外国人記者クラブ
今日は外国人記者クラブに来ている。
日本のテレビが一段落したので、ようやく外国の皆さんの相手をできるようになったのだ。
「では、BBCのアンダーソン記者からどうぞ。」
質問の概要と順番はあらかじめ決まっている。
重要な内容から質問が始まり、時間がきたら打ちきりとなる。
「ミスター元太はダンジョンを作れるとの事ですが、日本以外にも作れますか?
また、依頼があれば作ってもらえますか?」
「作れるか作れないかで言えば、通常形のダンジョンなら作れます。
複数の空間形ダンジョンを連結したタイプは、週イチくらいで状態を確認する必要がありますから、管理面の理由で外国に作れません。」
滅多に無いが、空間型ダンジョンは、出入り口の連結が緩む事がある。
緩みきったら使えなくなるので、締めなおす必要があるのだ。
また、DPが枯渇すると、中の物をランダムで消費して補てんするので、使い方によっては、在庫管理も必要になる。
「依頼があれば、通常形ダンジョンを作ってもいいんですが、地球は魔力がビックリするほど濃いので、影響が心配されます。
具体的には、ダンジョンはガンガンDPを溜め込んでは拡張しながら、強力な魔物を産み出すようになるでしょう。
下手したらスタンピードです。」
これが通常形ダンジョンを作らなかった理由だ。
ラノベなんかにあるような、ダンジョンから魔物が溢れ出すスタンピード状態になったという記録は、異世界には無かった。
DPがある程度貯まると、ダンジョンは自身を拡張する方向にDPを使うからだ。
スタンピードを起こすには、拡張速度をDPの吸収速度が上回らなければならない。
理論的には可能だが、異世界は魔力が薄いので、ダンジョンマスターがわざと状況を作り出さないとスタンピードは起こせなかった。
しかし、地球は魔力が豊富だ。
ダンジョンの拡張速度をDPの吸収速度が上回るかも知れない。
「続いて、CCTVの張記者どうぞ。」
次は中国の記者か。
見た目は日本人と変わらんな。
「スポーツの世界では、ダンジョンを保有する日本が、スキルや魔法の面で有利になると懸念されてます。
その事について、どう思いますか?」
「正直、スポーツ業界で取り決めて欲しいと思います。
魔法については、普通に禁止でいいんじゃないですか?」
「魔法を使ってるかどうかは、どうやったら分かるんですか?」
「『魔力感知』のスキルがあれば、魔法の影響を受けてるかどうかが分かります。
魔覚だけだと、周囲の魔力の濃さくらいしか分かりませんが、『魔力感知』は、魔力の質まで分かるらしいです。」
俺はこのスキルは持ってない。
『魔力感知』は、視覚を封じた状態で魔物を倒すと修得できるのだが、 『暗視』のスキル切って、暗闇で魔物と戦うとか無理だ。自然発生した魔物は、ダンジョンマスターにも平気で攻撃してくるからな。
まあ、スキルが欲しけりゃスライムでやればいいんだけど。
「それは盲目の人でも取れるんでしょうか?」
「ええ、視覚が封じられてる状態ですから、いけるはずです。多分。」
俺の答弁に、記者達がざわつく。
そうか、そういう使い方があるのか。
「その『魔力感知』を修得すれば、盲目の人も普通に生活できるようになるんですか?」
「俺は『魔力感知』を持ってないので、お答えしかねますが、可能性はあります。
今度試しに全盲の人にやってもらいましょうか。」
記者達が凄い勢いでキーボードを叩いてる。
そりゃそうだよな、目が不自由な人が普通に生活できる可能性が出てきたんだもん。
「続いてABCのマイク記者どうぞ。」
「はい、ダンジョンで採れる資源について質問です。
魔石は石炭とともに魔法の火で燃やすと、高熱になると聞きましたが、発電は可能でしょうか?」
これは最近テレビでも聞かれる質問だ。
なので、答弁はいつもの通りになる。
「国内の専門家の意見では、石炭火力発電所を若干改修するだけで、発電可能ではないか?との事です。
ただ、コストが見合うかどうかは分かりません。」
「それで、CO2の削減は可能でしょうか?」
「そうですね、技術力が低い国でも従来の石炭火力発電と比べ、9割くらいは削減できるんじゃないでしょうか。」
「それは大きいですね。
是非とも魔石を提供して欲しいです。」
「空間型ダンジョンを維持できるだけのDPが溜まれば、探索をメインとしたダンジョンを作りたいと思ってます。
でも、なかなか溜まらないんですよ。
普通に垂れ流してる生気を集めるために、都心に家賃5千円でアパートも作ったんですけど、まだ入居者ゼロです。
やっぱり通信環境が壊滅的なのが悪いんですかね。」
住人は未だに管理人の加藤だけだ。
なので、露骨に宣伝しておいた。
入居者が殺到してくれるといいな。
「では、続いてCITYのレナード記者。」
CITYはカナダのローカルケーブルテレビ局だ。
日本に記者を常駐させるだけの力は無い、つまり、どうしても俺に直接聞きたい事があって、今日に合わせて来日したのだ。
「マリアン・マーティンが異世界召喚され、向こうで亡くなったのは本当でしょうか?」
レナード記者の本名は、レナード・マーティンと言う、つまりマリアンの家族だ。
他の記者も俺に聞きたい事があったはずだが、彼に譲った形だ。
なので、こちらも生半可な応対はできない。
「俺はその場にいませんでしたが、彼女が異世界で亡くなったのは本当です。」
7年も前の出来事で、彼女とはあまり接点が無かったから、思い出すのに苦労した。
「彼女は内向的で口数が少ない女性でした。
正直、戦いに向いてないと思いましたね。
でも、異世界召喚で魔族の天敵とも言えるセイントランサーの天職を授かってしまい、最前線に立たざるを得なくなってしまいました。」
それから最後の戦いの後、魔王から勇者パーティーが全滅した事と、勇者を送り込んできた帝国を滅亡させる事が全世界に宣言された。
魔王領と帝国の間には幅50Kmくらいの海峡があり、大軍を動かすには、俺が管理するダンジョンを通るのが一番だった。
なので、魔王軍は全軍で俺のダンジョンを通り帝国を侵略しようとしたが、俺がダンジョンを冠水させて全滅させたと説明した。
「後で魔王城をくまなく探しましたが、勇者パーティーの姿は無く、宝物庫から勇者の聖剣が見つかりました。
状況から考えて、マリアンは戦死したと思われます。」
レナード記者は、こちらをまっすぐ見据えたまま、真剣に聞いていた。
「彼女を偲ばせる物があるとすれば、出撃前に勇者パーティーから預かったこれだけです。
カナダまで届けに行ければ良かったんですが、こちらも忙しい身の上なので、ここで失礼します。」
俺はレナード記者に、手のひらサイズの小さな宝箱を渡した。
俺は今回の会見に際し、事前に空間型ダンジョンにいるゴーレム達に当時の品をかき集めてもらい、思い出せるだけ彼女の事を思い出そうとした。
そこで勇者パーティーから、生きて帰れたら返してほしいと預かった小さな宝箱が出てきた。
7年も前だったので、完全に忘れていた物だ。
中身は見てないが、多分勇者パーティーのみんなの遺品だろう。
レナード記者は目頭を押さえてうつむいた。
「なぜ異世界召喚なんか・・・」
「そうですね、その辺も説明しましょうか。
帝国が異世界召喚したのは、天職が無い人を召喚すると、高確率でレアな天職を授かるからです。
実は俺のダンジョンマスターも、帝国では500年間1人も授かっていないレアな天職です。」
今にして思えば、魔王も帝国にダンジョンマスターがいるとは思わなかったのかもしれない。
水攻め綺麗に決まったもんな。
最後に、魔王がいなくなったので、もう異世界召喚される事はないだろうと結んで次の質問に移った。
「最後に、アルジャジーラのハッサン記者どうぞ。」
「はい、魔法は公開しますか?」
アラブ人は魔法に興味があるのか。
心なしか記者がワクワクしてるように見える。
「まず、危険すぎて使い所が無い魔法は永久に公開しません。
例えば『烈風』の魔法は、一撃で関東地方を更地にするだけのポテンシャルがあると思われますが、そんなの放射能が無い核兵器みたいな存在ですからね、公開しても意味が無い上にキチガイが覚えると被害が甚大です。
『装甲』や『探知』の魔法とかは、公開しましょうか。
あれは使っても被害は出ませんし、要人が使えば警備もやりやすくなりますからね。
『水瓶』も水不足で悩む国は欲しがるでしょうから公開します。
それとあらゆる言葉が分かる『意訳』の魔法は、直接会話しないと機能しませんし、無料の翻訳ソフトも出回ってますから、社会への影響が少なそうですね、公開します。
その他の魔法の公開は、社会情勢次第です。
ハッサン記者への解答は、『一部公開する』となります。」
まあ、他人に迷惑がかからない魔法ならいいだろう。
ちょっと時間が過ぎたが、記者会見は無事に終わった。
次の日、俺はネットカフェで、早速『装甲』『水瓶』『探知』『意訳』の魔法を公開すると、面白いように大炎上した。
迷惑系ユーチューバーってゆうのがいるけど、それを上回るんじゃないか?
「殺す」とか「地獄に落ちろ」とかは生易しい方で、家族に危害を加えるといった趣旨の脅迫もあった。
だが、雄大君を除くみんなには、既に『装甲』の魔法を教えてある。
意外にも一番最初に覚えたのは、文字も読めないちーたんだった。
魔法戦士に憧れる幼女はやる気が違う、物覚えが異様に早かった。
まさか3日で魔導書の内容を丸暗記するとは・・・俺なんか、認識が怪しい所は笏に書き込んで魔法発動してるのに。
魔法の公開に最も過剰に反応した国は、アメリカだった。
銃が全く効かない『装甲』魔法の登場は、ガンクラブの逆鱗に触れたようだ。
彼らは、銃による威嚇が効かなくなったから、犯罪が増加するので『装甲』を規制しなければならないと声高に主張していた。
まあ、一時的には犯罪が増えるだろうが、威嚇が効かなくなるのは犯罪者達も一緒だ。
ガンクラブの本音は、銃が売れなくなって困ると言った所だろう。
むこうのニュースでも、多くの銃砲店が潰れるだろうと言ってた。
他の国は、軍の最高責任者などが、俺の事をこれでもかと罵っていた。
タンク満水戦法を、その日の内に気がついた国があったようだ。
エンジンの内部が突然満水になったら、その都度工場で分解修理が必要だし、鉄でできた軍艦は満水にされると例外なく沈む。
電子部品は全て強制ショートで全滅だ。水中で基盤丸出しでも動作しないようでは、使い物にならないだろう。
『低速』の魔法は迷ったが公開しなかった。
効力が高すぎて、犯罪者が警察にかけると、あっという間に逃げられてしまうからだ。
自衛隊のみなさんごめんなさいね。
『装甲』の魔法が公開されたことで、歩兵の防御力が戦車を上回ってしまい、戦車が乗員を守る必要が無くなってしまった。
むしろタンク満水戦法による乗員の溺死を回避するため、装甲に穴を開けなければならなくなった。
戦車の存在意義そのものが、ゆらぐだろうな。
長年に渡って整備されてきた軍備が、俺が魔法を発表した事で、全て無効になるかもしれない。
戦争の様相も、古代ローマ時代まで遡るだろうな。
いや、武器がのきなみ無効化されたから、もっと昔の猿人だった頃までもどるかな。
俺はこの時、それ以上深くは考えなかった。
言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。