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品川駅から徒歩15分、家賃月5千円の物件

 新富士駅から新幹線に乗った俺は、以前からの計画を実行に移すべく、東京は品川区役所に向かった。


 そこで旧東海道に近い土地を1坪だけ購入した。

 その土地はなぜか細長く、使い道が無い割に300万円もするので、今まで買い手がつかなかったそうだ。

 しかも、相続放棄されたものの、相続財産管理人も、選定した元相続放棄した人も亡くなり、現在宙ぶらりんになっている。


 現在は、近所のゴミ捨て場だ。

 そんな土地をどうするのか。


 もちろんダンジョンを構えるのである。

 今までは、俺個人が自然回復する分のDPしか使えなかったから、ここいらでDPを大量ゲットするのだ。


 ただ、魔力がめっちゃくちゃ濃い地球で通常のダンジョンを作ると、魔物が溢れだすスタンピードを起こしそうな気がする。

 初めは空間型ダンジョンの中で、人が垂れ流してる生気やゴミを吸収する程度にしよう。


 来る途中に廃棄されていた立て看板を立て、そこに空間型ダンジョンを設置した。


 180cm四方の入口だ。


 そこで予想外の事が起こった。

 うっかり立て看板の足を引っかけ、向こう側に倒したのだ。

 でもダンジョンは消えてないし、一緒に倒れてもいなかった。そのまんま空中に浮いてる。

 空間型ダンジョンの入り口って、板に張り付いてなかったの!?衝撃の事実だ。

 どうやら、今までは張り付いてると思い込んでいて、無意識の内に入り口を動かしていたようだ。


 そんじゃ裏側どうなってんだ?

 裏に回り込んでみた。

 そこは表と同じ鏡面で、その先はダンジョンの壁だった。


 これ、もしかしてダンジョンとして拡張できるんじゃないか?

 立て看板をダンジョンに放り込み、ダンジョンの壁を押し込むイメージで通路を作ってみる。


 普通にできました。


 では、リュックの底に作ったダンジョンと同じように、移動は?入り口の大きさの変更は?


 普通にできました。


「これスゲー。」


 まだまだ俺の知らないダンジョンの法則があると思い知ったのだった。


 続いて俺は、北品川にある不動産を訪れた。

 アパート経営の仲介を頼むためだ。


 内容は以下の通り

・家賃

 1ヶ月5千円

・間取り

 6畳の1R

・ガス・水道・電気・通信環境

 なし

・駐車場

 なし

・交通

 北品川駅まで徒歩3分、品川駅まで徒歩15分

・その他

 電波が一切入りません

 窓なし

 完全防音

 物はアダマンタイトの上に置かないと、しばらくして無くなります

 退去時に部屋の補修は不要です


「・・・」


 不動産屋は、しばらく無言だった。

 分かるよ、突っ込み所満載だもんね。


「えーと、家賃5万円じゃなく、5千円か。」


「はい、何しろガス・水道・電気・通信環境無しですから。」


 俺の調べでは、不動産屋の仲介手数料は家賃1ヶ月分だ。

 なので5千円はかなり安い。

 これは不動産屋もやる気が湧かないだろう。


「これで、どうやって生活しろと?」


「それは本人次第ですが、通信と充電以外はどうにかなると思います。」


 俺は不動産屋と一緒に、ダンジョンに向かった。


 入り口は、例によって鏡のようだ。

 普通ならビビるだろうが、不動産屋もテレビを見ていたから、ダンジョンの存在は知っているらしい、さっさと中に入っていった。





 俺はこの町で不動産屋を継いで30年になる。

 この辺も再開発が進み、不動産屋としては少々厳しい時代になった。


 そこに現れた奴が、ふざけた物件の仲介を依頼してきた。

 鈴木元太、テレビに出ていた異世界帰りだ。


 鈴木が出してきた条件を見て、なんぢゃこりゃと頭を抱えそうになった。


 家賃5千円て、アホかこの安さ。


「えーと、家賃5万円じゃなく、5千円か。」


 この辺なら月5万円でも安い、これはあんまりだろう。

 仲介手数料5千円かよ・・・


「はい、何しろガス・水道・電気・通信環境無しで、電波も入りませんから。」


 この部屋の間取りは1Rだが、キッチン無し、トイレはあるが水洗じゃないそうだ。

 売れるのかよこんなの。

 そりゃ不便だろうから安くしたんだろうけどな。


「これで、どうやって生活しろと?」


「それは本人次第ですが、通信と充電以外はどうにかなるかも知れませよ。」


 まあ、コンビニとかあるから、家賃で浮いた分でどうにかなるだろけどな。


 俺は店を嫁に任せて、実際に物件を見に行く事にした。


 現地は店から歩いて3分、本当に近い。

 昨日までゴミ捨て場だったが、テレビで見た通り、本当に鏡が突っ立ってる。

 俺は鈴木の許可を待たず、ダンジョンに入った。

 中はテレビで見た通りそこそこ明るい、曇りの日くらいだ。


「これなら照明はいらないな。」


「はい、寝る時は逆にアイマスクが必要になります。

 あと、温度も常に20度なので、エアコンもいらないですよ。」


 言われて気がついた。

 暑くも寒くもない。

 これなら服装で調節可能だ。


 そうそう、通信がダメだったな。

 スマホの画面を見たら、見事に圏外だった。

 通信環境は本当にアウトか。

 テレビでも言ってたもんな、ダンジョンの入り口はあらゆる電磁波を弾くって。


「各部屋に水道はありませんが、水牢の罠を応用して、水場は作ってあります。」


 入り口からしばらく歩くと、壁から何条も水が流れ落ちていた。

 水汲みには不自由しないだろう。

 下には水が溜まってるので、洗濯はここでできそうだな。

 嫌だったらコインランドリーだ、すぐ近所にある。


「生活用水は汲んでくる物だと割りきれば、そこまで厳しくないですよ。」


 俺は流れ落ちる水に触れてみた。


「冷たっ!」


 ほとんど氷水だ。


「水牢の罠の水温は3度しかないんですよ。

 常温の水も作れますが、水牢の罠以外は水質に問題がかりまして・・・」


「冬は地獄だな。

 これ、冷蔵庫代わりにならないか?」


「あ、いいですねそれ、クレートタイプの宝箱を配置して、冷やせるようにしときましょうか。」


 と言って、鈴木は隙間が多い宝箱を用意した。

 この宝箱は中身が見えるので、探索者が本当に欲しい物だと、罠の可能性があっても、一か八か開けるように仕向ける、欲望を掻き立てるタイプの宝箱なんだそうだ。


 続いて部屋を覗く。

 入り口は例によって鏡張りだ。

 それが10cmくらいの間をあけて並んでいる。

 ばっと見で入り口は左右2ヶ所、つまり4部屋か。


 その内の1つに入ると、そこは部屋ではなく、またしても廊下だった。

 左右合わせて入り口が6ヶ所、こちらは普通の扉だったが、扉を開けるとそこはおなじみの鏡だった。


「4✕6で24部屋あるのか?」


「いえ、最初の入り口を反対側から入ると、同じ構造になってますから、さらに2倍で48部屋です。

 盛況なら、いくらでも増やせますよ。」


「つまり、満室にならないのか。」


 仲介手数料5千円は安いが、紹介すればするだけ手数料が入るのか。

 店から3分だし、そんな手間でもないかもな。


 部屋の中は壁や床がむき出しの状態で、黒い板が何枚か置いてある。

 アダマンタイトの板だそうだ、結構薄いのに全く曲がらない。


「アダマンタイトって、あのゲームに出てくるアダマンタイトか?」


「うん、生物以外でダンジョンに唯一吸収されない物質なんだ。

 これを敷かないと、家具がダンジョンに吸収されちゃうんだ。」


 なるほど、確かに『物はアダマンタイトの上に置かないと、しばらくして無くなります』と書いてあったな。


 後変わった所は、左奥に扉があるだけだ。


「あの扉は?」


「便所です。

 ちなみに、捨てたらダメな物はありませんから、便所と言いつつ、実際はゴミ捨て用の穴です。」


 聞いてはいたが、便所は水洗ではなく和式だった。

 これはマイナス要素だ。


「細かい飛沫とかはダンジョンが吸収するので、便所掃除は基本しなくても大丈夫です。

 正直便器なしでもいいんですが、床に直接だと抵抗ある人が多いですからね。

 臭いもしますから、便器の中はけっこう深めにしてあります。」


「人間が落ちた場合は?」


「一応ハシゴがありますが、幼児だとまずいですね。

 汲み取り式便所に落ちた場合と同じになるでしょうか。

 後は入居者の工夫次第ですね。」


 飯はコンビニ弁当でもいいかもしれないが、バスルーム無しはきつい。


「バスルームは無しか?」


「そういえば忘れてました。

 俺は『掃除』の魔法で全身きれいにしてましたからね。

 となると、多分共同浴場が必要になりますね、後で作りましょう。」


 風呂は共同浴場になるようだ。


 これで月5千円か。

 品川駅まで徒歩15分なら、貧乏人なら食いつくかな。


「ところで、ここはダンジョンだよな。

 スライムとか出さないのか?」


「ああ、それね。

 DPが必要になると思うから、入居者数次第かな。」


「もしかして、DP集めるために低価格にしたのか。」


「うん、俺にとって重要なのはダンジョンを成長させるためのDPだから、家賃は税金を払えるだけ集まればいいんだよ。」


 DPってのは、ダンジョンに関するあらゆる操作に必要なポイントってテレビで言ってたな。

 当然、このダンジョンを作るのにも使われているはず。


「ん?テレビで作ったダンジョンて、もっと小さくなかったか?

 確かあまり大きいのは作れないって言ってなかったか?」


「ええ、俺だけなら作れないですよ。

 でもこの辺のゴミを全部突っ込んで、ご近所の皆さんにもゴミを捨ててくれるようにお願いして、それをDPにしたんです。」


 そういえば、ここは元々ゴミ捨て場だったか。


 ダンジョンの入り口まで戻ると、来た時には気がつかなかったが、鏡の入り口の両側には何も無く、裏側に回れるようになっていた。

 反対側も今までと同じような光景だ。


 入り口の近くには、1m四方の穴が開いていて、そこからゴミを投入するのだそうだ。

 本当はダンジョン内ならどこでもいいんだろうけど。


 ゴミの日など無くいつでもウェルカム、掃除当番も不要、なので近所では歓迎されてるそうだ。


「ここ、俺も利用していいのか?」


「はい、誰でも大丈夫ですよ。」


 だいたい分かった。

 一番の問題は通信が壊滅的にダメな事か。

 次いで電気だが、そもそも照明と空調に電気はいらない。

 通信が壊滅的にダメだから、インターネットもテレビも意味が無い。

 冷蔵庫が使えないのは痛いが、コンビニやスーパーが近いから、何とかなりそうな気もする・・・ん?


「なあ、今思ったんだが、各部屋は独立したダンジョンだよな、だったら冷蔵庫は温度が低いだけの小さいダンジョン作れば良くないか?

 そうすれば氷水で冷やさなくてもいいんじゃないか?」


「ああっ!その手があったか!!

 早速実装しよう。」


 即興で作った冷蔵庫は、入口が鏡だから中が全く見えないという欠点はあるものの、中に首を突っ込めば何があるのか分かった。

 慣れれば使えそうだ。

 いやいや、電気代0円は大きなセールスポイントか。


 生活はできそうだ。

 ゴミ出し自由で分別不要とか、完全防音とか、他の物件には無い利点もある。

 本当に電気を使いたい人は、充電済みのバッテリーを持ち込む方法もあるから、どうにかなるだろう。


 無限に部屋を増やせるなら、これはチャンスかも知れない。


 俺は改善点をいくつか提案して、仲介を引き受ける事にした。

 言葉のチョイスがおかしい場合も、誤字脱字報告でお願いします。

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― 新着の感想 ―
ちょいと気になる事があります。 異世界ファンタジーならご都合主義ですで流せますが、この小説のジャンルによってはアパート経営で矛盾が存在すると思いました。 ・消防法を満たす為の申請と許可  ・建築基準法…
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