鯉渕家の夏休み(白浜ダンジョン)
「あらお父さん、スキルは身についたの?」
俺が『魔力感知』と『魔力探知』のスキルを修得して、母さん達合流したのは、白浜ダンジョン1階層の拘置所前だった。
元太君によると、千代と雄大は羊やカピバラと触れ合って、そこそこエンジョイしたそうだ。
「お父さん、夕食までダンジョンに潜るの?」
「うん、後2時間しかないけど、モンスターハウスなら、結構稼げそうだ。」
ネット調べでは、モンスターハウスは大量のスライムが沸くので、簡単に『身体強化』がレベル4まで上がるらしい。
「大丈夫なの?
モンスターハウスは、あまりの人気でいつも行列ができてるって、さっき元太から聞いたけど。」
「マジか・・・元太君、オススメはあるかな。」
「そうですね、出現する魔物と修得しやすいスキルは、こんな感じです。」
◯1階層
魔物:スライム・ゴーレム(入口にいた奴)
スキル:身体強化
◯2階層
魔物:ゴブリン・コボルト
スキル:回避強化・耐久強化・精度強化
◯3階層
魔物:ジャイアントトード・ヘビークラブ
スキル:投網・釣り・水泳・肺活量強化
◯4階層
魔物:ファットスライム・スケルトン
スキル:各種攻撃系スキル(レベル2まで)
◯5階層
魔物:鬼火・フランケン
スキル:霊話・鎮魂・鉄拳耐性
◯6階層
魔物:ミミック・ロッククラブ・ワスプ
スキル:罠感知・罠解除・集中・低温耐性・ストレス耐性
◯7階層
魔物:マイコニド・マタンゴ・ファンガス
スキル:毒耐性・混乱耐性
「達也さんが大怪我する可能性があるのは、ヘビークラブ・フランケン・ロッククラブ、それと混乱状態だとマイコニドだね。
どのスキルが欲しいかで、お勧めの階層は違うよ。」
「7階層あったんだ。
ネットには無かったぞ。」
「韓国軍からの要請で、昨日作った。
最近、拘置所やら軍やらが増えて、空間型ダンジョンの住人が6000人を越えたから、DPがジャブジャブ手に入ってダンジョン拡張し放題なんだ。」
俺が働く環境だと、『身体強化』が欲しい。
後は夏の暑さに耐えるために『高温耐性』と、冬の寒さに耐えるために『低温耐性』も欲しい、後は・・・
「なあ、『筋力強化』とか無いのか?」
「それはダンジョンのどこかで筋トレすれば身に付くよ。
さっきの運動場で、トラックの真ん中で筋トレしてる軍人さんがいたでしょ?
ちなみに、『持久力強化』のスキルはダンジョンのどこかで走り回っていれば手に入る。」
他にも、走り高跳びの10cmクリアで『跳躍補正』のレベル1、不恰好でも大抵の人は1mをクリアするから、レベル2が手に入る。
10kgの物を持ち上げると『怪力』のレベル1が手に入るそうだ。
ネットの情報に無かったな・・・
俺は100kg持ち上げられるので、早速『怪力』のレベル2を手に入れた。
効果は物を持ち上げるとき、5%の補正がかかるという微妙な物だが、無いよりはあった方が良いに決まってる。
レベル3になると20%の補正がかかるそうだが、それには1tの物を持ち上げないとダメだそうだ。
「そんなの不可能だろ。」
「帝国にはいたよ。
『身体強化』『筋力強化』『怪力』スキルに『筋力強化』の魔法かけたんだと思うけど、あ、それに加えて天職の権能と補正があったか。」
「やっぱ無理じゃん。」
天職は、今のところ異世界に召喚されないと身に付かないらしい。
「どうにかならないか?」
「うーん・・・アルカトラズダンジョンみたいな通常のダンジョンなら、『筋力強化』の魔法の効果が高いから、1t行けそうな気もするけど、空間型ダンジョンは魔法の効果弱いからなぁ。」
日本なら、北海道の雲のダンジョンか。
横浜からじゃ遠いな。
「何とかならんのか?バフとかドーピングとか。」
「バフって魔法の事だよ。
あと、ドーピングと言うと・・・アレか、ストレングスポーション。
でも大丈夫かな。」
「何か問題があるのか?」
「うーん・・・」
それから元太君は長々と説明した。
要はストレングスポーションは本来ダンジョンが存在しない異世界の産物で、ダンジョンの宝箱からドロップするか分からないから躊躇してるらしい。
「ストレングスポーションはサンプルの1本しか無いんだ。
失敗したらもう手に入らないかも。」
「だったら日本でしか手に入らない物が、ダンジョンから出るか試してみたらどうだ?」
「なるほど。
地球じゃないと手に入らない物といえば、プラスチックか。
お茶のペットボトルがあるから、それで試してみようか。」
言うが早いか、元太君は白浜ダンジョンの入口まで戻ると、片方のゴーレムにその場をどくように命令した。
そして、ゴーレムが立っていた床に手をつき、開いた。
そこ開くんだ。
「少し時間がかかるかも知れないから、こいつで狩っててください。」
俺達に木刀を3本渡すと、空いた穴に元太君が入っていった。
言われた通り1階層でスライムを狩る事にした。
「お父さん、1階層はどのくらいの広さなの?」
「元太君に聞いたが、どうやら俺達が住んでる横浜市の中区より広いらしい。」
ダンジョン1階層は親切設計で、出口の方向が分かるように、分岐点の床には必ず矢印がある。
壁の色も、出口に近いほど白く、奥に行くほど黒いので、脱出までのおおよその距離が分かる。
そんな道の途中に、たまにプヨプヨと揺れるスライムが通るので、千代に撃退させる。
途中、探索者の行列を発見した。
どうやら、この先がモンスターハウスらしい。
待ち時間はおよそ6時間と床には書いてあった。
そんなに並んでヒマじゃないのかと、並んでる人に聞いてみたら、彼らはほぼ場所取りのバイトだった。
時給は平均1万円、めっちゃくちゃ高いが、全ての身体能力が20%向上する『身体強化』レベル3のスキルは、金では買えない。
もしも、このスキルを1億円で売る事ができれば、飛ぶように売れるだろう。
まあ、家族旅行中の俺には縁の無い話だ。
千代が『身体強化』のスキルを修得した辺りで、どこからともなくアナウンスがきこえてきた。
『ただいまダンジョンのテスト中です。
白浜ダンジョン2階層の宝箱から、お~いお茶が出るように調整してみました。
ドロップした方は魔石買取所に報告だけお願いします。
なお、お茶はお飲み頂いて結構です。』
ペットボトルだけでいいのに、中身までドロップしたら、完全にコピー商品だ。
「元太君、勝手にドロップさせたら、製造元から怒られるぞ。」
あなぐらから出てきた元太君に注意すると、彼は左手で顔を叩いて、声を絞り出した。
「あー、そうかー。
どうしよう、もう登録しちゃったし。」
「検証終わったら解除できないのか?」
普通に考えれば、登録を解除すればいいんだと思うが、この反応からすると厳しいんだろう。
「他にも類似品があるなら、できなくはないんだけど、ペットボトルは無いから難しいね。」
元太君は後で伊藤園と相談すると言っていた。
許してくれるといけどな。
なお、2階層の宝箱からは、ちゃんとお茶が入ったペットボトルが複数ドロップしたらしいので、後日6階層からストレングスポーション(微)をドロップするようにしたそうだ。
ちなみにストレングスポーションの効果は筋力+1%、6階層より浅い階層には、仕込めなかったそうだ。
どうやら、階層の難易度が高いほど、宝箱に高価なアイテムを仕込めるらしい。
「さて、千代もいくつかスキル身につけたけど、ダンジョン探索する?」
「砂浜で遊びたい!」
「この辺は磯ばかりで砂浜は遠いよ。」
「えーっ、行きたーい」
千代はだだをこねたが、そんな事をしても砂浜が湧く訳が無かった。
「おっちゃーん、砂浜作ってーっ!ダンジョン!」
「えっ?ダンジョンに砂浜作るの?
そんなギミックあったかな・・・」
前言撤回、だだをこねる千代に負けて、元太が3階層に砂浜を作った。
だだをこねたら、砂浜湧いちゃったよ。
正確には砂じゃなく、極小のゴーレムの集まりなんだそうだけど。
その後、俺は砂浜で遊ぶ家族を守るため、ジャイアントトードやヘビークラブを、1時間くらい狩り続ける事になるのだった。
『木刀補正』『トードキラー』『クラブキラー』のスキルと、5千円相当の魔石を手に入れた。
時給5千円か、結構割がいい仕事だな。
仕事辞めてこっちに引っ越そうかな。
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