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逃げた魚はいつも大きい

 国会が大混乱してる頃、だんじょん荘には、全国122の市区町村から、誘致の打診が来ていた。

 ダンジョン凄い人気だな。


 選考は荒れる事が予想されたので、俺は各首長および担当者に、意地悪な条件を出した。

 その1つが、俺およびダンジョンに求める事だった。

 ここで「求める事なし」又は「全て丸飲みします」的な解答はすべて弾いた。

 彼らがダンジョンに何を求めてるか知りたかったし、後から何を要求されるか分かった物ではないからだ。

 4つ目だったか5つ目の異世界じゃ、それで酷い目にあったからな。


 明確な要求がある自治体のうち、港・空港・鉄道の駅がいずれも遠い所も弾いた。

 魔石は発電に使う予定なので、輸送に問題がある所は避けたかったのだ。


 生き残りで、最も俺を注目させたのが、和歌山県の白浜町だった。


 大きな港が無いのは問題ありだが、空港と駅が比較的近く、町からの要望も、町が実現するよりダンジョンの方が確実でてっとり早かったり、理に叶ってる上にこちらにも好都合だったり、断る要素が無かった。


 そして一番の利点は、偶然にも小中学校の教科書が、北品川と同じだった事だ。

 ダンジョンの移転に伴う最大の問題点は、新学期が始まった時期で引っ越しとなるので、入居者離れを起こす事だった。

 これが軽減できるのはうれしい。


 町長の「だんじょん荘専用の温泉作っちゃうよ!」というのも気に入った。

 だんじょん荘の浴場は、熱湯罠で温度を調節する、かなり無理があるシロモノだ。

 最近では熱湯耐性を身に付けるための修行場として、何人ものケロイド患者を出していた。

 その鬼気迫る様子から最近では『阿修羅の湯』とか呼ばれてる。

 ケロイドを治すのに、俺が毎回『治療』の魔法を使う羽目になるんだよな。


 ちなみに、『治療』の魔法は、ちーたんが手を切った時に使った『手当て』の魔法の上位互換だ。

 ケロイドが一瞬で完治するほど効果が高いとなると、外科医を駆逐する可能性があるので、公開していない魔法だ。

 存在が知られてるから、数年すれば公開する事になるとは思うけどね。





 都庁の一室、そこはピリピリした雰囲気に包まれていた。

 まさか、地域に馴染みつつある『だんじょん荘』が東京都からまるごと移転する騒ぎになるとは・・・


「こんな簡単に移転できるなんて・・・ダンジョンを固定資産にするなんて無理があったんだ。」


「1坪の土地に12億とか、私も初め何の冗談かと思いましたよ。」


 都の幹部からの突き上げを食らって、主税局長は恐々としている。


「しかし、税金はある所から取らないと。」


 この考え方は、税を扱う主税局としては当然と言えた。


 局長は、金をトンの単位で売買できる元太なら、12億くらい余裕だろうと思っていた。

 確かに用意できない額ではない、元太も『税金はある所から取る』という考え方には賛成だ。


 しかし元太が嫌ったのは12億という金額ではなかった。

 あまたの異世界を渡り歩いてきた元太は、ダンジョンを私物化しようとする権力者との、めんどくさい闘争を何度か経験したため、部外者が自分のダンジョンに無茶な理由で干渉したのを嫌ったのだ。


 国がダンジョンを領土化するような法律を通そうとしたとき、わざわざ衆議院を通過したタイミングでウエハースダンジョンを投入したのも、関係者に極力負担をかけて、官僚や議員の心を折りに行く元太なりの戦術だ。


「どうにかならないのかよ。」


「流出を食い止めるため、土地にかかる固定資産税や都市計画税は全て無し、その上そちらの要望を丸飲みすると言ったものの、却下されたよ。

 これのどこが不満なんだ。」


「それ、高松市と米子市も誘致する際に同じような提案したみたいですが、見事に弾かれたらしいですよ。

 逆にある程度要望を出した市町村は選考に残ったみたいですね。」


「さじ加減が分からないわね。」


 元太が全国から誘致先を公募したのは、ダンジョンにかけた固定資産税の根拠が無茶だからだが、東京都から出ていく意思を固めたのは、引き留めのために、『土地にかかる固定資産税や都市計画税は全て無し』という条件を出したからだ。

 元太は、ダンジョンの入口がある1坪の土地は固定資産税を支払うべきだと考えていた。

 理由は固定資産税の免除を受ける条件を満たしてないからだ。


 都合が悪くなったら法を無視する行政は信用できない。

 たしかに、どうしても現行法で対処できない場面はあるのだが、今回は1坪の土地にかかる固定資産税まで免除する必要があるとは思えなかった。


 法の抜け穴では、けっこうやりたい放題する元太だったが、施行されている法律は基本守るのである。


「予想される損失は?」


「この通りです。」


 プロジェクターに写し出されたのは以下の通りだ。

●ダンジョンでスキルを修得したがる観光客が落とす収入が見込めない

●視覚・聴覚障害の自立支援計画の見直し

●魔石を初めとするダンジョン資源の入手が困難


「今までは、ちょっとダンジョンに入ってスライム殴れば簡単に魔石が手に入ったのに、これからは和歌山県に行かないとダメだからな。」


「魔石の研究は始まったばかりです。

 発電以外にも、利用価値がありそうです。」


「宝箱から出るポーションもだ。

 効果は低いが、あれは病原体が耐性を得られない抗生物質らしいぞ。」


 元太は知らなかったが、ポーションの正体は新たに人類にもたらされた新型の抗生物質だった。


「ダンジョン産業の芽が絶たれたか。

 逃げた魚は大きかったな。」


 都知事のため息も大きかった。


「あと、地味に厄介なのがゴミです。

 何ヶ月も地域のゴミを全て引き受けてましたので、またゴミ収集車を回さないといけません。

 あと、カラス対策も。」

「警察は道端で酔いつぶれた酔っ払いの収容先に使ってたそうですよ。」

「家賃が安いから簡易宿泊所としても使われてたみたいだ。」


 細かい問題が他にも噴出しそうな気配に、都知事は頭を痛めるのだった。

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