金を売った金で税金を払うのか?
四条の容疑は晴れ、自身も怪我をした母親が犯人という仰天の展開に、情報系の番組が沸き立った。
山本大臣はあくまで一個人の考えとして、冤罪を認めた。
四条を早く釈放すべく、裁判を最優先で行う事を指示したそうだ。
本来なら冤罪は、大臣辞任にまで発展する大問題だが、世間の反応は潔いと好評価で、むしろ続投を求める声が大きかった。
俺はと言うと、南紀白浜空港から羽田空港に飛び、横浜税関へと向かった。
今回はかなりの量になる事が予想されたので、ボブも連れてきた。
「では、120kg相当の貴金属の輸入申請はこれでいいですね。」
俺は書き慣れた輸入申請書を提出した。
審査が通るまでには、少し時間がかかる。
なので、久々にこちらの知人の所を回ろうとしたところ、税関長に呼び止められた。
「話は聞いている。
しかし、本当にやる気かね?」
「ええ、リュックが自由に使えないと、結構不便なんですよ。
なので、手持ちの貴金属を大量に売って、国内消費税を全額支払う予定です。
金・銀・プラチナをそれぞれ100tくらいですかね。」
それで1兆円ちょいになる計算だ。
まあ、大量に売るから各相場が軒並み落ちるだろうけど、俺にとっては金の価値が半分になっても、たいして痛くない。
「君は経済を破壊する気か?」
「俺はリュックの底にある空間型ダンジョンを自由に使いたいだけですよ。
でも、このままじゃ密輸になるからって、国のルールに従ってるんです。
それで経済がおかしくならないように、俺は国会で金を物納できる法律が通る猶予を持たせたんです。
それでも通さないって事は、さほど重要な事ではないんでしょ?」
正直、俺は経済がおかしくなっても、どうでもいと思ってる。
ダンジョンでは食料生産が可能になったし、魔石はバンバン採れるから、エネルギーもある。
服も羊を飼ってるから、羊毛で作れる。
「いやいや、重要だから。
いきなり金の価格が暴落したら、世界中の投資家が大打撃だから。」
「でも、それが資本主義なのでは?」
供給過剰になれば、物の値段が落ちる、ただそれだけだ。
大打撃を受ける資本家は投資先を誤っただけだろう。
投資先を誤って破滅するのもまた資本主義、何もおかしい所は無い。
「銀行が潰れでもしたらどうする!」
「どうするって、初めからそんな所に預けなければいいのでは?
そもそもこの世界の価値観は通貨中心すぎですよ。
いっそ通貨無しの経済にすればいいんじゃないですか?」
「そんな経済あるか!」
あるんだそれが。
異世界のガンダーラっていう国は、本当に通貨無しで経済を回してた。
むしろ、この世界が極端に通貨に頼りきって異常に見える。
「ありますよ。
もちろん資本主義経済じゃないですけど。」
「共産主義か?」
「近い物はありますが、努力して結果を残せば、ちゃんと報われます。
資本主義も欠陥が多いですから、いっそそっちに乗り換えますか?」
「その経済に興味はあるが、私が決める事ではない。
今は資本主義経済で成り立ってるのだ、極端に金相場をおかしくしないで欲しい。」
税関長は必死だ。
これは上から命令されてるな。
「俺は別に制度や法律に逆らってる訳じゃないんだけどな・・・」
仕方ない、強行したらカルマを悪くしそうな気もするから、限りなく黒に近いグレーな方法を提案しよう。
国会で改正法案が通らなかった。
そして鈴木元太がついに横浜税関に姿を現した。
奴は今や世界が注目する人物の1人だ。
SNSで情報がかけめぐると、世界の貴金属相場は下落を始め、その日はわずか1時間でストップ安になった。
翌日も相場はストップ安となり、1g12000円の金相場が、たった4日で1g6000円まで落ちたのだ。
外国人記者クラブでは、日本政府の対応を巡って、記者から質問が飛んだ。
「ゲンタ・スズキが再三に渡って法律を改正するように言ってましたが、政府は対策を取りませんでした。
彼は税金を納めるべく、金を大量に売却するでしょう。
金が大暴落する事は予想されますが、いかがお考えでしょうか?」
外国人記者が政府の報道官に質問をぶつける。
「特に何もしません。
そもそも、鈴木元太は必要な税金は全て払いました。
金の下落と日本政府は一切関係がありません。」
記者達がどよめく。
「彼の支払う税金は日本円で1兆円だったはず、それをすでに払った訳ですか?」
「はい、彼は手持ちの金の半分に相当する500tほど政府に支払いました。
多い分は寄付だと言って。」
さらに記者がどよめいた。
それができないから、法改正するのではなかったのかと。
「記者の皆さんは、根本的に勘違いをしています。鈴木元太氏もでしたが。
そもそも税金とは、英語に直訳するとtax moneyとなります。
しかし金はgoldの意味もあるのです。
よって、税金とはtax goldでもあり、金を物納しても問題無い訳です。
皆がやらない理由は、金の相場が日に日に変わるため、重量計算が面倒だからなのです。
基本的にすべての税金は、不足さえ無ければ、金で支払う事が可能です。」
そんな訳あるかと誰かが言った。
詭弁なのは会見にのぞんだ本人が百も承知だ。
税関職員だって誰一人として知らない。
だが、このように解釈して、これからも法解釈を守るなら、ある種の方針転換と言えなくもない・・・かなり苦しいけど。
それに、税金を金で多めに払うようなバカは普通いない、元太は普通ではないのだ。
おそらくこんな奴はもう現れないなろう。
こうして鈴木元太の提案は結実し、本人は国内某所で、リュックから延々と金を取り出す羽目になった。
金を売った金で税金は払えませんでした。
しかし金で税金は払えました。
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