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『超』おいしい料理

 ダンジョンは白浜町への移転が決まった。

 住人は和歌山県に移籍するか、だんじょん荘を出るか選択を迫られた。

 大学や高校、および職場に通う等の理由で35人は残らざるをえなかった。

 だんじょん荘の場合、移動なので正確には立ち退きではない。

 でも、トラブルを避けるため、立ち退き料は払う事にした。

 本来立ち退き料は、家賃6ヶ月分が相場だが、家賃5千円のだんじょん荘の場合、3万円になってしまう。

 金には困ってないので、1家族あたり50万払う事にした。


 幸か不幸か北品川周辺は、だんじょん荘の影響で、そこそこ空き部屋があったので、転居先はすぐに決まった。


 そんなとき、2週間で家が完成するから待ってほしいと言い出す住人が現れた。

 現地ではだんじょん荘のために急ピッチでコンビニを作ってるそうだから、あまり早く行っても生活に困るだけだ。

 それに、今のうちに横浜税関で、輸入手続きをしておきたい。

 しばらく関東に帰って来れなくなるかもしれないからね。





 そんな俺は、鯉淵家に来ていた。

 ちーたん3才の誕生日である。


「おっちゃーん!」


「やあ、お誕生日おめでとう。」


 俺がプレゼントに用意したスライムの抱き枕は、さっそくちーたんの座椅子の地位を確立した。

 雄大君は少し見ないうちに、寝返りをうてるようになり、俺に向かってズリズリと匍匐前進してきた。

 ハイハイまでもう少しだ。


「姉貴、はいこれ。ウエハースダンジョンだよ。

 母さんも。」


「これが噂のウエハースダンジョンね。

 食べられるダンジョンなんて、面白いわ。

 どれ・・・魔覚も刺激するのね、結構美味しいかも。」


 ウエハースダンジョンは姉貴にお気に召されたようだ。


「達也さんと父さんは?」


「今買い出しに行ってる所。

 そろそろ戻って来るんじゃない?

 それより、みんな元太に任せて大丈夫なのよね。」


「ああ、超うまい物出すから、期待してて。」


 今日はちーたんの誕生日だが、俺の壮行会でもある。

 ファミレスに行こうかという意見もあったが、せっかくだから、異世界の皇帝が食ってた料理に挑戦してみる。


 料理のジャンルは鍋なんだと思う。


 父さん達が買ってきた食材を使って、まずは水炊き鍋を作る。

 このとき最大のポイントは、本当に水で炊く事だ、塩気が足りないだろうと味噌や醤油を手にする母さん達の手を笏で叩きながら、じっくりダシが出るのを待つ。


「もういいんじゃない?」


「バカ、ここでやめたら、ただの水炊きじゃないか。」


 続いてスープだけを別の鍋に移し、くたくたになった食材を再び煮込む。


「そのスープはもう使わないから。」


「はあ!?これが一番おいしんじゃない!」


 俺の鍋に必要なのは、ダシが完全に抜けきった食材なのだ。

 ダシ汁は、明日の味噌汁にしてもらおう。


 クタクタになった野菜は、よく絞って一旦よけておく。

 空いた鍋を外側から氷水で十分に冷やすと、ついに登場しましたサラマンダーの肉!

 サラマンダーの肉をよく冷えた鍋にならべ、山盛りの氷をそのまま鍋に投入すると、瞬く間に昇華し、水蒸気で部屋の湿度が爆上がりする。


 本来は『凍結』の魔法で冷やすのだが、その下位互換の『霜』でさえ、地球ではオーバースペックだ。


「あちーっ、窓あけろ窓!」


 幸い、山盛りの氷2発目からは鍋が沸騰するにとどまり、外側から氷水で冷やす事で、なんとか食える温度におさまった。


「何これ、めっちゃ濃そうじゃん。」


「だから、ダシを吸いだされてクタクタになった食材が必要なだよ。

 正直、この鍋は濃すぎる。

 そのまま飲むと、味覚がおかしくなる上に、血圧が急上昇する。

 この世界の発想だと、パンにつけて食べたくなるが、それでも濃い。

 なので、ダシを絞り尽くした食材の出番なのだ。


「さっきの野菜を少しスープにくぐらして食べるんだ。」


「しゃぶしゃぶみたいだな。」


「達也さんが言うように、しゃぶしゃぶが近いかな。

 だが、しゃぶしゃぶとの最大の違いは・・・」


 と説明の途中で父さんがスープにくぐらした白菜をそのまま食べてしまった。

 慌ててビールを口に含む。


「かはっ!うめぇ!」


「正しいのは酒が先で、食材が後だからね。

 食材をスープにくぐらせただけでも、味が濃すぎるから、酒と一緒にたべたり、ご飯と一緒に食べたりするんだ。」


「なら、薄めればいいじゃない。」


「薄めようとすると、サラマンダー肉からうまみ成分と熱が足されるから、まためちゃくちゃ熱くなっる上に濃さが元に戻っちゃうんだ。

 何回か繰り返すと薄くはなるけど、うまみ成分のバランスがどんどん悪くなるから、味がおかしくなるんだよ。」


「ならばスープを別の器に移せば・・・」


「やってみなよ。

 ただし、ちょっとだけね。」


 母さんが、鍋のスープを別の器に移すと、赤かったスープはみるみる内に紫色に変わってしまった。


「これ、大丈夫なの?」


「毒耐性レベル3以上のスキルがあれば。

 そのまま下水に流すと環境破壊起こすから、ティッシュで吸い取って。

 後でダンジョンに捨てるから。」


 スキルの本場異世界でも、毒耐性レベル3は滅多にお目にかからなかった。

 普通はそこまでレベルを上げる前に死ぬそうだ。


「器に残った汁も捨ててね。」


「ご飯に乗せたときについた汁は?」


「そのくらいなら、米粒が吸収するから大丈夫。」


 俺が説明してる間も父さんは黙々と鍋を堪能していた。

 それを見てみんなも鍋の攻略にかかった。


 終始沈黙、少食のちーたんも、ごはんをおかわりして、ガツガツ食べてる。

 雄大君が泣いてもみんな無視して黙々と食べ続けた。


 まずいな、クタクタになった食材が足りない。


 何か無いかな・・・そうだ、ウエハースダンジョンだ。

 あれは栄養価がえらい高いから、栄養素クリーチャーを半分に減らそう。

 それと汁を吸いすぎないように、ダンジョン内の壁を多くしよう。

 ここまですると、ダンジョンはせんべい並の硬さになるが、これはこれでいいだろう。


「クタクタ食材無くなったら、ダンジョンを試してみてね。」


 やがて鍋のスープが無くなり、ステーキ状のサラマンダー肉が残った。

 煮たのにステーキなるなんて、サラマンダー肉は不思議だな。

 ちなみに、焼き(煮?)加減はウエルダン一択だ。


「よーし、サラマンダーステーキの完成だ。

 こうやって適度にうまみと熱を出さないと、サラマンダー肉は食えないんだ。

 異世界では皇帝が食うご馳走だぞ。」


「さっきうまみが濃すぎるとか言ってなかった?」


「ステーキになれば大丈夫なんだって。」


「だったら、初めから焼けばいいじゃないか。」


「それだと肉自体が燃えて、消し炭しか残らないんだ。

 そうならないために、水中でじっくり焼くんだよ。」


 では、サラマンダーステーキいただきます。


 ・・・





 いかん、うますぎて頭の中が真っ白になった。

 ちーたんなんか、あまりの美味しさに漏らしてるし。

 てか、父さんも漏らしてるじゃないか!

 達也さんは気絶してるし、姉貴は焦点があってないし、母さんは昇天してるし、俺も雄大君の泣き声と各種耐性スキルが無かったらヤバかった。


 これはヤバい、異世界では皇帝が食べる超うまい料理と言ってたが、『超』の意味はこれか。

 そうか、こんなもんばかり食ってるから、異世界の皇帝はバカになったのか。


 最後にわずかに残ったサラマンダーステーキを雄大君の口に放り込んで、ちーたんのお誕生会は惨劇の幕を閉じた。

 有り得ないほどうまいけど、もう二度と食うもんか! とそのときは思ったが、これだけうまいなら、ダンジョンで食べれば何かスキルを得られるかも知れないと気がついた。


 今度やってみるか。

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