プロローグはいかがですか?
突然だが、みんなは見知らぬ幼女から刃物を向けられたことはあるだろうか?
もし経験者がいたら教えてほしい。
今まさに俺、鬼灯満がその状況下に立っているからである。
刃物を持った幼女は確かな殺意を持った眼差しで、今にもこちらに飛びかかる勢いで息を荒くしていた。
人形のように精巧な顔立ちに反して、腰まで伸ばした髪の毛がボサボサとなって枝分かれしている。
そんなアンバランスな幼女の姿が余計俺の恐怖心を仰がせた。
とはいえ、たかが幼女である。
対して、俺は十六歳の男子高校生だ。
力では負けるはずがないのだ。
むしろ説教してゲンコツでも食らわせて――。
「すみませんでしたあああ!命だけは勘弁してくださあああい!なんでもしますからあああ!」
されど刃物――。
幼女に泣きじゃくりながら土下座をする男子高校生の姿がそこにはあった。
俺である。
「じゃあ……」
ここで幼女が初めて口を開いた。
俺は泣き止み、地に付けていた頭を上げて幼女の顔を覗き見た。
「私のことを、買ってください」
「……………へ?」
幼女の言葉を聞いて、俺は土下座の体勢のまま真顔の幼女を見つめることしかできなかった。