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拘置支所はじめました

 今日はIHIから、拘置支所で使うボイラーが届いた。

 これで拘置支所ではお湯を使える。


 ボイラーの納入には、ダンジョン課の鈴木蓮課長および、拘置支所所長の鈴木征矢も同席した。

 たまたまかもしれないけど、和歌山県は鈴木多いな。


「征矢、これで拘置支所の運用は秒読み段階だな。

 ちゃんと運用できるんだよな。」


「先輩、当然じゃないっスか。」


 この二人は母校の智辯和歌山では、先輩後輩の間柄で、蓮の方が先輩だ。

 ちなみに二人は演劇部だったらしい。


「なにしろ、元太君のおかげで、いくらでも土地を用意できるらしいっスからね。

 まあ、ヤバかったら元太君が助けてくれるし、余裕っすよ。」


「俺はロシアを敵に回してるから、あまり余裕ないよ。」


 とは言っても、しらんぷりはできないから、色々考えてるけど。


 ボイラーは結構重いので、本当ならトラックに乗せたまま現地に運びたいところだが、空間型ダンジョンの出入り口を通るたびに、エンジンへの燃料供給が止まるので、アダマンタイトのでかい台車を使う事にした。


「ところで、このボイラーどうやって台車から下ろすんスか?」


「下ろさないでもいいと思うけど。」


 地震なんか起こらないし、空間型ダンジョンだから、壁や天井が壊れる訳でもない。

 使う人がわざと事故を起こさない限り大丈夫なはずだ。

 それでも下ろせと言われたので、ダンジョンを変形させボイラーを支えた後、床を低くして台車を引き抜いた。


「そうだ、こいつも。」

 

 ボイラーと床の間にアダマンタイトの板をいくつか挟む。

 こうしないとボイラーもダンジョンに吸収されてしまうのだ。


「排ガスはどうするんスか?」


「そもそも魔石発電だから、排気ガスは少ないんだけど、ここはダンジョンだから壁が吸収するんだよ。

 だから、煙突代わりにダンジョンを2mもくぐらせば、きれいな空気になるんだ。」


 これはまだ東京にいたとき、消防設備の点検で、有資格者を迷わせたダンジョンのギミックだ。

 当時、誘導灯と水牢の罠を利用したスプリンクラーもどきしかないだんじょん荘をどうするかでもめた。

 このクラスのアパートだと、消火栓やスプリンクラーが必要になるからだ。

 しかし、だんじょん荘は建物ではなく空間だ、廊下で焚き火をしても、だんじょん荘が燃える事は無い。

 試しに有資格者の目の前で焚き火をたいてみたが、煙はダンジョンに吸収され、視界はすぐにクリアになった。

 部屋にある物に引火すると話は少し違うが、その場合は部屋をあきらめて、廊下に逃げれば済むのだ。

 各部屋はDPを共有する以外に関係を持たない、独立した空間型ダンジョンなので、ガスは漏れない。


 話はそれたが、ダンジョンの空気清浄機能は秀逸だ。

 ボイラーの排気ガスなど、たちどころに吸収してしまうのだ。


「便利っスね、ダンジョン。」


「通信が壊滅的って問題はあるけどね。」


「そうか、何か問題が起こっても、報告に時間がかかるんスね。

 脱獄とかヤバいっス、どうにかならないっスか?」


「ならば、白浜ダンジョンの出入り口にカルマ判定つけましょうか。」


 カルマ判定とは、その人の善悪を都合良く判定するギミックで、ある程度善人じゃないと入れないルートを作ったりするのに利用する。

 なので、囚人は基本ダンジョンから外に出られない。

 入口に魔力認証をかけるという手もあるが、設定は俺にしかできないので、うまく運用できないだろう。


 ただ、カルマ判定は問題がある、一般人でも判定の対象になるのだ。

 細かい悪事をコツコツ積み重ねてきた奴は、ダンジョンから出られなくなるのだ。


 その場合は、俺が対処するしかないか。

 今度カルマ判定を軽減するアイテムを作ろう。


 数日後、拘置支所は試験運用を迎え、終身刑や死刑囚などが50人運ばれてきた。

 刑務所もいっぱいだから、拘置支所でもこんな人達を収容してるんだって。


 まだ試験運用だけど、町長も出席する簡単なセレモニーが行われ、テレビ和歌山からも取材が来ていた。

 テレビ局が来てるから、失敗したくないけど、無理だろうな。

 一体どんな問題が起こるやら・・・


 と思ったそばから、拘置支所に入る前に問題発生!カルマ判定で、だんじょん荘の住人にダンジョンから帰ってこれなくなった人が出たのだ。

 仕方なく俺が対処しようとしたところ・・・


「ん?お前まさか、指名手配中の朝倉じゃないか?」


 なんと、だんじょん荘に指名手配犯が混ざってたのだ。

 朝倉はソッコーで逮捕され、想定外の51人目の拘置者になった。


 そこで更に問題が!白浜ダンジョンの出入り口に敷設した、カルマ判定をくぐり抜けた囚人が出たのだ。


「囚人は全員出られないんじゃなかったのか?」


「いえ、悪い奴は全員です。

 なので、囚人でも良い人はここから出られます。」


「それってまさか・・・」


 場が嫌な雰囲気に包まれる。


「俺も全ての把握してる訳ではありません。

 具体的には

・多重人格

・罪に気がついてない(泥酔含む)

・罪の清算済み

 そして・・・」


「冤罪か・・・」


「この方の罪状は?」


「2年前に幼児2名を殺害した罪ですよ。」


 答えたのは、テレビ和歌山の記者だった。

 拘置者の名前は四条光輝、殺害方法が小説でも書けないような残忍な内容で、当時は死刑を求める声が大きかったそうだ。

 被告本人は最後まで無罪を主張したが、殺害された幼児の母親の証言と涙もあり、結局終身刑となったそうだ。


「『罪に気がついてない』はあり得ないな。」


「それは具体的にどんな場合ですか?」


「自分が撃った魔法の流れ弾で、知らないうちに人を殺した場合とかです。

 当たったのが分かれば話は変わります。」


 泥酔の場合は、完全に記憶が無いとカルマ判定から外れる。

 ただし、異世界でも法的に許されるはずもなく、服役となる。


「酒は?」


「飲んだことないです。」


 四条は即答した。


「やはり冤罪っぽいな。

 極限状態だったから、母親の証言も微妙な気がする。」


 『カルマ判定』のギミックは、『カルマ判定』の魔法をダンジョン用にアレンジした物だ。

 なので、『カルマ判定』の魔法を使ってみた。


「カルマ24、善人寄りだな。

 これじゃ『カルマ判定』のギミックは発動しないね。

 これで本当に残忍な殺人やったんなら、それ以前によほど徳を積んだんだろう。」


「『カルマ判定』なんて魔法があるんですね。」


「ええ、あるんですよ。

 ただ、『カルマ判定』の魔法もさっき言ったように例外があるから、参考にしかならないけどね。

 ただ四条君だっけ?彼がそんな抜け道知ってると思えない。」


 冤罪は可哀想だが、俺にはどうする事もできない。

 和歌山テレビの活躍で、世論が再審側に傾けば、可能性はあるんだけどな。


「四条君、辛いだろうが気を落とさないで。

 少なくとも、俺は冤罪だと思ってるから。」


「いえ、無実の罪で投獄されて、そこでダンジョンマスターの元で超絶パワーアップとか、燃える展開じゃないですか。

 ここダンジョンあるんですよね!スキル取れるんですよね!」


「そりゃ、ダンジョンもあるし、スキルも修得できるけど。」


 どうやら四条君は現状を憂いてないようだ。

 こいつ、再審で無罪になったら、そのままだんじょん荘に住み着きそうだな。


 後で知ったのだが、四条君はいわゆるヲタクで、彼のコレクションには猟奇的な物や、アニメながら少女ポルノも含まれていたのも、有罪にされた一因だったそうだ。

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