ダンジョンマスターは犯罪なのか?
「おい、義父さんと義母さんが来るなんて聞いてないぞ。
それから・・・」
「はじめまして、7年間失踪していた鈴木元太です。」
義理の兄貴は名前を鯉淵達也と言い、筋肉質で『ザ・労働者』といった感じの飾り気がない人だった。
「さあさあ、立ち話も何だから、座って座って。」
母さんに急かされ、達也さんはちゃぶ台についた。
「今日は元太がもどってきたお祝いだ。」
父さんはビールと日本酒を大量に用意していた。
その父さんは、かけつけ三杯とばかりに、男3人のグラスにビールを注ぎ、勝手に乾杯したと思ったら、あっと言う間にビール瓶一本を空にした。
相変わらずの酒豪だな。
「父さん、俺の帰還祝いを理由に、ここぞとばかり飲む気だな。」
「おうともよ。
お前も見てないで飲め飲め。」
「元太君は酒飲めるの?」
「飲んだ事ないから、わかりませんね。」
何しろ異世界からの帰還が最優先だったから、判断を怪しくさせる(と思われる)酒は飲まなかったのだ。
父さんみたいにビールを一気にあおってみたが、思いの外苦かったので、日本酒に切り替える。
一口含むと、かすかな甘味を感じた。
俺にはこっちの方が合ってるようだ。
その間も、2つのちゃぶ台にすき焼き鍋が2つ並び、夕飯の準備が着々と進む。
すき焼きは本当に何年ぶりだろうか。
しかも脂のサシが細かく、柔らかそうだ。
かなり奮発したみたいだ。
「こんないい肉初めてじゃないか?」
「元太が帰ってきたお祝いだもの。
豪勢にいくわよ。」
母さんのテンションが高い。
「明日からしばらく食事が貧相にならない?」
「明日は明日よ。
それより元太の方は大丈夫なの?」
「そうよね、しばらくは異世界帰りとかで話題になるでしょうけど、基本無職じゃない?」
母さんも姉貴も、財布を預かっているだけあって、今後の俺を心配してくれている。
「大丈夫だよ。
ダンジョンマスターの天職でしかできない事も多いんだ。
貴金属類とかも大量に持って帰ったから、売り払えば金銭的には余裕だよ。
魔王城の宝物庫から魔金属やらを大量にゲットしたし、7番目くらいに接続できた世界が、そこいら中に金やらプラチナやらがゴロゴロ転がってたから、片っ端から詰め込んできたよ。
その他の異世界では戦乱に巻き込まれたり、逆に戦争が全く起きない異世界に迷い込んで色々な物を交換したりで、結構資源的な物があるんだ。
だから、ニートでも全く問題なし。」
「あら、それなら私も少しもらおうかしら。」
「俺にもくれや。」
「ちょっと待て!貴金属を大量に持ち帰った!?」
達也さんは、なんかスマホをいじりだした。
「何?なんか問題あるの?」
達也さんは、なんでも横浜港に勤めているそうで、すぐにピンときたらしい。
「ちょっと待て・・・あった、これって密輸の可能性がある。
10年以下の懲役および1000万円以下の罰金だって。」
「まぢかっ!」
達也さんによると、税関を通さず貴金属を国内に持ち込んだ時点で、罪が成立するらしい。
んな事言ったって、こっちは帰ってくるのに必死だったんだぞ!
知らない異世界に繋がってもなんとかなるように、備えをしっかりしないと詰むんだぞ!
「自力で持てないくらい大量の貴金属じゃ、懲役10年確定だな・・・」
すき焼きのクタクタいう音がとてもよく聞こえる。
嫌な沈黙だ。
まるで麻痺の罠にかかったように誰もが固まった。
「ままーっ、どーしたのー。」
状況が分からないちーたんが声をあげたのをきっかけに、全員の麻痺が解ける。
「オイ、どうにかならねーのかよ。」
「しらばっくれるしかないんじゃないか?」
「それだと後でバレたらやばいだろ。」
「でも、事情が事情だから、情状酌量も・・・」
すき焼きをつつきながら、あーでもないこーでもないと、みんなで話し合っていると、唐突に雄大君が泣き出した。
どうやらウンコをもらしたらしい、まったく、こっちが泣きたいよ。
赤ちゃんはいいよな、たいした悩みがなくて。
「ふう・・・あー、もう考えるの疲れた。
正直に言って、ダメならダメでなるようにしかならんだろ。」
「そう・・・そうよね。
ちなみにどのくらいあるの?」
「んー、ダンジョンで1カリアのインゴットに製錬しなおしたけど、いくつあるか分かんないな。
そもそも1カリアが何kgなのか量らないと。」
カリアとは、異世界の重さの単位だ。
俺の感覚では1カリアは3kgより若干重い。
「金塊ちょっと量ってみようか。」
リュックのダンジョンから金塊を一つ取り出し、体重計で量ったところ、金塊一つの重さは4.04kgだった。
「グラム一万として、それ一つで4000万円超えてるな。
金の関税はゼロだけど、消費税払わないといけないから、400万円以上の脱税だ。」
達也さんが嫌な計算結果を弾き出した。
「ひと塊でそんなにするの!?
こんなのが何万とあるはずなんだけど。
下手すると10万超えてるかも知れないのに。
消費税で千億円以上払わないと有罪かよ。」
この時点でとんでもない事になってたが、このとき、事態はもっと複雑だという事を、俺は知るよしもなかった。