたときに回収したダンジョンコアがポケットに入ってる。
「すいません、肝心のバックがありません。」
「ならば、このコンビニ袋を使ってください。」
「コンビニ袋か、やったこと無いな。」
と言いつつ、ダンジョンコアをコンビニ袋に放り込んで、底に空間型ダンジョンを発生させる。
大きさは10cm四方でいいだろう。
「ダンジョン創生」
瞬間、俺のDPがまとまって抜けた。
コンビニ袋の底に鏡のようない四角が生まれる。
ダンジョンが発生したのだ。
「できました。
DP少ないから、10分くらいしか持ちません、気をつけてくださいね。」
コンビニ袋ダンジョンを受け取った記者は、手を入れた瞬間、劇的に表情が変わった。
「これ、マジもんだ!」
他の記者も試してみる。
そして職業柄なのか、なぜか全員同じリアクションを取った。
「そうだ、カメラ入れてみよう。」
「ちょっと待って、念のためDP追加するから。
手から漏れ出た魔力やら精気やらはDPに自動変換されるけど、消費量の方が多そうだからね。」
補給とは言っても、コンビニ袋に触るだけなんだけど。
「もしも、ダンジョンに手を入れてる状態でDPが尽きると、どうなるんですか?」
「中の物をランダムに消費してDPに変換します。
この場合は、手首から先が消費されますよ。」
「怖っ!」
そこそこDPを補給し、いざカメラをダンジョンに入れてみると、そこには何も映ってなかった。
というか、電源が切れていた。
「ダンジョンに入るには、5g相当の質量か圧力が必要だから、電流はダンジョンの入り口で止まるらしいな。
毒ガスとか液体とかも入らなかったし。」
「手も神経に流れる電気パルスで動かしてるんだが?」
「その辺どうなんでしょうね。
厳密に言えば、赤血球とかも1つ5g無いですし。
人体は1つの物体扱いなんじゃないですか?」
「それじゃ服は?ポケットの中のホコリは?」
考えだすといくらでも矛盾が出てきそうだ。
「うーん・・・その辺はファンタジーですね。
ご都合主義万歳!
いちいち細かい事を気にしてたら、魔法だって・・・」
「魔法!やっぱ使えるのか!?」
魔法の一言に反応が凄い。
俺は笏を持ち、腕まくりをして、『点火』の魔法を使った。
途端に2mくらいの火柱が上がる。
「ちゃんと熱い!」
「手の回りも何も無い。
どっかからガスを送ってる訳でも無さそうだ。」
笏を確認してもらったが、魔法陣が彫られているだけで、普通に木だと理解してもらえた。
記者達は盛んに俺の手も調べているが、すぐに種も仕掛けも無い事が分かったようだ。
それから撮影用に、もう一度『点火』を使った。
「今使ったのは、『点火』って言うライターくらいの火を起こす魔法なんです。
でも、この世界は魔力がありえないほど濃いからか、あんな火柱になってしまいます。」
「その魔法は、私にも使えるようになりますか?」
やっぱり来たよ、この質問。
当然、答えは用意してある。
「魔法を使うには、段階が必要です。
ざっくりと
①魔覚を覚える
②魔力の制御を覚える
③魔法を習う
になります。」
「①の魔覚って何ですか?」
「魔力を感じるための感覚ですよ。
これが分からないと、全盲の人に光景を説明するのと同じくらい説明が難しくなります。」
「魔覚を覚えないと魔法は使えないのか。」
となると次の質問は当然。
「鈴木様が異世界に行く前は、魔覚を知らなかったんですよね。
どうやって覚えたんですか?」
相変わらず食い気味で迫ってくる記者達、ちと怖いんだけど。
「魔力を操作できる人に、強引に覚醒させてもらったんです。
異世界の帝国では、産まれたばかりの子供が最初にもらうのは、親からの魔力らしいですよ。」
「それは、自分にやってもらう事はできますか?」
「やり方は知ってるけど、試した事は無いです。
異世界では、一般人が自分の子供を覚醒させてたから、多分できるとは思うけど。」
「ぜひ!」
記者の1人が立候補したので、その場で魔覚を覚醒させる事になった。
右手を記者の頭に乗せ、左手で記者の手をつなぐ。
左手から記者に魔力を流しこ・・・めない!固い!
地球では、人類が発生してから、一度も魔法が使われた事が無い。
どうやら地球人は魔力を遮断するように進化したらしい。
でも、俺だって魔覚を得られたんだから、できなくはないはずだ。
仕方なく指一本から始め、手首→肘→肩→首と順番に魔力を流し込み、と言うか魔力で体?的な何かをほぐし、最後に指から頭まで魔力を流し込んだ。
記者は終始居心地が悪そうな表情だったが、魔力が貫通すると、途端に表情が変わった。
「なんだこれは!」
「それが魔覚だ。」
「なるほど、全盲の人に光景を説明するのと同じくらい説明が難しいってのは、こういう事かっ!」
魔覚は本当に説明しがたい。
文章で伝えるプロのはずの記者をしても、表現は無理だった。
「魔力を感じれたら、魔力の制御を訓練するんだけど、その指南書と魔法を使うための魔導書がリュックに入ってるんだ。
でも、税関で封印されたから、取り出せないんだよね。」
「なぜ取り出せないんですか?」
「異世界から物を持ち込むのは、輸入になるらしいんです。
なので、関税やら消費税やらを払わないといけないんですけど、大量の貴金属のが入ってるので、国内消費税だけで最低1兆円払わないとダメなんですよ。
1兆円ポーンと貸してくれる知り合いがいたら、紹介してくれませんか?」
当然ながら、記者の皆さんにそんな知り合いなんかいるわけがなかった。
大手の銀行でも、簡単には貸せない額だろうと思う。
結局うまい手が見つからず、今日はもうお腹いっぱいという事で、記者会見は終了となった。