ダンジョンで動く乗り物
世間では、そろそろお盆休みまでのカウントダウンが始まった。
お盆休みには、鯉淵家が遊びに来るので、その前に大阪まで俺の乗り物を受け取りに行った。
指定されさ漁港に向かうと、そこには10人近い人達がいた。
町工場から担いで持ってきてもらったのだ。
その乗り物というのが海に浮かぶ全長23mの銀ピカの三胴船『ダンジョン丸』だ。
中央の船体にはマストが一本、それと船内にオールが1つ、これが今のところ船の動力源の全てだ。
俺は検査に来たJCIの検査員とともに、船体を確認する。
そもそもミスリルは水に浮かぶほど軽いから、極端な話船底が無くても沈没しない。
材料をけちって船体をミスリル箔にしたから、ちょっとくらい穴が開いてるだろうと思ったが、『魔力探知』のスキルで検査した結果、左右のアウトリガー船体は点検用のハッチ以外完璧に魔力を遮断してる事を確認できた。
真ん中の船体は船倉があるので、確認に時間はかかったが、完璧な仕上がりだ。
「うん、ほぼ依頼通りだ、問題ないよ。」
「さよか。
注文通りこしらえたが、船外機はどないすんや?
ほんでも帆走だけぇか?」
「いえ、タンク満水戦法を使われても大丈夫なようにダンジョンを取り付けます。
この船は世界で唯一のダンジョン推進船になります。」
「ダンジョン推進!?なんやそれ!」
俺は東富士演習場でタンク満水戦法を編み出した後、機関内部が全て水没しても動くエンジンができないかと考えていた。
きっかけをくれたのは、サンフランシスコ国際空港で宴会してたときに、酔っ払ったボブが言った「初めから水を燃料にして動かしゃいいじゃないか」という謎の理論だった。
水素エンジンならともかく、水が燃料のエンジンなんて聞いた事が無い。
そもそも水は『燃』ではない。
その後、近所に新しくオープンした居酒屋で、ダンジョン課の鈴木連と飲んでたとき、サンフランシスコ国際空港での一夜を話をしたところ、ダンジョンで海水を吸ってDPにすれば、DPを燃料にできるとか、これまた謎の理論を展開しだした。
DPは燃料じゃないぞ。
かく言う俺もDPが何なのか感覚的にしか分かってないんだけど、あれはダンジョンを維持したり拡張したりギミックを動かしたりする・・・なんかそうゆうシロモノで、少なくとも物体ではない。
でもDPでギミックが動くならと、酔った勢いでなんとなく爆誕したのが、推進型ダンジョンだった。
爆誕した後で発覚した仕組みは・・・
まず、船体下部にウォーターインテイクを設け、そこから吸入された海水に含まれる魔力や不純物をダンジョンが吸収してDPに変換する。
生物そのものはDPに変換できないので、夜光虫などの微生物は、余った海水とともに多孔質のダンジョンに進入する。
すると微生物共は、そこいら中に仕掛けられた爆発の罠を発動させ、ダンジョン後部から、海流を吹き出し推進するという仕組みだった。
これならダンジョン内を満水にされても、速度がおかしくなる以外は影響が無い。
魚のような大きな生物は、ダンジョンに入りきらなかった海水とともにカゴに放り込まれるダンジョン漁?の機能付きだ。
ここでふと、ダンジョンにとって、微生物はどこまでが生物でどこからがゴミ扱いなのかが気になってしまった。
で、調べた結果、微生物のうちウイルスは、ダンジョン的には生物ではなくゴミの扱いだが、プランクトンは生物扱いらしいという事が分かった。
実験のとき、ゾウリムシは吸収されなかったので、細胞核があるか無いかとかで決まってるんだろう・・・と思う、ダンジョンはご都合主義的な所があるから、もしかしたら違うかも知れないけど。
「そのダンジョンは、わてらでも使えるのか?」
「すいません、ダンジョンマスターじゃないと無理です。
放っておくと、DP過剰でダンジョンか成長しますから、適度にDPを抜かないとダメなんですよ。
速度を変えるのに、ダンジョン内の罠の稼働率を調節しますので。」
基本全てのダンジョンは、大気中や海中の魔力を吸収してDPに変換し成長する。
ウエハースダンジョンも例外ではないが、空間型ダンジョン内で販売してるので、吸収と維持のバランスが極端に崩れないだけだ。だんじょん荘から出すと成長するけど。
「では、これが代金です。」
俺は1億円が入ったリュックを手渡すと、町工場の社長さんはその場で確認し、毎度おおきにと一言残して去って行った。
俺はというと、ダンジョン丸を大阪から白浜まで帆走させた。
数日後、検査も合格し、近所の船着き場で早速ダンジョン丸の改造に取りかかった。
搭載したダンジョンは岩製で、ぱっと見では墓石のようにも見える。重さは1つ80kgだ。
それを3つある船体の間に取り付けるのだが、その前に余剰DPを溜めるためのオリハルコン電池を取り付ける。
DP・電気・魔力を同時に溜められるオリハルコンは、なにしろしろ貴重だ。
盗まれないように、ダンジョンを先に取り外さないと、オリハルコン電池を取り外せないような構造にした。
ダンジョンの取り付けは、かなり力がいるので、本来1人じゃ無理なんだけど、俺も異世界で7年間過ごした上に、税金を払うときに延々と金塊を空間型ダンジョンから運び出して、そこそこスキルのレベルが上がってる。
ちなみに今回使えそうなスキルは以下のとおり。
『身体強化』レベル4
全ての身体能力が60%向上
『怪力』レベル3
物を持ち運ぶときだけ20%補正
『筋力強化』レベル4
筋力が60%向上
『重量軽減』レベル3
重さを20%カット
それでも100kgあるオリハルコン電池や、推進ダンジョンを扱うにはしんどいので、『筋力強化』の魔法も使った。
作業する事2時間、ようやく取り付けが終わった頃、鯉淵家の皆さんが到着したと連絡があった。
達也さんとちーたんがこっちに向かってるそうだ。
「おっちゃーん!」
ちーたんが到着するなり、ダッシュで飛び付いてきた。
少し大きくなったようだ、ちーたんアタックの威力がスライムを遥かに凌駕してる。
前に会ったときは、若干よちよち歩きが残ってたが、この数ヶ月で子供特有の素早さを身につけたらしい。
「やあ、ちょっと見ないうちに大きくなったね。」
「おっちゃん何してんのー」
3才になって、言葉遣いもしっかりしてきたようだ、子供は成長が早いな。
「おっちゃんは船を作ってたんだ。」
「ふねー?乗りたーい」
「まだ安全が確認されてないから、もうちょっと待ってね。」
「いつ乗れるのー?あしたー?」
「夕方までかからないはずだよ。
今晩のご飯は、この船の上で海鮮バーベキューにしようと思ってるんだ。」
「バーベキュー!サラマンダー肉!」
「いやいや、あれはバーベキュー無理だから、煮ないと焼けないから。」
「えーっ。」
まさか、ちーたんの目当てはサラマンダーステーキなのか?
あれは季節的に完全にアウトだぞ。
まずは達也さんとちーたんをだんじょん荘まで連れて行き、ホールで井戸端会議中の姉貴を連れて、だんじょん荘の空き部屋に通した。
「早速ダンジョン探索してもいいけど、その前に一応カルマ確認させてね。
白浜ダンジョンの入口は『カルマ判定』の罠をしかけたから、もしかしたら通れないかも知れないから。」
鯉淵家の人達のカルマは、雄大君がー15で、ちーたんがー50、子供達はずいぶんと両親を困らせてるらしいな。
達也さんは50くらいで姉貴が1000を越えた程度、専業主婦は家事による無償の奉仕でカルマが高くなる傾向がある。
なにはともあれ、全員問題無かった。
ちなみに、だんじょん荘でカルマが低い奴らは、カルマ判定の罠ををごまかす特別な腕輪を、毎回100円でレンタルしてダンジョンに入っている。
金額は大した事がないが、この腕輪は毎回レンタルするのが面倒で、外聞も悪い事から、利用者はカルマを上げるべく善行を心がけるようになった。
おかげで、だんじょん荘は平和そものものだ。
それから、俺はダンジョン丸の試験のため海へ、鯉淵家の皆さんは白浜ダンジョンに向かった。
明日は家族でアドベンチャーワールドに行くそうだ。
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