水没したのはどこだ?
山本議員の自宅を訪れるのは、2週間ぶりである。
冤罪逆転事件とか、あかつき沈没事件とか、韓国機水没未遂事件とか色々あったけど、あれからまだ2週間しか経っていないのだ。
だが、山本議員は以前会ったときと比べて、老けた気がする。
「ん?ちょっと老けました?」
「おかげさんでな。
小山なんか横浜に住んでるのに、防衛省から帰れない日々らしいぞ。」
軍事系はやらかしたからなぁ。
タンク満水戦法による防衛計画の見直し・・・なんて生易しいものではなく、防衛とは何か?というもっと根元的な所で議論が行われてるそうだ。
「陸自に騎馬隊、海自にイカダ艦隊、空自にグライダー航空隊、去年までならこんなバカっぽい編成ネタにもならんかったが、今じゃ大の大人が大真面目で検討しとる。」
「小山議員老けてそうですね。
山本議員は何に若さを吸いとられたので?」
「お前、ちったぁニュース見ろ。」
「すいません、だんじょん荘は通信環境が壊滅的に悪いんです。」
「だったら、新聞くらい取れ。」
山本議員によると、例の『カルマ判定』の魔法で、カルマがー5万を下回る悪徳警官や裁判官が何人も見つかったそうだ。
カルマ5万を越える徳が高い警察官もいるにはいたが、悪徳警官の方が多かったらしい、しかも役職の高さと反比例して。
ー5万て、この間の冤罪事件の真犯人よりも酷いじゃないか、アレは2人殺した上に罪を他人になすり付けたのにー5万下回らなかったんだぞ。
調べてみたら、ワイロをもらって判決を覆した事があったり、自分で飲酒運転してひき逃げしといて部下に揉み消させたりと、山本議員もドン引きの不祥事が相次いで発覚したそうだ。
「さすがのワシも大臣辞職を覚悟した。」
「そういう山本議員のカルマは・・・ー1332?うわっ、結構高い。」
「何?マイナスで四桁だったから落ち込んでたが、これ高いのか?」
山本議員は心底意外そうだった。
まあ、カルマがマイナスなら、善悪で言えば悪人、マイナスも四桁ならばとんでもない悪行に見えるのも仕方ない。
「大臣クラスになると、色々決断して色々な人に影響を及ぼすから、カルマに敏感な異世界のガンダーラ王国でもカルマがプラスの大臣はいませんでした。
ちなみに、俺が全異世界を通して見た中で、最悪の権力者はー218万でした。
山本議員は大臣としては高い方ですよ。
人は見かけによらないもんですね。」
「一言余計じゃ。」
と怒られたが、口元が歪んでる。
どうやら照れ隠しらしい。
「こっちは不祥事が噴出しまくりだから、連日テレビで報道されまくりじゃ。」
「そりゃ、SAN値削られますね。」
と、そこで俺は思い付いてしまった。
あー、これやったら俺のカルマ下がるかもな・・・いや、そうでもないか?
「山本議員、こうなったら『カルマ判定』の魔法を公開しちゃいましょうか。
多分報道する側も、ブラックホールより真っ黒な人がいますよ、きっと。
そんでもって、『どの組織でも悪い奴はいるから、国民みんなで善行を積むように頑張りましょう』って方向に持っていければ、スマートに事態を収拾できるんじゃないですか?」
「そんなうまくいくかね。」
「いかなかったらその時です。
それに辞任は覚悟してるって言ってましたよね。
今よりも山本議員の立場が悪くならないでしょうから、やってみたらどうですか?」
俺の助言で、山本議員の覚悟は決まったようだ。
政治家らしい悪い笑みになった。
この悪代官め。
「うむ、死なばもろともじゃ!まあ実際には、死人は出ないじゃろうがな。
正直、事実を捏造する記者もいて、困ってたんじゃ。
もちろんごく少数じゃがな。」
大多数の記者は大臣の失言にとびつく。
これはまあ、自分にも原因があるので、百歩譲ってOKとしても、中には拡大解釈したり、捏造したり、本人が言ったかのごとく誤解を招く記事を書いたりする記者がいるらしいのだ。
「あまり酷い記者はカルマが減るのか?」
「当然減りますよ。
その記者の記事が元で戦争にでもなったら、来世でもその次でも、ずーっと補食される生物確定ですよ。
地獄で罪を精算してくるなら、何万年も拷問を受ける事になるかも知れません。
本当に地獄があるかは知りませんが。」
なるほど、そういう奴はカルマがマイナス百万とかになったりするから、山本議員は牽制に使う魂胆か。
よほどのバカでない限り、新たな社会的カーストが生まれるのは想像に難くないからね。
ただ、『カルマ判定』の魔法を公開すると、またしても大混乱するだろうな。
まあ、俺はダンジョンに籠るからいいけど。
「中国とかワイロ横行してそうですから、結構カルマ低い人が多そうですね。
そうだ、こないだの韓国機水没未遂事件て、どうなりました?」
「アレか、いくらお前でも、韓国政府が中国政府に抗議したのは知ってるよな。」
「はい、おとといニュースやってたって言ってましたね。」
加藤によると、韓国がチャーター機にタンク満水戦法をやられそうになったので、術者をつきとめ中国に報復攻撃を行うとともに、大使を呼び出して抗議したと言っていた。
「それなんだがよ、本当に中国からの攻撃だったのか、正確な所を知りたいんだ。」
ん?何か問題があったか?
ここで嘘つくと、後でひどい目にあう気がする。
俺はなるべく正直に、そして正確に物事を伝えようと決めた。
「山本議員は『探知』の魔法を使った事がありますか?」
「ああ、あるぞ。」
「あれは障害物や距離に関係なく、現地の状況を知る魔法ですが、視覚で見てるんじゃなくて、魔覚で感じてるのは分かりますよね。」
「言わんとする所は分かるな。」
「場所も、どっちなのかは分かっても距離が分かりません。
ただ、水平線より少し下でしたから、ユーラシア大陸の東部、あの辺は全て中国領ですから、中国からの攻撃なのは間違いないです。」
「てことは、正確には中国領からのナニモノカによる攻撃だったと。」
「はい、そうなります。」
山本議員は深くため息をついた。
気のせいか、彼の周辺にヤっちまったフィールドが形成されてるようにも見える。
「これ、他言無用な。
先頃中国政府から、在サウジアラビア大使館が『水瓶』の魔法で浸水したと発表があった。」
「あー。サウジアラビアか・・・」
確かに、中国共産党にはエネルギー産業を押さえてる大幹部がいるが、中国は基本エネルギーの輸入国だ。
仮に中国国内にダンジョンの1つや2つ増えたくらいで、そこまで影響は受けない、むしろ魔金属の供給元ができたと喜ぶかも知れない。
直接的にダメージを受けるのは産油国だ。
「この件でサウジアラビアは何と?」
「沈黙を保っておる。」
まさかバレると思わなかったんだろうな。
韓国も面と向かって中国と事を構えたくはないだろうが抗議くらいしないとメンツが保てない。
中国も関係ない事に巻き込まれるのはゴメンだから沈黙を保っている。
サウジアラビアも表には出たくないから、黙って嵐が過ぎるのを待つのが一番という訳だ。
ただ産油国にとっては、俺は脅威のはずだから、総出で直接暗殺しに来そうだ。
俺は狙撃や刺突では死なないから、毒殺を警戒した方がいいだろう。
毒対策というと・・・ダンジョンマスターの権能による浄化作用が一番楽だから、しばらくはダンジョン内での食事が続きそうだ。
なお、地元医師会への問い合わせは、事務手続きだけで終わり、後日連絡が来る事になった。
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