鯉渕家の夏休み(サンセットクルーズ)
そろそろ夕方だ。
鯉淵家の皆さんが岸壁に来てるはずだ。
俺は魔改造したダンジョン丸の試験運転を終え、船着き場に舵を切った。
建造時の重さは、わずか50kgだったが、80kgある推進用のダンジョンを2基搭載したので、現在は210kgだ。
これにオリハルコン電池100kgが加わって、現在の総重量は310kgになる。
だが、船の登録に使う『総トン数』は、船の容積から換算するので、ダンジョン丸の総トン数は、なんと19tもある。
総トン数が20tを越えると、小型船舶を越えるので、これ以上の改造はできない。
なので、ダンジョン丸にミスリルの板を固定して、凹凸が無い広々とした甲板を儲けた。
この甲板は、あくまで輸送中のミスリルの板だ。
誰が何と言おうとも、輸送中のミスリルの板だ。
この他にも、船の上部構造物の形をした家も用意してある。
ほぼインチキだけど、カルマは減ってない。
きっと、誰も困らないからだろうな。
岸壁では、既に鯉淵家の皆さんが海鮮バーベキューの準備を整えていた。
ダンジョン丸に食材を積み込みいざサンセットクルーズだ。
全員ライフジャケットを着こんでるので、あまり風情が無いのが残念だ。
臨時検査がまだなので、ダンジョンは使えない。
法律では、改造した後、臨時検査せずに運用を続けると、一年以下の懲役又は50万円以下の罰金となる。
ダンジョンの試験は運用に入るのか?個人的にはグレーゾーンだ・・・分かってる、多分アウトだよね。
見つかったらすなおに罰金払おう。
ダンジョンを使わないので、航行は帆が受ける風頼りだ。
とは言っても、風向きが悪かったら『微風』の魔法を使うので、コントロールそのものは、さほど難しくない。
ただ『微風』の魔法は、秒速25mの強風を起こすので、海面から少し上に吹かさないと物が飛んでしまう。そこだけは気を使った。
ダンジョン丸は、茜色に染まる紀伊半島を南西に進む。
姉貴と子供たちは、海から見る紀伊半島に目が釘付けだ。
一方、達也さんは水平線に沈む夕日を見ながら、早くも2本目のビールに口をつけていた。
地元の神奈川県からは、伊豆半島が邪魔で水平線に沈む夕日は見られない。
多分達也さんも肉眼で見たのは人生初なのだろう、太陽が沈みきるまで、飽きずにただただ夕日を眺めていた。
俺はというと、ダンジョン丸を適当な入江に滑り込ませ、海鮮バーベキューの準備に取りかかった。
中央の船体に魔石燃料が入った七輪を据え付ける。
そこに火のついたマッチを投下すると、魔石燃料は簡単に燃えだした。
異世界じゃ魔法を使わないと火が付かなかったのに、こっちでは本当に普通の火で燃えるんだな。
俺はダンジョン丸から海中に吊るしていた網を引き上げた。
中身はサザエとアワビ、早速サザエのつぼ焼きに挑戦だ。
七輪の上にサザエを転がし、地元漁師から教えてもらった合わせ調味料を蓋の上から垂らす。
しばらくして網の上のサザエがブクブクいってきた。
確かここから10分ほど焼くんだったな。
隣の七輪では、いつの間にか達也さんが、カピバラ君を肴に缶ビールを傾けていた。
ちーたんも旨そうにパクついてる。
そいつ、さっきまでモフモフしてた奴だぞ。
俺も食ってみたが、味は若干青臭さがある豚肉みたいな感じだった。
なるほど、慣れればそこそこう旨いだろう、生姜焼なんか良さそうだ。
「これでカキもあれば良かったんだがな。」
「カキはノロウイルスが怖いから、止めたんだ。
アレは死ぬかと思った。」
実は俺、小3のときに生ガキに当たって、地獄のような腹痛に襲われた事がある。
上からも下からも自分の体積を越えるんじゃないかと思うほど吐くわ下すわで、マジで死を覚悟したもんだ。
「そうだったのか、当たった奴はみんなそう言うな。」
「怖いもの見たさで食べるのは、止めた方がいいよ。」
「魔法とかでどうにかならないのか?
例えば、ウチのカーペットを真っ白にしてくれたあの魔法とか。」
『掃除』の魔法は、ちーたんと初めて会った日に、ちーたんの血を吸ったカーペットを模様ごと真っ白にしたあの日以来使ってないな。
そういえば、ダンジョンもウイルスはゴミの扱いだったから、もしかしたら『掃除』の魔法にとっても、ノロウイルスはゴミ扱いなのかも知れない。
「可能性はありますね。
今度水産試験場かどこかで実験させてもらいましょうか。」
「もしくは病院とか。
そうだ、もしかしたら、傷口の消毒なんかに使えるんじゃないか?」
「それは止めた方がいいかも。」
ダンジョンは細胞核が無い物を、ゴミとしてDPに変換していた。
ダンジョンと魔法は別物だけど、『掃除』の魔法が似たような判断基準たったら、傷口から血管内の血液をキレイさっぱり消滅させるかも・・・
いや、かもじゃなくて、消滅させるな。
現にカーペットに散ったちーたんの血を、カーペットの柄ごとキレイにしちまったんだ。
使い方を誤ると危険すぎるな『掃除』の魔法、てゆーか、地球の魔力が強すぎて魔法がいちいちオーバースペックだ。
「あーっ、なんか話してたら、カキ食いたくなってきた。
ちょっと取ってくる。」
「達也さん、漁業権無いから密漁になるよ。」
「バレやしないよ。」
カルマ減りそうだな。
いや、酔っぱらってるから大丈夫か?
俺の心配をよそに、達也さんはナイフ一本と、どさくさに紛れて俺が護衛艦あかつきから借りパクした水中ライトを持って、夕凪の海にダイブした。
「心配しなくても、あの人素潜りは得意なのよ。」
「いや、別にドザエモンになるとか心配してないから。」
この辺は入江なので、潮が複雑ではあるが流れは遅い。
慌てなければ問題無いだろう。
4人で夕日を眺めながらサザエのつぼ焼きを頬張り・・・雄大君は貝に残ったスープをちびりちびりとなめてたが・・・アワビを焼きながら待った。
達也さんが密漁から戻ったのは、ちょうどアワビに火が通ったときだった。
手には結構でかいカキ、あんなもんこの辺にいたのか。
「結構でかいですね。」
「ああ、驚いたぜ。
岩礁が丸ごとカキまみれだった。」
そんなバカなと『探知』の魔法で海底を探ってみると、達也さんの言う通り、岩礁が丸ごとカキまみれだった。
生活排水が流れ込むからだろうか、カキは若干臭かったが、『掃除』の魔法をかけたら、臭いはきれいさっぱり消えた。
「やはり『掃除』の魔法は、殺菌効果があるらしいな、ネット小説でたまにそうゆうのあるから、出来るんじゃないかと思ったんだ。」
と言って、カキにレモン汁をたらし、頬張る。
「んー!」
甲板をバンバン叩いて、旨そうに悶える達也さんを見てると、俺も食いたくなってきた。
でも、密漁はカルマ減りそうだからなー。
異世界のガンダーラ国でしこたま稼いで来たから、ちょっとくらい減っても大丈夫なはずだけど、なんか勿体ない。
「くはぁ!うんめぇ!
よーし、もっと捕ってくるぞーっ」
それから達也さんは、牡蠣を10個ほどひっぺがし、鯉渕家の皆さんで腹いっぱい生牡蠣を堪能した。
鯉渕家の皆さんは生牡蠣がすっかり癖になって、横浜に帰るまで毎晩食べまくった。
なお、ノロウイルスにかかった人は一人もいなかった。
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