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閣僚会議

 総理官邸では、閣僚が集まり会議が行われようとしていた。


 召集をかけたのは、金田経済産業大臣だった。


「今日の議題は鈴木元太だ。」


 それを聞いて平井総理が露骨に嫌な顔をした。

 彼は保守的な人物で、自分から改革を起こそうとしない人物だった。

 なので、イレギュラー要素を持ち込む鈴木元太を好ましく思ってなかった。


「もうみんな知ってると思うが、鈴木元太が次の国会で輸入手続き時に、関税や国内消費税を物納も可能とする法案を通さないと、国内消費税を支払うために、大量の金を売り捌くと脅しをかけてきた。

 その額およそ10兆円だ。」


 そのため、金の市場は日本政府の出方次第という事で、小幅な取引が続いている。


「もし、本当に金を一度に10兆円分売られたら、先物市場のストップ安は確実だ。

 そうなれば世界中の金融機関の自己資本比率が下がり、最悪倒産する金融機関も出るだろう。」


 経済産業省としては、急激な金相場の下落はデメリットが大きいと判断した。


「10兆円も何に使う気だ?」


「奴は経済を破壊してどうするつもりなんじゃ。」


 閣僚から愚痴がこぼれる。

 ただの愚痴と違って、丹羽財務大臣の意見は慎重だ。


「確かに、政府が保有する金の資産価値も落ちる。

 しかし、物納を認めるには、税関に物納された物を売買する仕組みを作らなくてはならない。」


「公売の仕組みを使えないか?」


「貴金属の公売なんかやったら、結局先物市場が大暴落する。

 国内消費税に相当する金を物納させるのが最もスマートなやり方だろう。」


「私としては、全て廃棄して無かった事にしたいな。」


 最後の総理の発言は、抜本的な解決策ではあるが、合計1000t超えのレアメタルを破棄するなど容認されなかった。

 平井総理は貴金属だけでなく、異世界の技術や道具の流入も嫌っての発言だったが、魔法の存在は既にテレビを通じて広く国民に知られるようになっていた。


 覆水盆に帰らず。


 このまま沈静化してくれたら嬉しいなと、様子見していた平井総理は完全に後手に回ってしまったのだ。


 今にして思えば、国内消費税を払えないからと、密輸の罪で強引にでも逮捕すれば良かったと、後悔する平井総理だった。


「幸いにも、本人は『金を全部物納でも良い』と言ってたから、国内消費税の支払いは通貨だけでなく金でも良いように法律を改正すれば良いだろう。

 後面倒なのが消費税に含まれる地方税だが、それは財務省と神奈川・山梨の両県との話し合いになるな。」


 元太は知らなかったが、現在国内消費税のうち、地方消費税をめぐって、山梨県と神奈川県が水面下で死闘を繰り広げていた。

 概算で国内消費税1兆円という事は、地方自治体に入る地方消費税は2200億円になる計算だ。

 山梨県は元太が大菩薩嶺に帰ってきたから、2200億は山梨県の物だと譲らず、神奈川県は横浜税関が応対しているから神奈川県の物だと譲らない。

 特に財政規模が1兆円に満たない山梨県は、知事の首より2200億と、きらめく消費税にときめいて、恋する乙女のごとく暴想気味だ。


 これは調整が面倒だと、丹羽大臣は今から憂鬱になるのだった。


「次は小山君だね。」


「はい、東富士演習場で行われた鈴木元太君による魔法の検証ですが、その時の映像を編集したのでご覧ください。」


 画像はいきなり元太が120mm徹甲弾を受ける所から始まった。

 砲弾が直撃したが、元太は怪我どころか痛がりもしない。


「これが『装甲』の魔法の効果です。」


「いきなり生身の人間に戦車砲を打ち込んだのか?」


「いえ、最初は小銃でした。

 それがエスカレートして、戦車砲になりました。」


「ワシも習得したいな。」


 石川厚生労働大臣がつぶやいた。


「鈴木君は一年もたたずに習得したらしいですから、可能だと思います。

 ただ、魔覚を覚醒すると、しばらく気持ち悪くて落ち着きません。」


「小山は覚醒したのか?」


「はい、彼を我が家に招待した際に、帰り際に覚醒させてもらいました。」


 映像は戦車の中を水没させたシーンになった。

 ライトの中まで水没しているのが分かる。

 

「これを使われたら、打つ手がないな。」


「射程は1400km以上、北朝鮮全域をターゲットにできるそうです。

 ただ、探知の魔法は距離感が無いらしいので、どこを探知しているか分かりにくいそうです。」


「しかしどうするこれ。

 小銃は撃てるだろうが、空自の航空機は全滅だろ。」


「護衛艦もレーダーとか航法システムやられるな。

 いや、エンジンのシリンダーを満水にされると、航行不能になるか。」


 つまり、空自と海自は装備のほとんどが使い物にならなくなる。

 陸自も車両のたぐいは全滅だ。


「自動車のエンジンに電子回路基板、濡れたらまずい物は多い、しかも防水不能ときたもんだ。」


「産業界に与える影響は大きいな。」


「いや、現行法でも、本当にやったら器物破損罪の適用範囲だ、誰がやったのか特定するのは難しいそうだがな。

 本当に影響があるのは、軍需産業だろ。」


 異世界では水瓶一杯の水を生み出すだけの魔法だが、地球での影響は甚大だ。

 しかも魔力の消費はたいした事がない。


「陸自の方は、大真面目に騎馬隊を考えた方がいいかも知れませんよ。

 『水瓶』の魔法は、生物の内部は対象外らしいですから。」


「馬が主力か。

 牧場を整備したり、馬糞の処理費用出したり、それはそれで金がかかりそうだ。」


 元太が予想したとおり、現代戦の様相が一変する気配が漂う。


「うう・・・どんどん変貌していく・・・」


 平井総理の眉間にシワが寄る。


 続いて、中SAMが水玉の中で爆発し、大量の水を飛び散らせる映像が流れる。


「コレ、もう決まりだろう。

 陸自の見解は?」


「映像を見る限り『水瓶』の直径はおよそ10m、障害物があると少し形が変わりますが、およそ500tの水を産み出せるであります。

 対して北朝鮮の弾道ミサイルはノドンでも16mあり、全てを包み込む事はできないであります。

 しかしながら、弾頭を確実に水没させれば、少なくともその場で爆発か不発になると思われます。」


 自衛官として参加していた小林二佐は、緊張した面持ちで解説した。


「それで問題があるのかね?」


「ミサイルの燃料は、爆薬と同義と考えて良いであります。

 弾頭が爆発せずとも、ミサイル本体が爆発しては、弾頭ほどでないにしても、被害は免れません。」


「つまり、この方法でも、完全には防げないという訳か。」


「鈴木殿1人では無理かもしれないです。

 よって陸自としては、全隊員に魔法を習得させ、24時間体制で警戒にあたるべきと愚考します。」


 小林二佐は、難局を乗り切ったと、思わず深いため息をついた。


「しかし、それでは魔法習得者が大量に出てしまう。

 社会の秩序が乱れてしまうぞ。」


 総理の胃が悲鳴を上げている。

 魔法習得者が何万人もいたら、この日本はどうなってしまうのか、見当がつかない。


「そういえば、鈴木元太はどうしてるんだ?

 おとなしくして・・・ないような気がするのだが。」


「公安に見張らせてますが、テレビ出演の他に、品川にダンジョンを作ったようです。

 ダンジョンはアパートとして活用するようで、今のところは危険性は無いようです。」


 最後に、『火矢』の魔法で戦車を吹っ飛ばす映像が流れる。


「やはり、魔法は規制した方がいいのでは?」


「総務省としても、規制の方向で動きたい。

 魔法による被害は大きそうだ。」


「防衛省としては容認です。

 そもそも、魔法は個人技能ですから、規制できるのか分かりませんよ。」


「防衛予算が減るなら、財務省も容認だ。」


「経済産業省はどちらとも言えないわ。

 それよりも、彼のダンジョンと異世界の産物に興味があるわ。」


「たまに彼が言ってるオリハルコン電池とかな、どうやらリチウムイオン電池より高性能らしいし。

 文部科学省としては、魔石にも興味がある。」


「ダンジョンの扱いも決めないとまずいか。」


 大規模な変革の予感に胃が痛む平井総理であった。

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