東富士演習場
東富士演習場、そこは富士総合火力演習が行われる事で有名だ。
今日は防衛省による検証なので、報道陣は全てシャットアウトとなった。
「本日案内を勤めます小林二等陸佐であります。」
「鈴木です。
今日はよろしくお願いします。」
用意された乗り物は、深緑でなぜか布張りの四輪駆動車だった。
「小林二佐、何で自衛隊の車は布張りなんですか?」
「敵に発見されにくくするためであります。」
小林二佐によると、陽光などの反射で敵に発見される事があるので、布張りにしてるそうだ。
深緑色のガムテープ張れば、安いし梱包にも使い回せると思うんだけどな。
「鈴木殿、到着であります。」
俺の疑問を言う前に、現地に到着してしまった。
現地は高さ1m厚さ50cmほどのコンクリート板が10数枚と74式戦車が1両、数km離れて03式中距離地対空誘導弾を3発背負った車両が1両待機してる。
その他に記録要員がカメラや電子機器を設置している。
「まずは、『雷撃』の魔法を普通に撃ってみます。」
『雷撃』の魔法は、当然ながら攻撃魔法なのだが、俺の場合は携帯を充電するために使っていた。
もちろん携帯にそのまま打ち込むと壊れるから、一度オリハルコン電池にブッ放し、蓄電してから携帯に充電していた。
なので、攻撃に使うのは、これが初めてである。
『雷撃』を放った瞬間、爆音とともに厚さ50cmくらいのコンクリートでてきた的が、一撃で割れてしまった。
計測の結果、本物の雷より威力が高かった事が分かった。
これはもう、オリハルコン電池では耐えられそうもない、おとなしくコンセントから充電しよう。
「確かに、これならミサイルを撃ち落とせそうであります。」
「今思ったんですが、『雷撃』がミサイル本体表面を流れて、空中に逃げるとかないでしょうか?」
航空機など、雷が落ちても機体表面だけ電気が流れて、空気中に放電され、ダメージを受けないと聞いた事があったので小林二佐に聞いてみた。
「昔の航空機については、その通りであります。
しかしながら、最近の航空機やミサイルは軽量化のため、カーボンファイバーやプラスチック、強度が不要な部分は紙が使われている事もあります。
ゆえに、雷の直撃で機体がダメージを受ける事はあります。」
「そうなんだ。」
「当然ながら、雷を受ける事は想定されて設計されているであります。
しかしながら、ミサイルは消耗品のため、航空機ほど雷対策がなされていないであります。」
つまり、『雷撃』でもミサイルを落とせると。
では戦車はどうか?
確か複合装甲を使ってるって聞いたけど。
「戦車はどうですか?
複合装甲って、電気流れない素材も使ってますよね。」
「戦車に『雷撃』は効果が薄いと思われます。
詳細は軍機でありますので言えませんが、一般的に複合装甲は、金属とセラミックを何層も重ね合わせた構造になっているであります。
その内の一枚に電気が流れ、地面に逃げて終わりとなります。」
試しにと74式戦車に『雷撃』を放ったが、小林二佐の言うとおり、戦車本体にダメージは無かった。
ただ、当たり所が悪いと、通信機が故障する事が分かった。
小林二佐は「10式にはサージ対策が必要か・・・」と呟いていた。
続いて『火矢』の魔法を試し撃ちしてみる。
異世界では、30cm程度の火の矢だった『火矢』は、地球では5mを優に越えていた。
ブッ放した『火矢』は、いきなり500m先の的を木っ端微塵に粉砕した。地面までえぐれている。
計測の結果、速度はマッハ20を越えた。
しかし・・・
「これも危なすぎる。
でも、ミサイルの撃墜は無理そうだ。」
「誘導無しで飛行物に当てるのは、神業でありますからな。」
そう、マッハ20では速度が足りない。
雷と同じくマッハ440の『雷撃』に比べるとあまりにも遅すぎた。
その後も俺が使える魔法を一通り試したが、家事で使うような魔法ですら、歩兵が携帯する兵器の威力を軽く越えていた。
普段使いできないな。
さて、本命のミサイルを破壊できるかだが、まず用意されたのは03式中距離地対空誘導弾通称『中SAM』のミサイル本体だ。
未使用の状態で『雷撃』を打ち込むと、大爆発した。燃料タンクが破裂したらしい。
『雷撃』で破壊可能だ。
続いて演習場の端から富士山に向けて中SAMを撃ってもらったところ、問題が起きた。
『探知』の魔法を使ったので、高速で飛んでくるミサイルは探知できた。
それに反応して『雷撃』を放つ事もできた。
しかし、撃てたのは一発だけで、しかも外れた。
ミサイルは富士山に命中し、勝ち誇ったように爆発音を轟かせた。
あそこは演習場の外じゃないのか?登山道からは外れてるけど、大丈夫だったか?
威力は十分、攻撃も間に合う、しかし当たらない。
そりゃそうだ、ターゲットは何kmも先で、シャープペンシルの芯みたいに細っこくしか見えない(残像含む)。
しかも超音速で飛来するのだ、アレを一発で撃ち落とせたら、静止目標を真剣に狙い撃ちするゴルゴ13の立場が無い。
ラノベなんかで、空に撃てるからと魔法で空を飛ぶ魔物をバシバシ撃ち落とす描写が散見されるけど、あんなの無理だ。
納得できない人は、試しにエアガンで飛んでるカラスでも撃ってみれば分かるだろう、まず当たらないから。
「威力はある、攻撃も間に合う、しかし当たらないでありますか。」
「パトリオットミサイルって凄いんですね。」
あんなもん撃ち落とせないよ。
そもそも、ミサイルを撃ち落とすという考え方が間違いなんじゃないか?
「小林二佐、ミサイルを撃ち落とすのは無理がありそうですよ。」
「うむ・・・ならばどうする?」
「とりあえずラインで結果を関係者に報告して、アイデアを募集してみては?」
小林二佐がラインで報告する間に、俺は別の魔法を検証する事にした。
ずっと試したいと思っていた『装甲』の魔法の強度だ。
・64式7.62mm小銃
1mの距離でも弾き返した。
・手榴弾
無傷
・ブローニングM2
小銃より強い12.7mm弾だが、結果は同じ。
「重機を耐えたでありますか。」
「異世界では、さっきコンクリのターゲットを破壊した『火矢』にも耐えられるから、余裕だとは思ったんだ。」
今度は「砲」のカテゴリーに入るが結果は同じだった。
01式携帯戦車誘導弾から始まり、74式戦車の105mm徹甲弾も弾き返したので、急遽10式戦車も投入されたが、同様の末路を辿った。
「100mの至近距離から放たれた120mm徹甲弾も防ぐでありますか。
かくなる上は陸自の最大火力『12式地対艦誘導弾』を用意するのだ!」
「コラコラ!戦車砲で『装甲』の魔法を破れないのが分かっただけで十分だって。
そもそも戦車砲どころか、ロケットランチャーの時点で、人を攻撃する兵器としては過剰なんだから。」
「確かに。
陸自の装備では『装甲』の魔法を突破するのは無理でありますか。」
「いえ、火炎放射器は時間をかければ効果ありますよ。
後はナパーム弾とか、毒ガスとかです。
お財布に一番優しいのは、絞め技・関節技などの格闘技ですね。」
『装甲』は外部からの衝撃には強いが、熱は若干伝わるのが遅いだけで、普通に火傷する。
「ナパームと毒ガスは禁止されている。
火炎放射器でも即死しないとなると、最も有効なのは、まさかの格闘技でありますか。」
「後、『装甲』の魔法は衝撃を無効化する魔法なので、戦車にひかれたらアウトです。
魔王軍をやっつけた時みたいに、水没っていう方法もありますね。」
と、そこで俺は閃いてしまった。
いかん!どうしてもやりたい。
「小林二佐、乗員を負傷させずに戦車を戦闘不能にする方法を思い付いたんですが、74式戦車で試していいですか?
確かこの後退役の予定なんですよね。」
「それが本当なら構わんが、どうする気だ?」
「その辺の反応を見るためにも、内緒でやります。
あ、でもハッチは開けといてください。
救助要員も配置してください。
戦車が止まったら救助開始です。」
急遽俺の発想で新たな対戦車攻撃の実験が行われる事になった。
これが成功したら、きっと現代戦の様相が一変するぞ。
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