ダンジョン農法
計算ではDPがカツカツだ。
だんじょん荘は引き続き入居者を募集するとして、拘置支所の征矢所長にもっと拘置者を増やせないか聞いてみたところ
「それより、食料生産できないスか?」
と言われてしまった。
拘置支所としては食事を確保できないと、あまり拘置者を増やせないようだ。
「無理だ、土はダンジョンに吸収され農業は・・・」
と言いかけて気がついた。
「畜産ならいけるかも。」
畜産なら家畜からDPを徴収できる。
丁度リンダ達のアニマルセラピーのために動物を飼育する予定だ。
「拘置所で畜産?そんなの聞いたこと・・・いや、網走で和牛の畜産やってるな、制度的にはできるっスね。」
「囚人達にやらせるとしたら、ダンジョン1階層にしましょう。
今思い付いたんですが、例の飛行機事故の生存者にアニマルセラピーを施すついでで、羊の畜産でどうですか?」
羊はモコモコなのが災いして、暑さに弱い。
だが、ダンジョンは常に20度に保たれている。
温度は問題ない。
常に明るいのが問題といえば問題なのだが、こちらは『暗闇』の罠を使えば、昼夜の切り替えは容易だ
「囚人にもアニマルセラピーは効果があるらしい、やってみるか。
しかし、そうなると牧草どうするかって話にならないスか?」
「うっ・・・」
ビタミン類はウエハースダンジョンでいい。
水は『水瓶』の魔法を使えばいい。
だが、主食の牧草はどうしたものか・・・結局農業をやらないとダメのようだ。
「土が吸収されてダメなら、水耕栽培はどうスか?」
「水耕栽培ですか。」
「3階層が湖エリアってことは、水は吸収されないんスよね?」
「正確には、吸収されつつ湧く感じです。」
すでに閉鎖したかが、阿修羅の湯も同じ原理だった。
ただ、水質は水牢の罠と比べると良くない。
果たして、あれで植物が育つのだろうか。
スライムを入れとけば多少は良くなるはずだが、苗を薙ぎ倒すだろうな。
「ダンジョン・・・水・・・ダンジョン・・・」
「水ダンジョン?何スかそれは。」
俺の独り言に征矢所長が反応した。
でも水ダンジョンか。
雲でダンジョン作れたんだから、水でもダンジョンできなくはないか?。
そもそも根っこってダンジョンの通路みたいに水が通って・・・ん?根っこがダンジョンぽい?
「接ぎ木すれば・・・でも一本一本ダンジョンを作るのは厳しいし・・・」
「何か?」
征矢所長が怪訝な表情をしている。
そこで俺は考えを整理するためにも、イマイチまとまってない状態であれこれ話してみた。
「なるほど、水で作ったダンジョンに接ぎ木すると。
確かに、水を吸い上げられれば根っこは必要無いスね。」
「でも、そうすると養分が・・・クリーチャー化させればいいのか、ウエハースダンジョンみたいに。
そうか、あんまり良くない水質の成分を攻撃する極小サイズのクリーチャーを・・・」
なんかできそうな気がしてきた。
「問題は苗を一本一本植えないといけないから、手間がかかりすぎる事ですね。」
「いや、そうでもないっス。
試しに水ダンジョンを作るっス。」
俺は所長と一緒にダンジョン3階層に行き、池の一部をダンジョン化させた。
初めての試みなので、雲のダンジョンを作ったときの感覚でやってみた。
うろ覚えだったが、なんかできたっぽい。
「スライムみたいだ。」
征矢所長は水ダンジョンを指で突いた。
よし、安全そうで何よりだ。
何しろうろ覚えの雲のダンジョンを参考に作った謎のダンジョンだ、作った俺にも訳が分からない。
コアに干渉しても感覚がフニャフニャだわ、クリーチャーがフニャフニャだわ、ダンジョン自体もフニャフニャだわ、ホント何なのコレ。
所長はそんな水ダンジョンに持ってきた物を投げ入れた。
それは根っこを切った小麦の苗だ。
ただし、切った所に泥がついている。
しばらくすると、水ダンジョンがDPにするべく、泥を吸収しだした。
そして、泥の吸収に合わせて小麦の苗が立った!
「これでいけるんじゃないスか?」
「こうなるのか・・・」
面白い現象だが、多分うまくいかないだろう。
征矢所長に言われて実験的に作ったが、ダンジョン内にダンジョンを作ると、強い方のダンジョンに魔力や生気を取られ、小さい方のダンジョンは維持がやっとの状態になる。
なので小麦も水ダンジョンも育たないはずだ。
でも念のため2日ほど様子を見たが、予想に反して小麦の苗は順調に生育していた。
どうやら水ダンジョンは小麦の内側から極小ながら生気を奪い、小麦は生気を奪いに来た水ダンジョンから水や養分を奪ってお互いに成長してるようだ。
養分は水ダンジョンが毒沼のギミックを応用して自発的に生成してるらしい、そんなのどうやってやるんだ?ダンジョンマスターの俺にもできないぞ。
フニャフニャでユルユルの水ダンジョンは、ギミックもユルいらしい。
実験がいきなりうまくいったので、白浜ダンジョン1階層から行けるように、新たに牧場用の空間型ダンジョンを産み出した。
もちろん3階層から回収した水ダンジョンも配置してある。
もともとDPがカツカツだったので、足らない分は、ダンジョン課に都合つけてもらった。
白浜町最終処分場行きのゴミを、一時的に白浜ダンジョンに回してもらったのだ。
ゴミ収集車はダンジョンの出入り口の所でエンストしてエンジンがかからなくなるから、人の手でゴミを引っ張りださないといけない。
正直やりたくないが、これもDPのためだ。
牧場ダンジョンは、だんじょん荘みたいに、全く魔物が発生しない仕様にしたかったが、家畜用の水場を用意したり、飼料用の水ダンジョンを配置した結果、仕様が複雑化し、魔物が発生しないオプションを追加できなかった。
水場はスライムを放り込んでおいたが、それ以外は小麦を食われたりしないように、俺が知る限り最弱の魔物である『ケセランパサラン』を配置した。
ケセランパサランは見た目は綿毛だ。
おしろいを餌に増えると言われているが、俺はダンジョンからの自然発生しか見たことが無い。
体重はほぼゼロ、なので風圧がかかる攻撃はまず当たらない。
ならば『雷撃』の魔法とかも考えられるが、ケセランパサランはには効かない。
奴らは『光属性絶対無効』のスキルがあるらしい。
攻撃が当たらない代わりに攻撃もしてこないから、魔物が発生しないに近い状態とも言える。
数日後、徳島の動物園からカピバラが40頭、県内や奈良県から購入した羊が16頭届いて飼育が始まった。
動物達は、凶悪な事件を起こした囚人だろうが一般人だろうが分け隔てなく接するので、囚人達は普通に動物達の世話をしている。
囚人達に『カルマ判定』の魔法をかけてみたら、刑期の消化以外にもカルマが改善されているのが分かった。
そりゃそうか、刑務作業だもんな。
リンダ達PTSDの外国人の症状も緩和されつつある。
小さな物音にいちいちビビっていた男はカピバラがきゅるきゅる鳴いても動じる事がなくなり、不眠症の2人は羊と一緒に寝てる所をたまに見るようになった。
そろそろアメリカに帰国できるかも知れない。
水ダンジョンとかいう訳の分からんダンジョンから始まり、なんとか牧場を形にできた。
やりきったぜ!今回はかなり苦労したけど、終わってみれば満足できる物が出来上がった。
よくやったよ俺、すごいよ俺。
そう言えば何か忘れてるような・・・
あ!惨殺された幼女の親!!
何やってんだ俺、そっちが先だろ!
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