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権力者

「総理!大変です!」


「どうしたんですか?」


「鈴木元太がまたやりました。」


 平井総理は最も聞きたくない人物の名前を聞いて、胃が痛くなってきた。


「今度は何かね。」


「鈴木元太が、北海道釧路沖の上空に、ダンジョンを作りました。

 その一部が歯舞諸島の排他的経済水域にかかってると、ロシアがダンジョンを領土宣言をしました!」


「はあ!?すぐロシアに抗議せねば!」


「文面はどうしますか?」


「えーと、とりあえず抗議するんだ。」


「それと不確定情報ですが、鈴木元太がダンジョンを作った理由ですが、どうやらロシア機に搭乗していた旅客機を撃墜されたため、ダンジョンマスターの権能を使ったためだと。」


「何だって?先日のユナイテッドエアー33便はロシアに撃墜されたのか?」


「いえ、それとは別のユナイテッドエアー35便です。」


「は?そんじゃ2機も落ちたの?」


「はい、なのでアメリカはもうカンカンですよ。

 まだユナイテッドエアー33便の事故調査中なのに、国民はロシアのせいだと息巻いて、各地でデモが起きてるようです。」


 元太を中心に、世界情勢は平井総理の処理能力を越える速度で、めまぐるしく展開するのだった。


「総理、雲のダンジョンは日本も領土宣言しますか?」


「そうだな、あ、いやそうすると、タダでさえギクシャクするロシアを更に刺激するか。

 なんとか、ロシアに領土宣言を撤回させられないかな。」


 その日、またしても関係閣僚や官僚が集まり、対応を協議する事になった。


 ロシアに正式抗議したのは、事件発生から2日後の事だった。





 日本では、総理の対応の遅さに国民の非難が集中し、下手を打った総理を退陣させるべきとの声が強まっていた。

 しかし下手を打ったのは、むしろろくに検討もせず、先走って領土を宣言したロシア側だった。


 元太が作ったのは一言で言うと、雲でできたダンジョンだった。

 地上からの出入口は、北海道厚岸郡浜中町しかなかった。

 見た目は直径50mほどの竜巻で、内部が螺旋階段になっている。

 それがはるか上まで続き、高度1000mから上は急に広くなっていて、頂上では直径100Kmに達していた。

 

 地上の他にはダンジョンの屋上に出入り口があるのだが、そこは標高にして8000mを超えていた。

 この高度は、ヘリコプターが使えない高度で、垂直離着陸機も滑走路が必要である。

 しかし地面?雲面?がデコボコしてるので、そのままでは航空機が離着陸ができない。


 ロシアのゴルジェイ大統領は、雲のダンジョンに空港を整備するように指示を出したが、ダンジョンという物はアダマンタイトと生物(衣服は生物の一部と見なされる)以外を全て吸収してDPにする性質がある。

 その辺は元太がDPの供給バランスをいじって吸収を緩める事もできるのだが、生還が最優先だった元太は、その辺は初期設定のままにした。


 しかも、ダンジョンはコアが生きていれば、破損しても再生するのだ。

 特に雲のダンジョンは地底型と違い空中にあるので、濃厚な魔力に包まれているようなものだ。

 雲のダンジョンにスコップを突き立てても、1時間もすれば再生しているし、土を盛ろうとすればダンジョンに吸収されてしまう。

 空港どころかテントですら設営不能だ。


 無理なく入れる出入口は、厚岸郡浜中町だけだが、ここをロシア領と言うには無理がある。

 やるなら侵略だが、それは軍部から反対の声が上がった。


 元太のせいで、戦闘車両は民間人でも簡単に無力化できる上に、今度は旅客機相手にステルス機が落とされたのだ。

 ロシアの軍備は抜本的な見直しを迫られていた。


 正直、空のダンジョンを開発するのは無理がある。

 しかし、一度領土宣言をしてしまった以上、いまさら引っ込みがつかない。


「ならば、ゲンタ・スズキに開発させるのだ!」


「それこそ無理です。

 我々ロシアが、ゲンタ・スズキに何をしたのかお忘れですか?

 彼を抹殺するために、彼の乗る航空機を撃墜したんですよ。

 彼が協力するなんて、ありえません。」


 パラシュート降下以外に交通手段が無い、いや、高度8000mでは気圧が低すぎてバラシュートが開いてもほとんど減速しない。

 可能性の話からすると、飛行船で現地に行けるが、ロシアは飛行船を持っていない。

 新しく建造するしかないのだ。


 果たして、雲のダンジョンは、飛行船を建造してまで運用する価値があるのか・・・


「はっきり言って、ロシアにとって、雲のダンジョンは利用価値がありません。」


「いや待て、雲のダンジョンに部隊を送り込めば、北海道に直接侵攻可能じゃないか。」


 どや顔のゴルジェイ大統領だったが、将軍の態度は冷ややかだった。


「あのですね、その部隊を送り込むのに、どれだけ軍事費を回せるんですか?

 ダンジョンを踏破しないと、侵攻できないんですよ。

 踏破だけでも、どれだけ武器弾薬を消費するか分かったもんじゃありません。

 しかも、補給線を維持するのに車両が使えない上に補給物資を適当にその辺に置いておくだけで、ダンジョンに吸収されます。

 そんなことするなら、択捉島から直接侵略した方が手っ取り早いです。」


「そんじゃアレどうすんだよ!」


「そんなのこっちが聞きたいわ!」


 ゴルジェイ大統領が激昂する中、今度は外務担当から連絡が入る。


「日本政府からの抗議です。

 ダンジョンは個人の技能だから、領土を宣言するのはおかしい、ただちに宣言を撤回すべきであると。」


 日本側の抗議は、なんと元太が自分のダンジョンに固定資産税をかけられたときの反論のパクりだった。


 この抗議文がマスコミにすっぱぬかれると、片や固定資産税を徴収しようとダンジョンを領土にし、片やロシアと事を構えたくないためにダンジョンを領土として認めないという、平井政権のダブルスタンダードが問題となった。

 結果、ウエハースダンジョンの投入により衆議院に差し戻され、かなり無理な修正の上で再度衆議院を通過した、ダンジョンを日本領化する法案は、再び衆議院へと差し戻しになった。

 そろそろ6月になろうとしている時期に、まだ重要法案の審議が残っていた衆議院には、参議院から差し戻された法案を3度審議する時間は残されていなかった。

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